表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様ごはん相談所 ~一膳で、神様の悩みをほどく店~  作者: 秋乃 よなが
第一部 神様に届く味へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/54

第二十一話 おじいちゃんとニンジン


 十二月三十日。霜の降りた朝、台所には出汁の香りが立ち込めていた。今日はお店を休みにして、おせち料理の仕込みをする日だ。三つ編みに割烹着がトレードマークの店主、森山 小春は、お店の台所で、祖父で先代店主の森山 久一(きゅういち)と向かい合ってきた。


「――ついにこの日がやって来たなあ、小春」


 白髪混じりの柔らかい髪に丸眼鏡の久一が口を開く。


「――うん。ついにやって来たね、おじいちゃん」


 おせち料理の仕込みをする日は、一日中台所に立つことになり、それはもう腰と脚の痛みとの戦いになる。去年もその痛みに苦しんだ祖父と孫は、今年も覚悟を決めた。


「よし、始めるぞぉ、小春」


「はい!」


 早速二人で準備に取り掛かる。カウンターの上まで食材が広がっており、おせち料理作りの大変さが伺える。


 まず取り掛かったのは、『祝い肴』と呼ばれる三種類だ。黒豆、数の子、田作りを作っていく。


「黒豆はシワがよらないように、しっかり煮汁につけて煮て、っと」


「そうそう。よく覚えているのぅ、小春」


「塩抜きをした数の子は、合わせ地に漬け込んで。輪切り唐辛子でピリッと大人の味にする」


「出汁とかつお節の味が決めてになるから、丁寧になぁ」


「田作りはしっかりとカラカラになるまで炒めて、しっかり煮詰めたタレと合わせる」


「タレが熱々なうちに一本一本に絡むようになぁ」


 祖父と孫のコンビは息ぴったりで、あっという間に祝い肴が出来上がる。


「手つきが速くなったのぅ、小春や。料理の腕前が上達したのが分かるわい」


「……へへ。おじいちゃんにそう言われると嬉しいな」


『口取り肴』、『焼き物』、『酢の物』、『煮しめ』と調理を進めていく。祖父と孫は去年の思い出や付き人たちの話をしながら、和やかに時間を過ごしていく。


 そうして五段の重箱へ丁寧に料理を詰めて、五段目の重箱は神様からの福を詰めるため、空のままにしておいた。


「やっぱりおじいちゃんの手際はすごいなぁ。どうやったらそんなに綺麗に速く、手が動かせるの?」


「ほっほ。こればっかりは鍛錬あるのみだのぅ。小春もずぅっと料理を続けておれば、知らぬ間に上達しとるよ」


「お店を継いだ当初よりは上達したつもりだったんだけどなぁ。まだまだだなー」


「まだまだこれからじゃ。焦るでない、焦るでない」


 久一は五段重を丁寧に風呂敷に包む。料理を終えた頃には、すっかりお昼を過ぎていた。


「おじいちゃん、お昼ごはん、どうしようか? 何か食べたいものはある?」


「小春の料理ならなんでも食べたいなぁ」


「うーん、じゃあアレにしよう! おじいちゃんがよく作ってくれたやつ!」


 カウンターの奥から持ってきたのは、ニンジンと卵。ニンジンは赤みが鮮やかで、今が旬なのが伺える。


 フライパンにごま油を引いて、細切りしたニンジンをしんなりするまで炒める。みりんと醤油で味をつけ、溶き卵を回し入れる。


「このとき、少しお出汁を入れるのが森山家のポイント」


 全体を混ぜながら卵が固まったら、最後にいりごまを加えて出来上がり。


「じゃーん! おじいちゃんの、にんじんしりしりです!」


「おお! 懐かしいのぅ!」


 二人でカウンターに並んで手を合わせる。おせち料理の残りものも添えれば、立派なお昼ごはんができた。


「「いただきます」」


 祖父に手伝ってもらったこともあり、おせちの味付けはばっちりだ。


「――うん。森山家の味の中に、小春の優しい味がしておいしいなぁ」


 久一のその言葉に、小春の心は温かくなった。小春からしてみれば祖父は絶対的な師匠で、その彼から手放しで褒められたのだ。こんなに嬉しいことはない。


「これなら神様たちも満足じゃろうて。小春に店を任せて良かったわい」


 祖父にそっと頭を撫でられ、小春はくすぐったいような、誇らしいような気持ちになった。


 ほんのりと甘い、にんじんしりしりの味が口の中に広がっていく。


 小春の心もまた、祖父に甘えるように、少し童心に返っていた。


 『神様ごはん相談所』。祖父の思いを引き継いで、今年最後の料理を終えました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