ラウンド3・前半:勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む~戦略と準備~
(ラウンド2の重厚な雰囲気がまだ残る中、あすかが少し明るい表情で、新たなテーマへと誘う。)
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、ラウンド3にようこそ!」(クロノスに新しい議題を表示。背景には孫子の『兵法』の一節が映し出される)
あすか:「古代中国の偉大な兵法家、孫子は『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む。敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む』。…つまり、勝利する軍隊は、戦う前にすでに勝利を確実なものにしているのであり、敗北する軍隊は、戦いを始めてから勝利を何とか得ようとする、と、前回に言っておられました。」
チャーチル:「前回に…?」
あすか:「(受け流すように)このラウンドのテーマは、まさにこの『先ず勝ちて』の部分、『戦略と準備』です。皆様は、戦いに臨むにあたり、何を最も重要な要素と考え、どのように準備を進められたのでしょうか?情報、兵站、兵士の士気、組織、それとも何か別のものか…。その勝利への周到なる布石について、お聞かせください。」
あすか:「…では、このテーマ、まずはモンゴル帝国を築き上げられた、チンギス・カン陛下にお伺いしたいと思います。陛下にとって、戦う前に勝利を確実にするために、最も重要な要素とは何でしたか?」
チンギス・カン:「(しばし目を閉じ、やがて静かに口を開く)…孫子の言葉、理に適っている。戦いは、博打ではない。始めるからには、勝たねばならぬ。そのためには…『情報』と『規律』。この二つが、我が戦いの根幹であった。」
ナポレオン:「(興味深そうに)情報と規律、か。確かに、どちらも戦いの基本ではあるな。具体的には、どのように?」
チンギス・カン:「まず『情報』。敵を知らずして、どうして勝てようか。」
(指を立てる)
「我らは、戦いを始める遥か前から、商人や旅人、あるいは降伏した者たちを使い、敵国の内情を探らせた。道のり、都市の守り、兵力、将軍の性格、民の暮らしぶり、そして…支配者同士の不和に至るまでな。」
チャーチル:「スパイ網、ということですか。それは現代でも最も重要な諜報活動ですな。」
チンギス・カン:「そうだ。集めた情報は、幾重にも確認し、真偽を見極める。時には、偽の情報を流し、敵を混乱させることもあった。敵が何を知り、何を考え、どう動くか…それを正確に把握してこそ、的確な策を講じることができる。」
(クロノスに、モンゴル帝国の広大な情報網をイメージさせる図が表示される)
「ホラズムとの戦いでも、彼らの内情を詳細に把握していたからこそ、あの広大な国を切り崩すことができたのだ。」
アレクサンドロス:「ふむ、敵を知ることは重要だ。だが、情報は時に古くなり、あるいは偽りであることもある。最終的には、戦場での直感と決断力が物を言うのではないか?」
チンギス・カン:「(アレクサンドロスを静かに見据え)直感も決断も、確かな情報という土台があってこそ生きる。そして、その情報を活かし、軍を意のままに動かすためには、鉄の『規律』が不可欠だ。」
(もう一本指を立てる)
「我がモンゴル軍は、十進法に基づいた千戸制、百戸制、十戸制で厳格に組織されていた。命令は、上から下へ、迅速かつ正確に伝達される。いかなる状況下でも、隊列を乱さず、命令通りに動く。それが、我らの強さの源泉よ。」
あすか:「千戸制…兵士だけでなく、その家族も含めた社会組織でもあったと聞きます。そして、それを支えたのが、モンゴルの法典『大ヤッサ(イフ・ジャサク)』ですね。」
チンギス・カン:「そうだ。ヤッサは、モンゴル人全てが従うべき掟。裏切りや逃亡、略奪の禁、上官への絶対服従…。これらを破る者には、厳罰が下される。規律なくして、強大な軍はあり得ぬ。規律なくして、広大な帝国を治めることもできぬ。」(断言する)
「情報で敵を上回り、規律で自軍を固める。これこそが、戦う前に勝利を近づける道だと、私は信じている。」
ナポレオン:「(頷き)厳格な規律と組織、そして情報網か…確かに、大軍を率いる上でそれは不可欠な要素だ。貴公のモンゴル騎兵が、あれほどの機動力と破壊力を発揮できたのも、その規律あってこそだろうな。」
