第五話 早瀬警察署
綾人は次の日、早瀬警察署に行く。
すると早瀬警察署の前には、志鷹が立っていた。
「志鷹さん」
綾人は声をかけると、志鷹は片手を上げタバコを咥え火をつけたが、苦みを潰したような表情をし、すぐにタバコをすぐにシガレットケースにしまった。
「おぉ。体調はどうだ?」
歩み寄る綾人に志鷹は声をかけた。
(ん?体調?)
綾人の頭に疑問が浮かんだが、すぐに頭に消し去ると、笑みを浮かべた。
「はい。このとおり」
そう言い屈伸をしたり体を捻ったりして見せる。
「志鷹さんは?」
綾人に志鷹は「ふっ」と優しい笑みを浮かべた。
「このとおりだ」
志鷹はぐるぐると腕を回して見せたた。
「ならよかった。そんなら行きますか」
ホッと笑みを浮かべ綾人は警察署に視線を向けた。
「そうだな」
志鷹も警察署に視線を向け2人はスタスタと警察署の入り口に歩いて行った。
2人が受付を済ませ警察署のロビーで待っていると、建物の奥から鴉飛が慌てた様子で2人向かって走ってきた。
「すみません。お待たせしました。こちらです」
2人をエレベーターに案内すると2階のボタンを押した。
誰も無言なエレベーターが2階に着くと、鴉飛は二人をおろすと真っ直ぐ廊下を進んでいった。
いくつもの部屋を通り過ぎその階の一番端まで来た。
(ん?なんだ?この先に何もないぞ)
疑念を抱いたまま鴉飛に視線を注いでいると、鴉飛はそのまま壁まで歩き、そのままスッと通り抜けて行った。
「?!」
非現実的なできごとに二人が目を白黒させていると、不意に鴉飛が壁から顔だけ出した。
「大丈夫です。そのまま通って来てください」
そう告げ、またひょこっと壁の向こうに鴉飛は消えていった。
綾人と志鷹は顔を見合わせた。
「お先にどーぞ志鷹さん」
手のひらで綾人は壁を壁を指す。
「こうゆうのは若いのが先に行くんだろ」
ムッとしたように言い顔を顰めた。
そこでどうしようと、手をこまねいていると
「あ、いらっしゃったんですね。さっ、いきましょう」
背後から声がかかり振り向くとそこには、甘美瑛が立っていた。
甘美瑛は二人の背を押し壁を通り過ぎた。
壁が迫る。綾人は思わず閉じた。
ガヤガヤとした騒がしさに綾人が目を開けた。
そこはいくつも机か並んだオフィスが広がっていた。
「ここは⋯」
甘美瑛は戸惑っている二人の横をすり抜けながらニコリと笑いかけた。
「ようこそ四課へ」
部屋の奥に甘美瑛は歩いていく。
甘美瑛が向かう先には20代後半ぐらいの青年と話している鴉飛がいた。
ふと、鴉飛はこちらに気づき視線を向ける。
鴉飛の視線に気づき青年も視線をこちらに向けた。
「やぁやぁ。御足労いただきありがとうね」
満面の笑みを浮かべ親しげに片手を上げて見せる青年に、綾人と志鷹はお互いに目配せをし近づいた。
「はじめまして。俺の名前は鬼瓦元治。鴉飛と甘美瑛が所属している班の班長をさせてもらっている」
「はしめまして。月見里探偵事務所、所長、月見里 綾人です」
綾人が笑みを浮かべ手を差し出すと、鬼瓦はにカッと笑い手を取った。
「警視庁捜査一課の志鷹です」
「おぉ。同業者か。よろしく」
笑みを浮かべたまま志鷹も手を差し出した。鬼瓦も微笑を浮かべその手を握った。
「さて、今日来てもらったのは話とお願いがあってね。」
そこで鬼瓦は話を区切り二人交互に視線を向け話を続けた。
「まず、君たちは、『異人』って知ってるかい?」
「『異人』」
「ですか?」
二人は交互に言葉をこぼした。
「『異人』って「あの異人さんに連れられて行っちゃった。」の『異人』ですか?」
綾人は軽く童謡を口ずさんだ。
歌を聴いた鴉飛は頷き口を開いた。
「たしかに「異人」とは元々は「別人」や「違う人」という意味で、昔は自分がいた村に来た「宗教者」や「行商人」を『異人』って呼んでいました」
「他にも他の国から来た人を『異人』と呼んでいたよ。さっき歌った「赤い靴」に出てくる『異人さん』はその「外国人」という説があるよ」
