ラウンド2・前半:決断の時~リーダーは何を背負うのか~
(ラウンド1の興奮が冷めやらぬ中、あすかが少し表情を引き締め、落ち着いたトーンで語りかける。)
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、ラウンド2を始めさせていただきます。」
(クロノスに新しい議題『決断の時~リーダーは何を背負うのか~』を表示)
あすか:「ラウンド1では、皆様の輝かしい『最高傑作』たる勝利についてお伺いしました。しかし、栄光への道は、常に平坦ではありません。時には、国家の運命、多くの人々の命、そして自らの信念を天秤にかけるような、困難な『決断』を迫られる瞬間があったはずです。」
あすか:「このラウンドでは、皆様の輝かしいキャリアの裏側にある、その最も困難だった『決断』についてお伺いしたいと思います。その時、どのような状況で、何を考え、何を優先されたのか。そして、その決断がもたらしたものとは…。リーダーが背負うものの重さについて、深く語り合っていただきたいと思います。」
あすか:「…では、この重いテーマ、まずはナポレオン皇帝陛下からお願いできますでしょうか?数々の戦いを指揮された中で、最も困難だった『決断』とは、何でしたか?」
ナポレオン:「(少し考え込むように目を伏せ、やがて顔を上げる)…困難な決断、か。確かに、幾度もあったな。皇帝という地位は、常に決断の連続だ。」
(ふと遠い目をして)「だが…最も多くの血が流れ、そして我が運命を大きく変えた決断と言えば…やはり、1812年のロシア遠征をおいて他にないだろう。」
あすか:「ロシア遠征…!60万とも言われる大軍を率いてのモスクワ進軍。しかし、その結果は…。」
(クロノスにロシア遠征の進軍ルートと、撤退時の悲惨な状況を示す絵画などを表示)
チャーチル:「(静かに頷き)焦土作戦、そして“冬将軍”…。古来より、ロシアの大地は多くの侵略者を飲み込んできましたな。皇帝陛下、なぜ、あれほどの危険を冒してまで、遠征を決断されたのですか?」
ナポレオン:「理由は単純だ。ロシア皇帝(アレクサンドル1世)が、英国との貿易を禁じた大陸封鎖令を破り、我がフランスに対する敵対姿勢を明確にしたからだ。」
(語気を強める)「ヨーロッパ大陸の覇者たる私が、それを許すわけにはいかなかった。ロシアを屈服させ、大陸の秩序を維持するためには、武力による示威行動が必要だと判断したのだ。」
アレクサンドロス:「ふむ、国家の威信と秩序のためか。それは理解できる。だが、貴公ほどの戦略家が、ロシアの広大さ、気候の厳しさ、そして兵站線の問題を軽視したとは思えんが?」
ナポレオン:「(少し不機嫌そうに)軽視などしていない!もちろん、リスクは承知していた。側近たちの中にも反対する者はいた。だが…」
(言葉を探すように少し間を置く)
「…私は、短期決戦で勝利できると信じていたのだ。過去の戦いと同様に、国境付近での決戦でロシア軍主力を撃破し、早期に講和に持ち込めると。我が大陸軍の力、そしてこの私の指揮があれば、可能だと…そう過信していたのかもしれん。」
チンギス・カン:「(静かに口を開く)…兵站を侮れば、大軍は自滅する。兵糧なくして兵は動けぬ。それは、戦いの基本であろう。」
ナポレオン:「(苦々しげに)…ロシア軍の焦土作戦は、私の計算を超えていた。彼らは自国の村や畑を焼き払い、我々に何も残さなかった。そして、モスクワを占領しても、ロシア皇帝は降伏しなかった…。撤退を決断した時には、既に冬が始まっていた。」
(当時の光景を思い出すのか、顔をしかめる)
「飢えと寒さ、そしてコサック兵の追撃…あの撤退行は、まさに地獄だった。」
あすか:「多くの兵士が命を落とした、悲劇的な結果となりました…。皇帝陛下は、その決断を、今、どのようにお考えですか?」
ナポレオン:「(やや開き直ったように)決断そのものが間違っていたとは思わない。当時の状況下では、ロシアを屈服させる必要があった。ただ…実行段階での想定外の出来事、運に見放された部分もあった。それに…(少し声を落とし)あるいは、皇帝としての驕りが、私の判断を曇らせていたのかもしれんな…。」(自嘲気味に呟く)
