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新学期|訪問

桜川高等学校、二年A組。これが私の新しいクラスだ。


高校二年生になったばかりの学生にとって、まず気になるのは以前からの知り合いがいるかどうかだろう。たいていは何かしらのつながりが見つかるものだが、残念ながら私には誰もいなかった。


C組からA組に上がった理由?別に特別な理由なんてない。ただ家族に心配をかけまいと思って、成績を気にしただけだ。学校生活で最大の願いは、あと二年間、何事もなく平穏に過ごすこと。恋愛?考えたこともない。私なんかに好いてくれる人なんて、絶対にいないはずだった――少なくとも、彼女に出会うまでは。


「私は佐藤凛。このクラスで“空気”になることを目標にしています。今後は適当に過ごすつもりなので、みんな私を無視してくれて構いません。普段はあまり話さないし、自由気ままにやりたいようにやります。趣味はちょっとオタク寄りで、ゲーム、アニメ、読書、音楽鑑賞、料理作りとかです。」


なるべく他人と関わらないようにしたい。もちろん、クラスメイトと楽しく過ごすのも悪くないけど、正直なところ、私は一人でいる方が好きなんだ。無理にグループに溶け込もうとして、逆に嫌がられるのはごめんだ。


「ちょっと待て。ここはA組だぞ?本気で適当に過ごそうなんて、来るべきじゃなかったんじゃないか?人生を投げ出す気か?」


「先生、人生を投げ出してなんていませんよ!ただ性格的に、こうした方が気が楽だからです。」


「問題児じゃないことを祈るよ。選択は尊重するが、学業はちゃんとやってくれよ。」


白井先生は明らかに不安げだったが、それ以上は言わなかった。


「私が問題児?ありえない!先生こそ、私くらいの性格なら理解してくれるはずでしょう!」


「さっきから何言ってるの、私たちは今日初めて会っただけじゃない!」


「でも、さっきまで私のことを心配してたじゃないですか?」


「教師が生徒を心配するのは当然だけど、だからって出会ってすぐ人を理解できるわけじゃないでしょう。」


「だったら、もっと私を知ってみませんか?もしかしたら、意外な発見があるかもですよ?」


私はにっこりと先生にウインクした。


「やっぱり問題児ね!入学初日に先生をからかうなんて、これからはしっかり監視してあげるわよ!」


白井先生の言葉と共に、他の生徒たちの視線も一気に私に集中した。しまった、完全にやってしまった。まさかこの程度のことで保護者呼び出しなんてされないよね?お願い、もう一度チャンスを……。


「先生、怒らないで。雰囲気を和ませようと思って、ちょっとからかっただけです。それに、先生のような美人に注目されるなんて、私でも幸せですよ。」


「それで許してもらえると思ってるの?絶対に無理!放課後、教室で待ってなさい。ちゃんと話す必要があるわ。」


まずい、逃げられない。何とか対策を考えないと。


「わかりました、先生。お気を悪くなさらず、次の発表に進みましょう。」


私は席に戻ると、白井先生は意味深な視線を向けてきたあと、続けて言った。


「次、藤原さん。」


「藤原綾音です。歌うことが好きで、読書も好きです。皆さんと仲良くできたら嬉しいので、どうぞよろしくお願いします!」


「それだけ?」


「はい、それだけです。」


「では、座っていいよ。」


「はい。」


あっけないほど短い。藤原さんは第一印象からして、純粋な文学少女という感じ。知的な雰囲気と詩的な美しさが漂い、静かに咲く蘭のようで、動くときは清らかな泉のようだ。


「次、橘さん。」


「こんにちは、橘由依です。絵を描いたり、手芸が好きです。皆と友達になれたら嬉しいです。」


「最後、森島さん。」


「初めまして、森島霧子です。美味しいものを食べたり、写真を撮ったり、古い物を集めるのが好きです。人付き合いは苦手なので、どうぞよろしくお願いします。」


橘さんは言うまでもなく、先週会ったばかり。今はさらに輝いて見えるが、あの時とは雰囲気がまったく違う。彼女が通っているのは確か名門女子大のはずなのに、なぜここに?まさか、これが彼女が言っていた「サプライズ」なのか?


