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呪鬼 花月風水~月の陽〜  作者: 暁の空
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第三話 緑葉高等学校

綾人は勢いよく跳ね起き、激しく肩で息をした。

体中に嫌な汗をかいている。


「⋯夢⋯か?」


確認するかのように呟くが、夢にしては、雨が顔に当たる感覚、濡れた服が体にへばりつく感触、全てがあまりにリアルに思える。


「⋯考えても仕方ない」


綾人は、何とも言えない気持ち悪さを抱えながらベットをおり出かける支度をはじめた。



緑葉高校の校門前。


「さて⋯どうやって中に入りるかな。電話では話すことはないって言われたんだよなぁ」


綾人は困ったように頭を搔く。


「⋯お前なんでここにいる?」


背後から聞き覚えのあるどこか冷たさを感じる低い声を聞き綾人は、嫌そうに顔を顰め後ろを見返る。

案の定、そこには志鷹が怖い顔をして立っていた。


「そりゃ調査に。もしかしたら、いじめられていた事が彼が失踪した理由に繋がるかもしれませんし」

「失踪?」


志鷹の眉間の皺が濃くなった。


「なるほど。彼女の依頼理由はそれか」

「それは言えませんよ。」


綾人はニンマリと笑う。

志鷹は、しばらくジッと綾人を見つめるが、身を翻し学校に入っていった。


(とは言うものの⋯どうするか)


綾人は頭に手を当て少し考えるが、やがて小さくなる志鷹の背中を追いかけると、数歩後ろを歩いて行く。


学校の中は放課だからか、ちらほらと廊下を生徒が歩いている。

2人とすれ違うと不思議そうな視線を生徒たちは2人向けてきた。

視線を浴びながら2人は2階にある校長室へ行った。


志鷹は綾人を一瞥すると、校長室のドアをノックした。


「失礼します。お電話した高西警察署の志鷹です」

「はい。どうぞ」


中からの声にガチャリと志鷹は校長室の戸を開けた。


「失礼します」

「失礼します」


志鷹に続き綾人が中に入ると、そこには、いかにも「校長室です!」といった黒いスーツに身を包んだ丸々とした男性と、グレーのスーツを着た少しオドオドした細身の女性が男性の隣に立っていた。


校長は2人を見ると愛想のいい笑みを浮かべた。


「どうもどうも。よくお越しくださいました。(わたくし)はこの緑葉高等学校の校長をしております桑原とと申します。」


校長室にある来客用の椅子に2人を案内すると、校長は自己紹介をした。


「急な連絡なうえお忙しい中、お時間頂きありがとうございます。高西警察署の志鷹です。あと、こちらは」


志鷹は綾人に視線を向けた。


「月見里探偵事務所の所長をしています。月見里 綾人です」

「探偵ですか⋯」


怪訝そうな眼差しを綾人に向ける桑原に綾人は内心、苦笑いをした


(まっ。なんで探偵がって反応だよな)


返答に迷っていると、志鷹は愛想のいい笑みを浮かべ口を開いた。


「ちょっと今回の捜査に協力してもらっていまして」

「あぁ。なるほど。失礼しました」

「いえ」


桑原に綾人はニコリと営業スマイルを浮かべる。


「それから、こちらは吾妻光輝くんの担任の鈴木花子先生です」


桑原に手で指し示されたスーツを着た鈴木先生はぺこりと頭を下げた。


「で、えーっと吾妻くんのことですよね。吾妻くんは成績は普通ですが、とても大人しい生徒でトラブルを起こすような子ではなかったのですが⋯。まさか家出をするとは⋯」

「家出?まだそうとは決まっていませんよ」


「家出」と決めつける桑原に対する怒りを押さえながら綾人はニコニコしながら返す。


不躾(ぶしつけ)な質問で申し訳ないのですが、光輝くんがいじめらていたという話がありましたが、実際のところはどうでしたか?」

「イジメ⋯ですか」


桑原は額をハンカチで拭った。


「いえ、そのような事実はありませんが。⋯そうですよね鈴木先生」


笑みを浮かべ弾圧的に桑原は言うと。鈴木先生は「はい」と、まるで蚊がなくような声で返事をし視線を落とした。


(·····これはなんかあるな)


