第十九話 タヌキさんと柿
とある田舎にある古民家を改装した小さなお店。店主の森山 小春は、お昼ごはんの片付けをしていた。
「付き人さん、午前中は来なかったなー。もしかしたら今日は誰も来ない日かも?」
手早く片付けを終えて、手拭いで手を拭く。そしてカウンターも綺麗に拭き上げたところで、店の扉が開く音がした。
「いらっしゃいませ!」
「こんちはーっす」
念願の付き人が来たらしい。扉から顔を出したのは、小麦色の狩衣をまとったタヌキだ。ふんわりとした尻尾を振りながら、カウンター席へとやってきた。
「タヌキさん、こんにちは。今日はどうされましたか?」
「うちの庭でおいしい柿が実ったので、小春さんにお裾分けに来たっす!」
「わあ! つやつやな柿だあ!」
カウンターの上に置かれた、鮮やかな橙色の柿。手に持つとずっしりと重みを感じるそれは、ちょうど食べ頃のようだ。
「それと、その柿を主の晩餐に出そうと思うんすけど、何かおすすめの料理はあるっすか?」
「それなら! ちょうど良い食材もあるので、今から作りますね!」
「ぜひぜひ! お願いするっす!」
小春がカウンター奥から取り出してきたのは、一丁の豆腐だ。しかもこの豆腐は、ただの豆腐ではない。
「このお豆腐、この前ウシさんからいただいた大豆で作ったんですよー」
「おお! 手作り豆腐っすか! いいですねー」
豆腐は水切りをして裏ごしたら、炒って香りを出した白すりごまと、砂糖、醤油を混ぜる。
「ごまは一度炒るだけで香りが立つのでおすすめですよー」
柿は歯ごたえが残るように少し大きめの角切りにして、味付けした豆腐と和えれば完成だ。
「新鮮な柿の味を損ねない調理法! 柿の白和えの出来上がりです!」
「わー! 簡単でいいっすね!」
「柿と豆腐は食べる直前に和えると良いですよ。どうぞご賞味ください」
白和えをタヌキに差し出す。一口食べたタヌキは、尻尾をふっくらと膨らませながら、ブンブンと横に振った。
「んー! 柿の甘さと豆腐の豆の甘さが絶妙っす! ごろっとした柿と、ふわっとした豆腐の食感も最高っすね!」
タヌキはパクパクと食べ進めていく。その度に尻尾が揺れるのを見て、小春は思わず微笑んだ。
「白和えなら柿の新鮮さも楽しめますし、献立の副菜にちょうどいいかなと思いまして」
「ばっちりっすよ! まさしくこういうのがほしかったっす!」
「ふふっ。ご要望に添えたみたいで良かったです」
タヌキが食べている間に、レシピをメモに書き留める。それを古い銀貨と交換すれば、タヌキはレシピを懐にしまった。
「あっという間に師走が来るっすねー。また今年も年始のおせちは森山家にお願いすることになると思うっす」
「わあ、ありがとうございます! 今年も張り切って作らないと」
「森山家の味付けは神様やオレたちにドンピシャな味っすからね。一度食べたら病みつきっす!」
タヌキの言葉ににこにこ笑顔の小春。とはいえ、おせち作りは一人ではままならない。今年も祖父と二人でてんやわんやしながら作ることになるだろう。
「小春さん、いつもありがとうっす! また来るっすよ!」
「はーい、いつでもお待ちしております! 気を付けてお帰りくださいね」
タヌキは、近所の神社を通じて神界へと帰って行くのだろう。その背を見送りながら、小春は年末のおせち作りに思いを馳せた。
(そろそろ食材の注文をしておかないといけないなぁ。おじいちゃんと相談してからにしようかな)
久しぶりに祖父と立つ台所。その日が来るのを楽しみにしながら、小春は店に戻ったのだった。
『神様ごはん相談所』。日々の料理はもちろん、季節のイベント料理も承ります。