森島さんはピンクのショートヘアで、若々しい活力を感じさせる。このクラス、成績が良いのはもちろん、美人も多すぎて、まるで夢を見ているようだ。


「自己紹介は以上。では、次はくじ引きで席替えをします。」


白井先生の声で現実に引き戻される。だが次の瞬間、私は言葉を失った。これは天国?それとも地獄?三人の女子が次々と私に挨拶してきた。


「佐藤さん、よろしくお願いします!」


「佐藤さん、こんにちは~」


「佐藤さん、今後ともよろしく!」


「はい、藤原さん、橘さん、森島さん……」


席替え後、私は後ろから二番目の窓際の席に。前は文学少女の藤原綾音、右隣は金髪のプリンセス・橘由依、後ろはピンクヘアのギャル・森島霧子。


三タイプの美少女に囲まれて、これは何かの間違いじゃないだろうか?まるでライトノベルの主人公みたいだ。クラスの男子たちの視線が攻撃なら、私はもう百回以上死んでいるはず。


“陰キャ計画”は完全に破綻。これからどうやって彼女たちと接すればいい?これから関わるのは避けられない。考えただけで、ストレスがたまる。


「すごい偶然ね。さっき自己紹介したばかりなのに、四人で隣同士になるなんて。こんなに縁があるんだから、連絡先交換しない?」


ギャルの発想はやっぱり違う。私は苦笑いで応じた。


「じゃあ、私が追加しますね。」


「もちろん。」


「いいよ!」


こうして、四人は連絡先を交換した。


「クラスに同姓の人も多いし、名字じゃなくて名前で呼び合っちゃおうかな?」


森島さんの発言に、心臓が飛び出しそうになった。普通、名前で呼ぶのはかなり親しい関係の証。まだそこまで親しくないし、彼女たちも嫌がるだろう。


「私は構わないよ。」


藤原さんは淡々と言った。


「私たち四人の間だけなら、いいと思う。」


橘さんも周囲を見渡しながら頷いた。


「私はもちろんOKだけど、初対面の男子に名前で呼ばれるの、大丈夫?」


疑問を投げかけると、


「全然!凛って、面白いから。」


「凛、もしかして照れてる?」


「別に……でも、凛が一番得してるよね。連絡先ももらったし、名前で呼べるし。もしかしたら、いつか誰かとデートできちゃうかもよ?」


ギャルに完全にやられた。


「言われてみれば、確かに得してるかも。でもデートは無理だよ。そもそも人付き合いが苦手だし、ましてやあなたたちみたいなレベルの美少女となんて、無理無理。」


「じゃあ、私たちが手伝ってあげようか。週末、誰か暇?凛の練習相手になって、一緒にショッピングしてあげて。成功したらごちそうしてね!」


「週末、たまたま本屋に行く予定なんだ。凛も本好きだよね?一緒に行かない?」


橘さんが机に手をつき、私を見つめた。


「もちろん。いつも暇だし、家に引きこもってるより、たまには外に出るのもいいよ。」


「じゃあ決まり!土曜日の朝9時、新宿駅で集合ね。絶対に遅れないで!」


橘さんが微笑む。その瞬間、心が癒された。こんなに優しい女の子がいるなんて……!