相変わらずの笑み口元にたたえ甘美瑛が話を続けた。
「でも、今回の場合の『異人』は世で言う「妖怪」とか「鬼」のことをさすんだ」
鬼瓦の言葉の意味を考えあぐねいていると、鬼瓦は苦笑いを浮かべた。
「⋯まぁ、これは見てもらった方が早いかな」
そう言うと、鬼瓦の細かった体はみるみる屈強な物になり、頭からはメキメキと角が頭から生えてきた。
その異形な姿に恐怖と驚愕で声も出ずただ鬼瓦を凝視する。
すると、隣にいた鴉飛がため息を吐き呆れたように
「班長。2人がびっくりしてますよ」
「いやぁ、驚かせてごめんよ。見た方が早いと思ってね」
メキメキっと鬼瓦は元の青年の姿に戻ると、照れたように頭に手を当てた。
「こんな感じで人間に化けて生きているのが「異人」なんだ」
「ということは、驚かない鴉飛さん、甘美瑛さんも」
志鷹の言葉に綾人は2人に視線を移す。
「はい。私は鴉天狗です」
鴉飛は微笑みを浮かべた。
「僕はアマビエだよ」
「アマビエ?」
志鷹が聞き返す。
「アマビエって病気や豊作を予知するあの?」
「うん。ただ僕の力は予知ではなく治療⋯だよ」
ニコニコと綾人に返した。
「ちなみにあなたも⋯」
志鷹は鬼瓦を見た。
「うぅん。班長は君たちでいう酒呑童子だよ」
「なっ⋯」
「酒呑童子?!」
綾人は素っ頓狂な声を上げる。
酒呑童子。それはかつて京都で猛威を振った最強と謳われた鬼の名前だった。
「そりゃ⋯また」
言葉を失う綾人と呆気に取られる志鷹を見ると、鬼瓦は豪快に笑った。
「そんな取って食ったりしないさ。人間を食べるより焼き鳥片手に日本酒飲んだほうが好みさ」
また人間地味だことを言いながらひとしきり笑うと、鬼瓦は「さて」と続けた。
「話は戻すが、そんな『異人』がやらかした犯罪を取り締まるのが我々、四課の仕事だ。で、最近、妙な報告があってね」
「妙?妙とは?」
志鷹が聞き返した。
「君たち、これに見覚えはないかい?」
鬼瓦が開いた手のひらには白い紙から切り抜かれた人形がのせられていた。
「あぁ!」
思わず叫び綾人は人形を指差した。
志鷹は渋い顔をした。
「どうやら知ってるようだね」
鬼瓦は真剣な表情になった。
綾人は今まで起きたことを話をすると、鬼瓦は黙って聞き聞き終わると口を開いた。
「なるほど。なら君たちにお願いがある。君たちもこの事件の捜査を手伝ってほしいんだ」
「事件⋯とは?」
志鷹の問いに鬼瓦は鴉飛と目配せをすると、鴉飛は警察手帳を開いた。
「今年の7月26日に女性が路地裏で臓器を喰われた状態で発見されたのがはじまりです。その2日後の7月28日に男性会社員が殺され、そこからなぜか8月、9月と鳴りを潜め10月1日に1件、11月6、13、20と立て続けに起き、今月に入ってからも3日と11日と2件同様の手口の事件が起きています」
「な⋯るほど」
短く呟くと志鷹は俯き考え込んだ。
「どうかしましたか?」
「いや⋯」
志鷹は綾人に答えると、また眉間に皺を寄せ物思いにふけりはじめた。
「で、お願いというのは」
綾人は鬼瓦に視線をスライドさせた。
「この事件に鬼が関わっているようなんだが、登録されてる鬼には皆アリバイがあってね。で、調べていたら神社て君たちと会ったというわけさ」
「なる⋯ほど」
チラッと志鷹は綾人を見た。
「なんです?」
「いや」
志鷹は鬼瓦を見た。
「私も協力しましょう」
志鷹はまっすぐ鬼瓦を見た。
「それはありがたい。月見里くんは?」
鬼瓦は綾人に視線を向けると、綾人は頷いた。
「もちろんです」
「ありがとう。では、二人にこれをわたす」
そう言い二人に警察手帳をわたした。
「これで調査を頼んだよ。⋯とはいえ」
鬼瓦は窓の外を見た。
いつの間にか外は日が暮れていた。
「今日はこれくらいにしよう。また明日、来てくれ」
「わかりました」
綾人は頷いた。
「お疲れ様でした」
志鷹も短く挨拶をした。
そして2人は早瀬警察署をあとにする。