ラウンド1・前半:我が戦いの最高傑作~勝利の方程式~
(オープニングでの各々の第一声を受け、スタジオには期待と緊張が入り混じった空気が漂っている。司会者あすかが、手元のクロノスタブレットを操作し、議題を表示させる。)
あすか:「皆様、力強いお言葉、ありがとうございました。それぞれの『戦争』に対する哲学、大変興味深く拝聴いたしました。」(にこやかに)
あすか:「それでは、最初のラウンド、核心に迫ってまいりましょう。議題はこちらです!」(クロノスに大きく『我が戦いの最高傑作~勝利の方程式~』と表示)
あすか:「皆様が指揮された数々の戦いの中で、『これぞ我が最高傑作!』と胸を張って誇れる勝利について、お伺いしたいと思います。どのような状況で、どのような戦略・戦術を用い、そして、なぜそれが『最高傑作』だとお考えになるのか。ぜひ、その『勝利の方程式』を詳しくお聞かせください。」
あすか:「…どなたからお話しいただけますでしょうか?…そうですね、では、最も若く、そして最も早くに大帝国を築かれた、アレクサンドロス大王からお願いできますでしょうか?」
アレクサンドロス:「フン、よかろう!」
(待ってましたとばかりに、自信満々に頷く)
「私の戦いは全てが傑作だが、あえて一つ挙げるとすれば…やはり、ガウガメラだな!」
あすか:「ガウガメラの戦い…!紀元前331年、ペルシア帝国ダレイオス3世との決戦ですね。クロノス、当時の状況を表示して。」
(クロノスにガウガメラの戦いの布陣図が表示される。マケドニア軍に対して、ペルシア軍が圧倒的な大軍勢であることが示される。)
アレクサンドロス:「そうだ。見ろ、ダレイオスは地の利を選び、我らの数倍もの兵を集めた。戦車、鎌戦車、不死隊、そして各地から集めた歩兵と騎兵…まさに蟻の大群よ!」
(図を指さしながら、興奮を隠さない様子で)
「普通の将ならば、あの威容を見ただけで震え上がっただろうな。」
ナポレオン:「(腕を組み、興味深そうに図を見ながら)ふむ…確かに、兵力差は絶望的とも言える。ペルシア軍は中央に歩兵、両翼に強力な騎兵を配置した典型的な鶴翼の陣か。貴公はどう動いた?」
アレクサンドロス:「決まっているだろう?敵の最も強いところ、その心臓を突くのだ!」
(力強くテーブルを叩く)
「ダレイオスは中央後方に陣取っていた。ならば、狙うは奴の首、ただ一つ!」
チャーチル:「(葉巻をくゆらせながら)ほう、敵の主力を避けず、真っ向から…?しかし、その大軍勢の中央をどうやって突破すると?」
アレクサンドロス:「そこが私の真骨頂よ!まず、我が右翼を進ませ、敵の左翼騎兵を釣り出す。敵は数に任せて包囲しようとするだろう?」
(布陣図の上で手を動かしながら)
「だが、それは罠だ!」
あすか:「罠、ですか?」
アレクサンドロス:「そうだ!敵の左翼が前に出れば、その中央との間に隙間ができる!その瞬間を逃さず、我が最強のヘタイロイ(コンパニオン騎兵)を楔形に突撃させ、敵陣を切り裂く!あとは、ダレイオスのいる本陣目指して一直線よ!」
(自身の戦術を語る顔は輝いている)
「ダレイオスは恐怖に駆られて逃げ出し、ペルシア軍は総崩れとなった!あれこそ、勇気と速度、そしてこの私、アレクサンドロスの神がかり的な指揮が生んだ、完璧な勝利よ!」
チンギス・カン:「…………。」
(黙って聞いているが、その目はアレクサンドロスの語る戦術の意図を探るように鋭い)
ナポレオン:「なるほど…(顎に手を当てて)敵の側面攻撃を誘い、生じた間隙に精鋭騎兵で突破を図る…古典的だが、見事なタイミングと実行力だ。敵の指揮官の心理的弱点を突いたとも言えるな。しかし、それは貴公のヘタイロイ騎兵が、ペルシアのそれを凌駕する質を持っていたからこそ可能だったのでは?」
アレクサンドロス:「当然だ!我がヘタイロイは、私と共に幾多の死線を越えてきた、世界最強の騎兵だ!だが、それだけではない。兵たちが私を信じ、死をも恐れず突撃したからこその勝利だ!王と兵が一体となってこそ、不可能は可能になるのだ!」(胸を張る)
チャーチル:「リーダーへの信頼と兵士の士気…それはいつの時代も勝利に不可欠な要素ですな。しかし、大王。その勝利の後、あなたはさらに東へと進軍を続けられた。その果てしない征服欲こそが、あなたの原動力だったのでしょうな。」
