ラウンド4・後半:「敵を知り己を知れば百戦殆うからず~ライバル、敵将について~
(前半のナポレオン皇帝とチャーチル首相の重厚な議論を受け、スタジオには一層深まった知的な緊張感が漂う。あすかが静かに後半の開始を告げる。)
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、ラウンド4『敵を知り己を知れば百戦殆うからず~ライバル/敵将について~』、後半戦をお届けします。」
あすか:「前半は、ナポレオン皇帝陛下が語るウェリントン公という戦術上の好敵手、そしてチャーチル首相が語るヒトラーというイデオロギー上の宿敵についてお伺いしました。お二方とも、敵の強大さと、そこから得た深い教訓が印象的でした。」
あすか:「さて、後半は、古代世界の征服王、アレクサンドロス大王にお伺いします。大王の輝かしい遠征において、数々の敵と対峙されたことと存じますが、その中で最も手ごわいと感じられた『敵』、あるいは最も印象に残っている相手はどなたでしょうか?」
アレクサンドロス:「(不敵な笑みを浮かべ)フン、我が前に立ちはだかる者は全て敵であり、そしてその全てを打ち破ってきた!だが…あえて一人、我が覇業の前に立ちはだかった最大の壁として名を挙げるならば、それはペルシアのダレイオス3世であろうな。」
あすか:「ダレイオス3世…!アケメネス朝ペルシア帝国の最後の王ですね。イッソスの戦い、そしてガウガメラの戦いと、大王と二度にわたり天下の雌雄を決する戦いを繰り広げました。」
(クロノスにダレイオス3世の肖像(想像図)と、ペルシア帝国の広大な版図を表示)
ナポレオン:「(頷き)ペルシア帝国…当時、世界最大の帝国だ。その王を敵に回すというのは、まさに世界の支配権を賭けた戦いだったわけだ。」
アレクサンドロス:「そうだ。ダレイオスは、広大な領土、無尽蔵とも思える富、そして数十万の兵を動員できる力を持っていた。ガウガメラでは、鎌戦車や戦象まで用意し、万全の態勢で私を待ち構えていた。」
(当時の戦場を思い出すように目を細める)「確かに、その軍勢の威容は凄まじかった。だがな…」
(嘲笑を浮かべる)「…ダレイオス自身は、王としての器ではなかった!」
チャーチル:「と、申しますと?」
アレクサンドロス:「奴は臆病だった!イッソスでも、ガウガメラでも、戦いが決する前に我に背を向けて逃亡した!王たるものが、兵を見捨てて逃げるとは何事か!」
(怒りを込めて)「兵士たちは、王の勇気ある姿を見てこそ奮い立つものだ。王が逃げれば、いかに大軍であろうと総崩れになるのは当然の理よ!」
あすか:「大王は、そのダレイオス3世との戦いから、何を学ばれたのでしょうか?」
アレクサンドロス:「学んだことか…フン、むしろ『反面教師』としたと言うべきか。」
(腕を組み、尊大な態度で)「王とはどうあるべきか、ということをな。王は決して逃げてはならぬ。常に兵の先頭に立ち、勇気を示し、勝利への執念を燃やし続けねばならぬ。ダレイオスの弱さが、逆に私の強さを際立たせたと言ってもよかろう。」
「そして、ペルシアという巨大な敵を打ち破ったことで、このアレクサンドロスに不可能はないと、世界に知らしめることができた。それは、その後の我が東方遠征において、計り知れない力となったのだ。」
チンギス・カン:「(静かに)…敵の弱点を見抜き、それを徹底的に突く。それは戦いの常道だ。だが、大王。巨大な帝国を打ち破った後、その統治は容易ではなかったであろう?」
アレクサンドロス:「(頷き)確かに、ペルシアの広大な地を治めることは、新たな挑戦だった。だが、私は武力だけでなく、ペルシアの文化や制度も受け入れ、ギリシャとオリエントの融合を図った。それもまた、ダレイオスという敵がいたからこそ、考え至ったことかもしれんな。」
あすか:「アレクサンドロス大王、ありがとうございました。最大の敵であったダレイオス3世の弱さから、逆に王たるものの理想像を確信されたのですね。そして、その勝利が新たな統治への道を開いたと…。」
(アレクサンドロスに一礼し、次にチンギス・カンへ向き直る)
あすか:「では、最後に、モンゴル帝国を築き上げられたチンギス・カン陛下にお伺いします。陛下がモンゴルの部族を統一し、そして広大な帝国を築かれる過程で、最も手ごわいと感じられた『敵』、あるいは『ライバル』と呼べる存在はどなたでしたか?」
