ラウンド4・前半:「敵を知り己を知れば百戦殆うからず~ライバル、敵将について~
(ラウンド3の濃密な議論が終わり、スタジオには新たな期待感が漂う。あすかが落ち着いた声で、次のテーマを提示する。)
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、いよいよラウンド4へと進んでまいります。」
(クロノスに新しい議題を表示。背景には再び孫子の肖像画と、今度は『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』の一節が映し出される)
あすか:「孫子の兵法に曰く、『彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず』。敵の実情と自分自身のことをよく知っていれば、何度戦っても危険に陥ることはない、という意味ですね。」
あすか:「このラウンドのテーマは、まさにこの『敵を知る』ということ。皆様がその輝かしい戦歴の中で対峙された、最も手ごわかった敵将、あるいは勢力についてお伺いしたいと思います。彼らはどのような相手で、どのような点に手こずらされたのか。そして何よりも、その強大な『敵』から、何を学ばれたのでしょうか?」
あすか:「…では、このテーマ、まずは数多の戦場で勝利を重ねてこられたナポレオン皇帝陛下からお願いできますでしょうか?陛下にとって、最も印象深い『敵』とは、どなたでしたか?」
ナポレオン:「(腕を組み、鋭い目で過去を振り返るように)敵か…私の前には、常にヨーロッパ諸国の連合軍という名の『敵』が立ちはだかっていたな。だが、個々の将軍で言えば…」
(少し間を置いて)「…やはり、あの男を挙げねばなるまい。アーサー・ウェルズリー…後のウェリントン公だ。」
あすか:「ウェリントン公!半島戦争、そしてワーテルローの戦いで、皇帝陛下と激しく火花を散らした、イギリスの英雄ですね。」
(クロノスにウェリントン公の肖像画と、ワーテルローの戦いの様子を描いた絵画を表示)
チャーチル:「(満足そうに頷き)おお、ウェリントン公爵!我が国が誇る不敗の将軍ですな。皇帝陛下が彼を挙げられるとは、さすがにお目が高い。」
ナポレオン:「(チャーチルを一瞥し)フン、不敗と言っても、それは結果論に過ぎん。だが、確かに奴は手ごわかった。」
(苦々しげに)「特に、その粘り強さと防御戦術の巧みさには何度も苦しめられた。半島戦争では、彼の指揮するイギリス・ポルトガル軍は、まさに『不沈艦』のようだった。」
アレクサンドロス:「防御戦術か。それは、攻撃を得意とする者にとっては、最も厄介な相手だな。」
ナポレオン:「その通りだ。ウェリントンは、常に地形を巧みに利用し、堅固な陣地を構築した。兵士たちの訓練度も高く、規律も取れていた。そして何より、奴自身が極めて冷静沈着で、いかなる状況でも決して動じない。」
(ワーテルローの戦いを思い出すのか、眉間に皺を寄せる)
「ワーテルローでも…我が軍の猛攻に対し、彼は巧みに兵を動かし、最後まで持ちこたえおった。そして、プロイセン軍の到着という『運』も彼に味方した…。」
あすか:「皇帝陛下は、そのウェリントン公との戦いから、何を学ばれたのでしょうか?」
ナポレオン:「(深く息をつき)…完璧な計画も、時に予測不可能な要素や、敵の粘り強さによって覆されるということだ。そして、いかに優れた戦術を用いようとも、敵将がそれを見抜き、的確に対応すれば、勝利は容易ではないということだな。」
(少し声を落とし)「あるいは…私自身が、長年の勝利によって、敵を侮る心、慢心が生まれていたのかもしれん。ウェリントンは、私に『絶対』はないということを、最も痛烈に教えてくれた敵だったと言えよう。」
チンギス・カン:「(静かに頷き)…敵の強さを認めること、そして自らの内に潜む驕りを自覚すること。それもまた、指導者の務めであろうな。」