チャーチル:「個人の勇猛さだけでなく、システムとしての強さ…それは、国家が戦争を遂行する上で、極めて近代的な視点とも言えますな。」
あすか:「チンギス・カン陛下、ありがとうございました。戦いの勝敗は、始まる前に既に大勢が決まっている…そのために、情報と規律を徹底されたのですね。その冷徹なまでの合理性に、帝国の強さの秘密を見た気がします。」
(チンギス・カンに一礼し、次にナポレオンへ向き直る)
あすか:「では、続きまして、ナポレオン皇帝陛下にお伺いします。陛下は、その卓越した軍事的天才で数々の勝利を収められましたが、勝利の準備段階において、何を最も重視されましたか?」
ナポレオン:「(自信に満ちた表情で)フン、チンギス公の言う情報と規律も重要だが、それだけでは勝てん。私の戦いは、もっと動的だ。」
(指でテーブルを叩く)
「私が最も重視したのは、『兵站』と『機動力』、そして兵士たちの『士気』だ!」
アレクサンドロス:「兵站と機動力、そして士気か。それは、私の戦い方とも通じるものがあるな!」
ナポレオン:「まず『兵站』。古来より言うだろう?『軍は胃袋で動く』と。」
(両手を広げる)
「いかに勇猛な兵士も、いかに優れた戦術も、食料と弾薬がなければ絵に描いた餅だ。私は、兵士たちが常に十分な補給を受けられるよう、兵站線の確保と整備に最大の注意を払った…もっとも、ロシアではそれが裏目に出たがな。」(自嘲気味に付け加える)
あすか:「大陸軍の補給システムは、当時としては革新的だったと聞きます。」
ナポレオン:「そうだ。現地徴発だけに頼らず、事前に補給基地を設け、輸送部隊を組織した。それにより、我が軍は敵が予想もしない速度で進軍し、敵の意表を突くことができたのだ。これこそが『機動力』に繋がる。」
(クロノスに、大陸軍の行軍速度や兵站システムに関する資料が表示される)
「迅速な移動で敵を翻弄し、戦力を集中させ、敵の弱点を的確に突く。我が砲兵隊の集中運用や、騎兵による追撃も、この機動力あってこそ最大限の効果を発揮する。」
チャーチル:「(頷き)補給線の確保は、軍事作戦の生命線ですな。それが伸びきれば、いかに強力な軍隊も脆弱になる。」
ナポレオン:「そして、何よりも重要なのが兵士たちの『士気』だ!」(声を強める)
「恐怖に打ち勝ち、死地に赴くのは兵士たち自身だ。彼らが『勝ちたい』『皇帝のために戦いたい』と思わなければ、いかなる戦略も画餅に帰す。」
あすか:「皇帝陛下は、兵士たちの士気を高めるために、どのような工夫をされたのですか?」
ナポレオン:「まず、『栄誉』だ。勇敢に戦った者には、勲章を与え、昇進させた。レジオンドヌール勲章は、そのために創設したようなものだ。」(胸を張る)
「次に、『報酬』。勝利によって得た富は、兵士たちにも分配した。そして何より…私自身が、常に彼らと共にあるということだ。」(拳を握る)
「戦場では兵士と同じものを食べ、雨風にさらされた。時には、自ら銃を取り、先頭に立つこともあった。皇帝が共に苦しみ、共に戦う姿を見せることで、兵士たちは私を信じ、命を賭けて戦ってくれたのだ!」
アレクサンドロス:「(満足そうに頷き)それだ、ナポレオン!それこそが、王と兵士を繋ぐ最も強い絆だ!私もまた、常に兵の先頭に立ち、彼らと苦楽を共にした!だからこそ、彼らは私を信じ、世界の果てまでついてきたのだ!」
チンギス・カン:「…確かに、指導者が自ら範を示すことは重要だ。だが、感情や勢いだけに頼る戦い方は、危うさも孕んでおる。」
ナポレオン:「フン、感情だけでも、計算だけでも勝てんということだ、チンギス公。その両輪があってこそ、初めて勝利の女神は微笑むのだ。」
あすか:「ナポレオン皇帝陛下、ありがとうございました。兵站と機動力という合理的な準備と、兵士の士気を高めるという人間的な要素…その両面を重視されたのですね。アレクサンドロス大王との共通点も見えてきたように思います。」
あすか:「さて、モンゴル帝国の情報と規律、そしてナポレオン軍の兵站・機動力と士気…。勝利を準備するための重要な要素が語られました。ラウンド3後半では、アレクサンドロス大王とチャーチル首相に、さらに深くこのテーマについてお伺いしたいと思います。」
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、ラウンド3『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む~戦略と準備~』、後半もご期待ください!」