第二十話 ウマさんとサトイモ
とある田舎にあるひっそりとした小さなお店。三つ編みに割烹着がトレードマークの店主、森山 小春は、店先に暖簾をかけた。
「これでよしっと。今日も元気に営業開始だ!」
ぐーっと背伸びをして、十二月の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。そのとき、背後から声がかかった。
「……お、おはようございます、小春さん」
「あら、ウマさん。おはようございます」
「あ、朝早くからすみません。さ、里芋が採れたので、何か料理にしてほしくて…」
「もちろんですよ。外は寒いですし、どうぞお店へお入りください」
小春に促され、おずおずとお店へ入るウマ。きょろきょろしながらカウンター席に座ると、落ち着かない様子でカウンターの上に里芋を置いた。
「料理のご希望は何かありますか?」
「わ、和食じゃなくて、できれば洋食が良いと主様がおっしゃってて…」
「ふむ、洋食ですか」
小春は少し考える。祖父のレシピにサトイモを使ったグラタンがあった気がするので、グラタンは除外する。
それならばと、小春は三大洋食の一品を思い浮かべた。
カウンターの奥から食材を持ってくる。盆ざるの上に乗るのは、豚ひき肉とタマネギだ。
「まずは、サトイモのマッシュを作ります」
柔らかくなるまで茹でたサトイモをマッシャーで潰していく。茹で上がったサトイモを潰すと、ほわりと土の香りが立った。滑らかになったところで生クリームと塩コショウを入れて、味を調える。
「次に、サトイモを冷ましている間に、肉そぼろあんを作りまーす」
フライパンにサラダ油を引いて、豚ひき肉を炒める。タマネギを加え、砂糖、みりん、醤油と水溶き片栗粉を入れて煮立たせる。豚肉の脂と甘辛い調味料の香りがふんわりと立ち昇り、ごはんが進む匂いが広がる。
「ここからがちょっとおもしろいポイントですよー」
サトイモのマッシュを丸く伸ばし、冷ました肉そぼろあんを包む。そして薄力粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつけたら、熱した油でこんがりきつね色になるまで揚げる。
「……この匂いは…!」
ウマの耳がぴょこんと動く。サトイモと衣が揚がる香ばしい香りが滲んで、ウマのお腹が小さく鳴った。
「あっ、」
「ふふっ。もうすぐ出来上がりますよー」
衣にほど良い色がついたら、油から上げて完成だ。
「お待たせしました、サトイモコロッケです! どうぞご賞味ください」
熱々の出来立てをウマの前に置く。湯気が立つそれを箸で割って、ウマは一口頬張った。
「熱っ、けどホクホクで、中からそぼろあんが…! ふああ…!」
外はカリっと、中はねっとり、さらにごろっと。衣、サトイモ、肉そぼろあんが三段階で楽しめるコロッケだ。
「ふ、普通に肉そぼろを混ぜたコロッケも良いですが、このそぼろを包んだコロッケも良いですね…!」
はふはふと熱さを逃がしながら、ウマがまた一つ頬張る。真ん中から零れる肉そぼろあんが楽しいのか、噛みしめるごとにウマの目尻が下がっていく。
「ウマーい! これ、すっごく好きです!」
いつもの気弱さはどこへやら。ウマは満面の笑みでサトイモコロッケを食べ進めた。
そんな様子を見つめながら、小春はレシピを書き留めていく。自分が作った料理をおいしそうに食べてくれる人がいる。それだけで、小春はこの店を継いで良かったと心から思うのだ。
「さ、最高でした、小春さん! ごちそうさまです…!」
古い銀貨とレシピを交換する。ウマはまだコロッケの熱気に浮かされているようで、頬でほんのりと赤くなっていた。
「……そ、そういえば、新年のおせちを正式にお願いしたいのですが、良いですか?」
「もちろんですよ! どのくらい必要ですか?」
「神様と、ぼ、僕たち付き人の分もお願いしたいから…じゅ、十二人分で」
「承りました。大晦日の日に取りにいらっしゃいますか?」
「う、うん。その予定でお願いします」
おせちの予約をして、ウマは神界へと帰っていく。
「おじいちゃんに、おせちの手伝いをお願いしなきゃな」
その背中を見送りながら小春は、今は隠居している祖父を思うのだった。
『神様ごはん相談所』。冬の匂いといっしょに、あたたかい湯気をお届けします。