あっという間に放課時間。私はソワソワしていた。クラスメイトたちは次々と帰宅し、三人の美少女も私に手を振って別れを告げた。


「また明日!」


「お大事に~」


「バイバイ、自業自得。明日の“デート”、絶対に遅れないでね~」


「女の子を待たせるなんて最低だよ。絶対にしない!」


「そっちの方がいいわ。じゃあ、電話で確認する必要もないわね。」


信じてないな、この人。でも、一週間しか知らないんだから仕方ないか。教室にはもう私一人だけ。待つ時間はますます長く感じられた。


「ごめん、待たせた。新学期で色々忙しくて、今やっと片付けられたの。」


白井先生が息を切らせて、ドア枠に手をつきながら入ってきた。走ってきたんだな。大変だな。


「いえ、先生の方がお疲れ様です。わざわざ私のために来てくれて。」


「佐藤さん、私が何を言いに来たか、わかってる?」


「大体は想像つきます。でも、家に来てもらって家訪問してもらえませんか?いくら話しても伝わらないことってあるじゃないですか。すぐ近くだし、先生が嫌じゃなければ。」


私は立ち上がり、白井先生の前に立って誘った。


「そんなに深刻な話じゃないよ。保護者呼び出すわけじゃないし。」


「誰も保護者って言ってませんよ?私、一人暮らしです。」


「えっ?!それじゃ、何を見にいけばいいの?生活環境?」


先生は困惑した顔で私を見つめた。


「断らなかったってことは、了承ってことで。じゃあ、行きましょう。」


私はそのまま教室を出て行った。白井先生は渋々、その後をついてきた。


15分ほど歩き、一軒の独立住宅の前で止まった。


「先生、着きました。これが私の家です。どうぞ、お入りください。」


先生はまさか、東京の中心部に住んでいるとは思ってもみなかっただろう。車じゃない、徒歩15分だ。


庭を通り、玄関へ。室内靴に履き替え、リビングへ案内する。


「まずは座って休んでください。飲み物は何にしますか?紅茶?コーヒー?それとも水?」


「水でいいわ。それにしても、佐藤さん、家がすごく豪華ね?お金持ちなの?」


冷蔵庫から水を二本取り出し、一つを先生に渡す。


「家庭環境は普通です。この家は借りてるだけ。自分で払ってます。」


「そんなわけないでしょ!高校二年生が、こんな家を借りられるわけない!月15万円はするわよ!」


「まあ、そんなもんかな。20万円です。半年分、先に払いました。引っ越してまだ一週間です。」


「現役高校生にしては、収入がすごすぎるわね。120万円もポンと出すなんて。一体どこからそんなお金が?」


「一階では答えは出ません。二階に行きましょう。来てください。」


私は何も言わずに白井先生の手を引いて、二階へと上がった。


「ここが私の寝室兼仕事部屋です。どうぞ、見てください。」


部屋に入ると、左側には大きな半透明のクローゼット。その奥には薄水色のダブルベッド。両サイドには木製のナイトテーブル。窓側のテーブルにはちょっと高めの棚。


ベッドの向かいには、二つ並べたオープンシェルフ。本でぎっしり。その上にはアニメのフィギュアがずらり。壁には美少女のポスターが貼られ、完全なオタク部屋だ。


「咳咳、それはさておき、窓際を見てください。そこで仕事をしています。主な収入源は小説執筆と動画投稿です。」


私は白いカーテンの前にあるグレーのデスクを指した。巨大なマウスパッドが机全体を覆い、ノートパソコン、スピーカー、ゲーミングマウス。隣にはベージュの小型ソファ。


「凛、私はどこに座ればいいの?そろそろ手、離していい?」


不思議と安心感があり、離したくない。先生の手は柔らかくて、小さくて。


「ここは学校じゃないし、『先生』じゃなくて『葵』でいいよ。椅子は遠いし、ベッドに座ってもいい?」


先生は反論しなかった。もしかすると、顔が少し赤いようにも見える。


「凛、あなた……私のこと、好きなの?」


「……バレたか。」


私はうつむき、声を小さくした。だが、先生は手を離そうとせず、反対の手で私の頭を優しく撫でた。


「あなたの気持ちにどう対応すればいいか、わからない。家に来たのも、正直見学のつもりだった。でも、私はあなたの先生よ。生徒と関係を持つなんて、バレたら終わり。それに、私はあなたより5歳も年上……」