チャーチル:「運命の女神は、時に最も自信に満ちた者にさえ背を向けるものですな。しかし、その代償はあまりにも大きかった…。」
あすか:「ナポレオン皇帝陛下、痛恨の記憶を語っていただき、ありがとうございました。自信と驕り、そして計算外の現実…。リーダーの決断の難しさが伝わってきます。」(ナポレオンに一礼し、次にチャーチルへ向き直る)
あすか:「では、続きまして、チャーチル首相にお伺いします。首相が指導された第二次世界大戦においても、数々の困難な決断があったかと存じます。最も記憶に残る、あるいは最も心を痛めた『決断』について、お聞かせいただけますでしょうか?」
チャーチル:「うーむ…(しばし考え込み、葉巻をゆっくりと回しながら)戦争指導者の決断というのは、常に多くの人々の命に関わる。どれか一つが特別に重いというわけではありませんが…あえて挙げるならば、やはりダンケルクからの撤退を承認した時のことでしょうな。」
あすか:「1940年5月、フランスでの戦いに敗れた英仏連合軍数十万が、ドイツ軍にダンケルクの海岸に追い詰められた…絶体絶命の状況ですね。」
(クロノスにダンケルクの海岸にひしめく兵士たちの写真や、撤退作戦(ダイナモ作戦)の様子を示す地図を表示)
アレクサンドロス:「撤退か。それは、指揮官にとって最も屈辱的な決断の一つだな。」
チャーチル:「おっしゃる通りです、大王。しかも、ただの撤退ではない。我が国の陸軍の主力、いや、国家そのものの存亡がかかっていた。ドイツ軍の包囲網は狭まり、空からは爆弾が降り注ぐ。あの時、我々の前には二つの道しかありませんでした。一つは、文字通り最後の一兵まで戦い、玉砕する道。もう一つは、あらゆる船舶を動員し、一人でも多くの兵士を本土へ連れ帰る道。」
ナポレオン:「戦略的に見れば、兵力を温存し、再起を図るのが当然の判断だろう。玉砕など、無意味な自己満足に過ぎん。」
チャーチル:「(ナポレオンを見て頷き)頭では、そう理解していました。英国本土を守り、戦争を継続するためには、熟練した兵士たちを失うわけにはいかない。しかし…」
(声を詰まらせるように)「…それは同時に、我々と共に戦ってくれたフランス軍の兵士たちや、撤退しきれない我が軍の兵士たちを、見捨てることを意味するのです。彼らを敵地に残し、自分たちだけが逃げる…その決断を下すことの、何という重圧か!」
あすか:「…非情な選択を迫られたのですね。」
チャーチル:「まさに。私は首相として、英国の将来のために、撤退作戦『ダイナモ』の実行を承認しました。海軍だけでなく、民間の漁船やヨットまで動員した、必死の救出作戦でした。結果として、予想を遥かに超える30数万もの兵士を救い出すことができましたが…それでも、多くの兵器を放棄し、多くの兵士を捕虜として残さざるを得なかった。」
(目を閉じ、当時の苦悩を噛みしめるように)「あの時、救えなかった兵士たちの顔は、今でも忘れられません。」
チンギス・カン:「…指導者は、時に一部を切り捨て、全体を生かす決断をせねばならぬ。それが、たとえどれほど非情であってもだ。」
チャーチル:「(目を開け、力強く)その通りです。しかし、その決断の責任は、全て指導者が負わねばならない。ダンケルクの奇跡は、後の勝利への礎となりましたが、その決断に伴う痛みと犠牲を、私は決して忘れることはありません。リーダーとは、栄光だけでなく、そうした痛みをも背負い続ける存在なのですな。」
あすか:「チャーチル首相、ありがとうございました。国家の未来のために、非情とも思える決断を下し、その責任と痛みを背負い続ける…リーダーの覚悟が伝わってきました。」
あすか:「皇帝陛下の、自信ゆえの悲劇的な決断。そしてチャーチル首相の、国家存続のための苦渋の決断…。どちらも、リーダーという立場がいかに孤独で、重いものであるかを物語っていますね。」
あすか:「さて、次はアレクサンドロス大王、そしてチンギス・カン陛下にも、その『決断の時』について伺ってまいりたいと思います。ラウンド2後半も、ご期待ください。」