チンギス・カン:「(しばし目を閉じ、遠い過去を慈しむかのように、あるいは厳しい記憶を辿るかのように沈黙する。やがて、ゆっくりと口を開く)…我が生涯において、多くの敵と戦った。強大な部族の長たち、西夏の王、ホラズムのシャー…。だが、最も我が心を揺さぶり、そして多くのことを私に教えたのは…かつて我がアンダ(盟友)であった男、ジャムカをおいて他にない。」
あすか:「ジャムカ…!幼馴染であり、義兄弟の契りを結んだ盟友。しかし、後にモンゴル高原の覇権を賭けて、最大のライバルとして立ちはだかった人物ですね。」
(クロノスにジャムカの肖像と、若き日のテムジンとジャムカが共に過ごす様子のイメージ画を表示)
ナポレオン:「(興味深そうに)盟友が、最大の敵となるか…それは、いつの時代にも起こりうる、最も悲劇的な対立の一つだな。」
チンギス・カン:「ジャムカは、勇猛さにおいても、知略においても、そして人々の心を掴む魅力においても、決して私に劣ってはいなかった。」 (声に複雑な感情が滲む)「若い頃は、彼と共に多くの困難を乗り越えた。だが…我々が目指す道は、次第に異なっていったのだ。私は、全てのモンゴル部族を一つの旗の下に統一し、揺るぎない法と秩序を築こうとした。しかし、ジャムカは、古い部族の慣習や、自由気ままな生き方を好んだ。」
アレクサンドロス:「(頷き)理解できる。王たる者、時には友情よりも、国家や民のために非情な決断を下さねばならぬ時がある。」
チンギス・カン:「彼との戦いは、他のいかなる敵との戦いよりも、私にとって辛いものであった。」
(目を伏せる)「彼の軍勢は手強く、何度も苦杯を嘗めさせられた。だが、その戦いの中で、私は多くを学んだ。いかにして多様な部族をまとめ上げるか、いかにして敵の結束を崩すか、そして…いかにして非情な決断を下し、それを貫徹するかということをな。」
「最終的に、私はジャムカを打ち破り、モンゴル高原を統一した。捕らえられたジャムカは、潔く私に死を求めた。私は…アンダとしての情を断ち切り、モンゴルの未来のために、その願いを叶えるしかなかった。」(静かに、しかし重い口調で)
チャーチル:「(厳粛な表情で)個人的な情と、指導者としての責任との間で引き裂かれる…それは、リーダーにとって最も過酷な試練の一つでしょうな。しかし、その決断があったからこそ、モンゴル帝国という強大な国家が生まれたのですね。」
チンギス・カン:「ジャムカは、私にとって最大のライバルであり、同時に、私を鍛え上げてくれた最高の『教師』でもあった。彼がいなければ、今の私はなかったかもしれぬ。彼との戦いを通じて、私は、真の指導者とは何か、そして統一された国家の力とは何かを、骨の髄まで理解したのだ。」
あすか:「チンギス・カン陛下、ありがとうございました。かつての盟友ジャムカとの壮絶な戦いと、そこから得られた深い教訓…友情と対立、そして非情な決断の裏にある、帝国創始者の苦悩と成長が伝わってまいりました。」
あすか:「さて、皆様、ラウンド4『敵を知り己を知れば百戦殆うからず~ライバル/敵将について~』、いかがでしたでしょうか?」
(クロノスに各対談者が語った「敵/ライバル」のキーワードを表示:ナポレオン「ウェリントン」、チャーチル「ヒトラー」、アレクサンドロス「ダレイオス3世」、チンギス・カン「ジャムカ」)
あすか:「ウェリントン公の粘り強さ、ヒトラーの狂信的なイデオロギー、ダレイオス3世の王としての弱さ、そしてジャムカという盟友にして最大のライバル…。皆様が対峙された『敵』の姿は様々でしたが、その敵を通じて、戦術を磨き、リーダーシップを学び、自らの信念を確固たるものにし、あるいは己の弱さを知るという、深い学びがあったことが分かりました。」
あすか:「まさに孫子の言う通り、『敵を知る』ことは、巡り巡って『己を知る』ことに繋がるのですね。そして、それこそが、百戦してなお危うからざる、真の強さの源泉なのかもしれません。」
あすか:「白熱した議論、誠にありがとうございました。いよいよ次は、この『歴史バトルロワイヤル』最後のラウンドとなります。皆様が後世に伝えたいメッセージについて、存分に語り合っていただきたいと思います。」