「葵、一目惚れって信じられる?年齢も立場も関係ない。二年後には卒業する。そのとき、私と結婚してくれますか?絶対に、幸せにします。」


私は顔を上げ、彼女の目を見つめた。視線が絡み合い、想いが溢れた。


「いきなり名前で呼ぶのはやめてよ……そんなこと言われても、困るわ!冗談かと思ったら、結婚前提なの?まだ心の準備ができてない。少しだけ、時間をください。」


「わかります。でも、一つ聞きたい。先生って、どうしてまだ独身なんですか?」


「独身なのは、モテないからじゃない。ただ、運命の人に出会ってないだけよ。」


そう言いながら、彼女の目はしっかりと私を見つめていた。


「目を閉じて。何か見せてあげる。」


先生は戸惑いながらも、従った。私はナイトテーブルから、精巧な包みを取り出し、彼女の手のひらに置いた。


「開けていいよ。気に入ってくれるといいな。」


葵はそっと箱を開けた。中には、ダイヤモンドの四つ葉のクローバーのネックレスが静かに光っていた。彼女はしばらく見つめ、そして私を見た。複雑な表情。


彼女の揺らぎを感じ取り、私は続けた。


「葵、四つ葉のクローバーの意味、知ってる?」


「うん。幸運と幸福を運ぶって言われてるわ。」


「正解。じゃあ、四枚の葉がそれぞれ何を表してるか、知ってる?」


私は耳元で優しく囁いた。


「……知らない。」


一瞬の沈黙。彼女は知っているくせに、否定した。


「四枚の葉は、すべて私の想いを表してる。」


「そこまでして、私に何をさせたいの?まだ、何も答应してないのに。」


「構わない。あなたが幸せなら、それが一番。たとえその幸せをくれる人が私じゃなくても。ただ、この想いを、ちゃんと伝えたくて。」


彼女の目から涙がこぼれ、服を濡らした。


「ごめんね……感情が抑えきれなくて。お腹すいてない?夕飯でも食べてから帰らない?食材はあるから。自慢じゃないけど、料理は得意なんだよ。えっ?先生も……?」


「凛、ここはあなたの家。『先生』じゃなくていい。プレゼント、すごく好き。つけてくれる?」


行動で応えた彼女。いつの間にか、彼女も涙で赤い目をしている。私たちの距離は、確実に縮まった。


「つけました。クローゼットの横に全身鏡あるよ、見てみる?」


「いい。あなたのセンスなら、大丈夫。あなたが与えてくれる安心感は、初めての感覚。大人が子供に頼るなんて変だけど、あなたと一緒にいると、本当に心が落ち着く。他に誰も好きになれない。あなたの姿を追って、私はここに来たの。二年なんて、待てるわ。あなたと結婚する日が来るのを、楽しみにしている。……あとどれくらい、一緒にいられるかはわからないけど……」


声は小さくなり、最後の言葉は聞き取れなかった。


「つまり、あなたは私のために、ここに来たの?」


衝撃的だった。想い人が、こんなに私のことを思ってくれていたなんて。


「そうよ。でも、私に見覚えがないのも無理ない。もう三年近く前のことだし、あなたも傷ついてたから。過去のことは、もう少し経ってから話すね。今は、今を大切にしたい。」


白井先生の言葉に、私は過去に何があったのか、ますます気になった。でも、彼女が深く触れないのは、何か理由があるのだろう。今は聞かないでおこう。いずれ、わかる日が来るはず。


「だから、妙に見覚えがあったんだ。でも、一つだけ確信してる。あなたは、私にとってすごく大事な人なんだ。だから――もう、隠さない。」


心の声が、はっきりと聞こえた。


「凛、夕飯は作らなくていい。外で食べよう。ついでに買い物もして。今日から、ここに住むわ。」


「えっ?ここで暮らすって?じゃあ、荷物は?この主寝室以外に、あと三つ部屋あるから、好きなところ使っていいよ。」


「何言ってるの?当然、一緒に住むに決まってるでしょう!この部屋、30平米はあるし、二人で十分余裕よ。」


「でも、一応、血気盛んな男子高校生ですよ?もし我慢できなくなって、変なことしたら……」


「それ心配なの?大丈夫。何をしてもいいから。ただ、優しくしてね。痛いのは嫌だから。」


その言葉に、私は凍りついた。


「葵、本当にいいの?結婚してからの方が……」


「もちろん。私は、あなたのものよ。心配しないで。避妊はちゃんとするから。もう夜だし、ちょっと買い物行って、帰ってから……本題にしよう。」


彼女の想いは、隠さず露わで、私は戸惑いながらも、胸が熱くなった。本当に、ここまでしてくれるなんて。


「じゃあ、出かけよう。歩いて行こう、散歩がてら。」


私たちは十指を交わし、まるで恋人のように、街を歩いた。もともと大人びて見えるし、メイクもあるから、知り合いに会っても気づかれないだろう。


「薬局、あと三時間で閉まるわ。まずは何か食べない?凛、何が食べたい?」


「焼肉どう?久しぶりに食べたいな。」


「夜に焼肉は太るよ!」


先生が体型を気にするので、説得する。


「たまにはいいじゃない。たまの贅沢。」


「しょうがないわね……じゃあ、焼肉にしましょう。」


「葵、痩せすぎよ。いっぱい食べなきゃ。」


「じゃあ、遠慮なくいただきます。楽しみ~♪」


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