あすか:「ナポレオン皇帝陛下、ありがとうございました。宿敵とも言えるウェリントン公から学ばれた教訓、大変重く受け止めました。」
(ナポレオンに一礼し、次にチャーチルへ向き直る)
あすか:「では、続きまして、チャーチル首相にお伺いします。首相が第二次世界大戦で対峙された『敵』は、一個人に留まらず、強大な国家、そして邪悪なイデオロギーそのものであったかと存じます。その中で、最も手ごわいと感じられた『敵』とは、何だったのでしょうか?」
チャーチル:「(ゆっくりと葉巻を口元に運び、しばし沈黙した後、重々しく口を開く)…我が国が対峙した敵は、確かに強力な軍事力を有していました。ドイツの戦車軍団、日本の海軍力…。しかし、私が真に『敵』として認識し、そしてその克服に全力を尽くしたのは、それらを操る邪悪な意志の源泉…アドルフ・ヒトラーとそのナチズムですな。」
あすか:「アドルフ・ヒトラー…!ナチス・ドイツの総統。世界を恐怖に陥れた独裁者ですね。」
(クロノスにヒトラーの演説の映像や、ナチスの鉤十字の旗などを表示。スタジオの空気が緊張する)
アレクサンドロス:「(険しい表情で)独裁者か。自らを神格化し、民を狂信させるような手合いは、いつの時代にも現れるものだな。」
チャーチル:「ヒトラーは、単なる軍事指導者ではありませんでした。彼は、その巧みな演説とプロパガンダでドイツ国民を扇動し、人種差別と暴力、そして際限のない領土的野心を正当化する、恐るべきイデオロギーの体現者でした。」
(苦々しげに)「彼の言葉は、理性ではなく、人々の最も暗い部分に訴えかけ、熱狂的な支持を生み出した。その力は、いかなる兵器よりも恐ろしいものでした。」
ナポレオン:「(腕を組み、冷ややかに)民衆を扇動する才能か…それは、時に軍事力以上の武器となり得る。だが、そのような熱狂は長続きせんものだ。」
チャーチル:「しかし、その熱狂が冷める前に、ヨーロッパは戦火に包まれ、数千万もの命が失われたのです、皇帝陛下。」
(強い口調で)「ヒトラーとその体制が手ごわかったのは、その非人間的な冷酷さと、目的のためには手段を選ばない徹底ぶりでした。そして、彼らが掲げた『新秩序』という名の野望が、いかに世界の平和と自由を脅かすものであったか…。」
あすか:「首相は、そのヒトラーとナチズムという強大な『敵』から、何を学ばれたのでしょうか?」
チャーチル:「(深く息をつき)…まず、悪に対する宥和政策は、決して有効ではないということ。ミュンヘン協定の過ちを、我々は痛いほど思い知らされました。悪に対しては、断固として立ち向かう勇気が必要なのです。」
(拳を握る)「そして、自由と民主主義という価値がいかに脆く、そしていかに守り抜くべき尊いものであるかということ。それは、決して当たり前のものではなく、常に警戒し、戦い取るべきものなのです。」
チンギス・カン:「…異なる思想、異なる神を信じる者たちとの戦いは、確かに根深い。力だけでは、相手の心まで屈服させることはできぬ。」
チャーチル:「まさに。ヒトラーとの戦いは、単なる国家間の戦争ではなく、文明の価値観そのものを賭けた戦いでした。その経験から、私は、いかなる脅威が現れようとも、決して自由への信念を諦めてはならないという教訓を、骨の髄まで学んだのです。」
あすか:「チャーチル首相、ありがとうございました。ヒトラーとナチズムという、イデオロギーの脅威と戦い抜かれたご経験から得た、自由と民主主義への強い信念…深く胸に刻まれました。」
あすか:「ウェリントン公という戦術上の好敵手、そしてヒトラーというイデオロギー上の宿敵…。お二方のお話からは、敵の姿は様々でありながらも、そこから学ぶべき教訓は普遍的であるように感じられます。」
あすか:「さて、次はアレクサンドロス大王、そしてチンギス・カン陛下にも、その『敵』について伺ってまいりたいと思います。ラウンド4後半も、どうぞご期待ください。」