プロローグ
プロローグ
月見里綾人は冬が深まった灰色の空の下、お盆以来帰ってきていなかった実家を見上げていた。
(小言⋯言われるよなぁ)
よくもそんな沢山の候補が見つかるなと思うぐらい毎週のように見合い写真が母親から綾人のSNSに「この子ならどう?」とメッセージと写真つきで送られてきていた。
それに少々うんざりして無視していたのも実家から足が遠ざかっていた一因でもあった。
「ハクション!」
11月の寒さは綾人の体を冷やすには十分だった。
「はぁ」と白い息混じりの盛大なため息をつくと、諦めと覚悟を胸に家のカギを回した。
「お帰り!もーあんたなんでメッセージ無視するの!」
そんな小言混じりに母親が出迎えてくれると思っていたが、綾人の思いに反して家の電気は消えシーンと静まり返っていた。
(あれ?買い物か?)
訝しげに玄関を上がると、綾人は何かネチョッとした水気がある物を踏んだ。
「うぉっ!なんだ?⋯電気電気」
驚きながら壁を手探りし、パチリと電気のスイッチを押し視線を落とした。
視線の先には赤い水溜まりがあり、それは点々と家の奥に続いていた。
(なんだ⋯これ?⋯血か?)
綾人が小さな水溜まりを目で追っていくと、それはリビングへと続いていた。
異様な不安感を胸に、綾人は血痕を辿りリビングへ行き、恐る恐る扉を開けた。