綾人が校長に目を向けると、校長はまた顔をハンカチで拭き話を続けた。


「ということですので、誰から聞いたかわかりませんがそのような事実はありません。他に何かありますか?なければお帰りください」


桑原は捲し立てると、2人を校長室から追い出した。


「あの様子だと絶対なんかあるな」


綾人は閉まった扉を睨みつける。


「まっ、学校の「名誉」·····って物が大切なんだろ」


志鷹は首に手を当てた。


「····名誉ねぇ。そのくだらない大人の事情に子供を巻き込まないでほしいけどな」


綾人は不平を紡と頭を掻く。


「同感だ。行くぞ」


ポツリと志鷹は同時すると、1櫂におりる階段へ歩いて行った。

綾人は志鷹の意外な一言に目を丸くするが、すぐに志鷹の後を追う。


1階の夕日が差し込む廊下にどこか懐かしさを覚えていると


「⋯カタシロさま⋯に⋯の」


ボソボソとどこからか話し声が聞こえた綾人は歩みを止め、辺りを見渡す。


「どうした?」


足を止めこちらを見る志鷹に綾人は唇に指を当てて見せた。

また辺りを見渡すと、ツカツカと教室の1つに近づくきドアを開けた。


夕日が差し込む教室で、2人の女子生徒が驚いた表情でこちらに視線を向けた。


「誰?」

「不審者?!誰か呼びますよ」

「まったまった!」


いまにも叫びそうな2人に綾人は足早に近づいた。 


「俺たちは怪しいもんじゃない!」


言葉に説得力がないことに気づきながら綾人は女子生徒たちに手を振って見せる。


「高西警察署の志鷹だ。こっちは探偵の月見里だ。ちょっと話を聞きたいんたがいいか?」


そう言いながら近づく志鷹はどこか楽しげだ。


「何を話したらいいですか?」


女子生徒2人は顔を見合わせると、おずおずと尋ねた。


「吾妻光輝くんのことを聞きに来たんだが·····何か知らないか?」


すると、女子生徒たちは首を傾げたあとに横に振って見せた。


「すみません。私たち1年生なのでちょっとわからないです。ねっ」


彼女は確認するように、隣の友人を見た。


「うん。ごめんなさい。私も何も⋯」


見られた女子生徒はそう言うと俯いてしまった。


「なら、カタシロさまについては?」


綾人の質問に2人は驚いた表情をしたあと、罰が悪そうな表情を浮かべ教室の外を気にし出した。


「大丈夫だ。先生には言わないよ」

「本当ですか?」

「あぁ。探偵にも個人情報保護を守らないといけないからな」


ニッと綾人は笑う。


「カタシロサマ」は」 


おずおずと生徒の1人が口を開いた。


「去年当たりから流行りだした人を呪う方法で、まず、この近くにある廃神社で「カタシロサマの使い」って人から「ヨリシロ」?をもらうんです」


その後をもう1人が続けた。


「その「ヨリシロ」に呪いたい相手の名前を書いて4日間持って5日目にヨリシロをもらった神社の御神木の下に埋めたら「カタシロサマ」が名前を書いた相手を呪ってくれるんです。ただ、ヨリシロを埋めているところを見られたら、逆に呪い殺されてしまうらしいです」


(なんだかすごい話になってきたぞ)


綾人が頭に手を置き質問をしようと口を開いた時。


「こら!!あなたたち!何してるの!下校時間はとっくに過ぎてるわよ!」


綾人がギョッとしてふりむく。

そこには夕日をバックに腰に手を当てた鈴木花子先生が立っていた。

先生を見た女子生徒たちは慌ててカバンを掴み教室から出ていった。


「もー、あの子たちったら」


鈴木先生は脱兎のこどく逃げて行った生徒たちの背中を見送り振り返った。


「すみません。ご迷惑かけませんでしたか?」

「いえ。貴重な話を聞かせてもらえました」


志鷹の返答に鈴木先生はニコッと笑みを浮かべた。


「そうですか。あの⋯先程のイジメの話なんですが⋯」


そう言い鈴木先生は廊下を確認した。


「先程、校長はイジメはないと話していましたが⋯本当は違うんです。吾妻くんは本当は男子生徒2人にイジメられていたんです。」

「そのいじめていたのは、沢辺くんと宮下くんですか?」


鈴木先生は、ハッとして聞いた志鷹を驚いた顔で見た。


「なぜそれを·····」

「申し訳ないですが、それは捜査秘密なので」

「そうですか⋯」


独り言のようにぽつりと言うと、鈴木先生は俯いた。


「校長はこのイジメのことは口外するなと口止めされていたので、ご両親にも話すことができなくて⋯」


目を伏せていた鈴木先生はキッと顔を上げた。


「本当にあのタヌキ校長は!自分の保身しか考えてなくて!生徒をなんだと考えているのかしら!!」


ワナワナと拳を握る鈴木先生の首がヒュルヒュルっと伸びはじめた。

目の前で起きている非現実的な事態に頭の処理が追いつず、固まっていると。


「あ、やだ私ったら」


鈴木先生はハッと我に返り恥ずかしそうに顔を両手で覆った。


「すみません!!今のは忘れてください!」


そう言い鈴木先生は、逃げるように教室から走り去っていった。


「なんだ⋯今の⋯」

「さ⋯さぁ」


綾人は目を丸くしながら、廊下をみていた。


「と⋯とりあえず帰りますか」


志鷹に視線を向ける。


「そ⋯そうだな」


志鷹は驚愕の表情を浮かべながら呆然と立ち尽くしていたが、ボソリと言った。


そして2人は、学校をあとにした。

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