アレクサンドロス:「世界の果てを見たいと思うのは、英雄として当然の欲求であろう?…まあ、私の話はこのくらいでよかろう。次は誰が語る?」
あすか:「アレクサンドロス大王、ありがとうございました。圧倒的な兵力差を、勇気と戦術、そしてカリスマで見事に覆したガウガメラの戦い…まさに『最高傑作』と呼ぶにふさわしい戦いでした。」
(アレクサンドロスに一礼し、次にチンギス・カンへ向き直る)
あすか:「では、続きましては、広大なモンゴル帝国を築き上げられた、チンギス・カン陛下にお伺いしたいと思います。陛下にとっての『最高傑作』とは、どの戦い、あるいはどの戦役になりますでしょうか?」
チンギス・カン:(ゆっくりと口を開く。その声は低く、静かだが、有無を言わせぬ響きがある)
「…戦いに『傑作』などというものがあるか分からぬ。」
アレクサンドロス:「ほう?謙遜か、それとも…」
チンギス・カン:「(アレクサンドロスの言葉を遮るように)戦いは、始める前に勝っていなければならぬ。始めるからには、徹底的に敵を打ち砕き、二度と刃向かえぬようにする。…あえて挙げるならば、それは一つの戦いではない。」
あすか:「と、仰いますと?」
チンギス・カン:「ホラズム・シャー朝との戦役…あれが、我らモンゴルの戦い方を示したものと言えよう。」
あすか:「ホラズム…!13世紀初頭、中央アジアからペルシアにかけて栄えた大国ですね。モンゴルの使節団が殺害されたことをきっかけに始まった、大規模な復讐戦…。」
(クロノスに当時の地図とホラズムの勢力範囲を表示)
ナポレオン:「(地図を見ながら)ホラズムは広大な領土と多くの都市、そして大軍を擁していたはずだ。貴公らは、当時まだ勃興したばかりの勢力。どのようにして、あの広大な国を打ち破ったのだ?」
チンギス・カン:「まず、『情報』だ。」
(指を一本立てる)
「ホラズム国内の商人や、既に降った者たちから、徹底的に情報を集めた。敵の兵力、都市の守り、地理、そして…支配者の性格や弱点もな。」
チャーチル:「情報戦…!それは現代戦にも通じる、極めて重要な要素ですな。」
チンギス・カン:「次に、『機動力』と『陽動』。我らは軍を複数に分け、異なる経路から同時にホラズム領内へ侵攻した。敵は、我らの主力がどこにいるのか、最後まで掴めなかったであろう。」
(地図上の複数の進軍経路を示す)
「主力と見せかけた部隊で敵を引きつけ、その隙に別の部隊が手薄な都市を急襲する。あるいは、砂漠を迂回し、敵が予想もしない方向から現れる。」
アレクサンドロス:「ほう、敵を欺き、翻弄するか。なかなか面白い。」
チンギス・カン:「そして、『恐怖』だ。」
(静かに、しかし冷徹な響きで)
「抵抗する都市は、徹底的に破壊し、住民にも容赦はせぬ。その噂は、風のように広まる。次の都市の者たちは、戦う前に心を折られる。降伏すれば命は助けるが、裏切れば…その十倍の報復を与える。」
ナポレオン:「(眉をひそめ)…それは、焦土戦術にも似た、徹底したやり方だ。敵の戦意を根こそぎ奪う…合理的ではあるが、苛烈だな。」
チンギス・カン:「戦いに慈悲は無用。目的は、完全なる勝利と、その後の絶対的な『秩序』の確立だ。ホラズムはその広大さゆえに油断し、我らを侮った。情報の不足、指揮系統の乱れ、そして支配者の傲慢さ…それら全てが、我らに勝利をもたらした。個々の戦術も重要だが、それらを束ねる『戦略』、そして揺るぎない『規律』こそが、我らモンゴルの力の源泉よ。」
あすか:「情報、機動力、陽動、心理戦、そして戦略と規律…。チンギス・カン陛下、ありがとうございました。個別の戦いではなく、国全体を打ち破るための、巨大な戦争計画そのものが『最高傑作』であると…。そのスケールの大きさに圧倒されます。」
あすか:「若き英雄王の電撃的な決戦と、帝国創始者の冷徹で巨大な戦略…。早くも、異なる勝利の方程式が見えてきましたね。」
あすか:「さて、次はフランスが生んだ英雄、ナポレオン皇帝陛下のお話を伺いたいのですが…少し長くなってきましたので、ここで一度、前半を締めさせていただき、後半でじっくりと、ナポレオン皇帝陛下、そしてチャーチル首相の『最高傑作』についてお伺いしたいと思います。」
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、ラウンド1『我が戦いの最高傑作~勝利の方程式~』、後半もお楽しみに!」