第十五話 小春さんと骨董品屋さん
とある田舎にひっそりと立つ古民家を改装した小さなお店。今日はお店が休みの日で、三つ編み姿の森山 小春は、銀貨の交換に出かけるところだった。
神様の付き人たちから支払われる銀貨は、骨董品として、または銀として需要があるらしい。近所の骨董品屋にいくと、現代の通貨と交換してくれるのだ。
(骨董品屋のおじいちゃん、元気にしてるかな?)
前回の交換は三ヶ月以上前だった気がする。先代の久一の頃からの付き合いで、小春にとても優しくしてくれる好々爺だ。
両脇に田畑が広がる道を歩いていく。少し道が狭いので、車が通るときは要注意だ。なんとなく鼻歌を歌いながら歩いてしばらく、大きな一軒家が見えてきた。
(ここは、時々採れ立てのお野菜をくれる農家さんち)
大きな家を超えて歩いていくと、今度は古めかしい一軒家が見えてくる。ここが目的地の骨董品屋である。
「おはようございまーす、森山ですー」
こんな田舎で骨董品屋なんて、どうやって生計を立てているのか分からない。それでも不思議と商売はうまくいっているようなので、なかなかに不思議なお店である。
「おお、小春ちゃんか。いらっしゃい」
店の奥からゆっくりと現れた老人――骨董品屋の店主だ。
「銀貨の交換に伺いました。お願いできますか?」
「はい、もちろんだよ」
付き人から支払ってもらった銀貨をまとめた巾着袋を店主に渡す。店主はいつものように天鵞絨の布を広げ、その上に銀貨を並べていく。そして一枚一枚、小さな鑑定用ルーペを使ってじっくりと観察していく。
(この時間、どきどきするなぁ)
付き人たちからもらったものだ。偽物だったり、質が悪いものが混ざっていたりはしないはずである。そう思っていても、この鑑定中の時間はついドキドキしてしまう。
「うん、今回も質の良い銀貨ばかりだね。どこからこんなものを集めてくるのか、本当に不思議だねぇ」
「……あはは。こういうのが好きな方がお客さんにいらっしゃるんですよね」
店主からしてみれば、この不思議な銀貨の出所は気になるだろう。だが、まさか神様の付き人からいただいていますなんて、信じられるわけもないし、言えるはずもない。
「はい、これが今回の分だよ」
現代の通貨が小春の手元に帰ってくる。こうして森山家の『神様ごはん相談所』は営業ができているのである。『この骨董品屋が閉店してしまった日には、うちの店も続けられないなぁ』と、たびたび思う小春だった。
「そういえば小春ちゃん。最近久一さんを見ないけど、元気にしてるかね?」
「はい。隠居生活を楽しんでいるみたいですよ」
「そりゃよかった。久一さんは昔から不思議な人でね。どこか人間離れしてるようなところがあったから、この年で神隠しにでも遭ったのかと思っちゃったよ」
店主が冗談で言っていると分かっていても、小春には冗談に聞こえないから困る。神隠しとはいかないまでも、何か神様の都合でふらりと姿を消す可能性は否定できないからだ。
――あの、お月見の日の小春のように。
「小春ちゃんみたいに店を継いでくれる孫がいて、久一さんは幸せ者だねぇ。うちも誰か継いでくれないかねぇ」
「……お子さんや、お孫さんはどうですか?」
「全然だめだねぇ。骨董品なんか興味ないみたいで、都会の方に行っちまったままだよ。もし小春ちゃんの知り合いで、骨董品に興味がある人なんかいたら紹介してほしいくらいだ」
「私もここがなくなると寂しいです。もし興味ありそうな人がいたら、声かけてみますね」
小春はそう笑って、店を出た。来た道を戻りながら、骨董品屋の店主との会話を振り返る。
(たしかにおじいちゃんがあんまり外出してる雰囲気はないけど、でもなぜか神界には顔を出してるっぽいんだよなぁ)
付き人たちが時折久一に会ったと話す。お店を引退したはずの祖父が、なぜ神界にいるのか? 小春はその答えを知らない。
「帰ったらお店の掃除でもするかなぁ」
せっかくの休みの日でも、結局小春はお店のことを考えてしまうのである。
『神様ごはん相談所』。これはとある日の小春の休日のお話。




