山猫の子、ひまわりの子
陽だまりのような暖かい笑顔を持つ、ひまわりのように可愛く朗らかな女の子。
悪子を抱えて泣き崩れる彼女に思うことは。
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山根雪菜は当時5歳だった。
保育園児となれば近くに入ればみんな友達で、鬼ごっこばかりするような年頃だろう。
だが私は違った、遊ぶわけでも本を読む訳でもない、ただボケーッとして1人でブランコを漕ぎながら保育園にある小さな畑を眺めるような子供だった。多分、頭が他の子達も良く、精神も大人っぽかったのだろうと先生は言ってた。高校生になった今、友達いわく黒髪ストレートがよく映える猫のような子らしい。
英陽葵も当時5歳で雪菜と同じさくら組だった。人里離れた山奥の小さな村から引っ越してきた子で、保育園の先生が掃除機を片付けているのを見て怖がり泣いていたらしい。活発ではあったが一人でいることが多く、そこら辺の草を潰して遊ぶような不思議ちゃん。私から見た陽葵はふわふわ茶髪のひまわりのような子という印象だ。
初めて会話をしたのは陽葵が来てから1ヶ月ほど。
いつも眺めていた畑のトマトときゅうりを収穫する日だった。
「じゃあみなさーん、怪我をしないように気をつけましょうね〜。」
「はーい!!」
先生の声によりそれぞれが我先に、とハサミに手を伸ばす。中には取り合う子もいた。
だが残念だったなガキどもめ、私が観察してたトマトたちの収穫を放っておくわけが無いだろう。
先生がハサミを運んでいる時にこっそり取っておいたんだ。
これにより面倒くさいハサミ争奪戦を逃れることが出来た。特に大きくて赤いトマトに手をつけハサミで切る。他のどれよりも輝くトマトを片手に嬉しくなった。
周りもどんどんトマトやらきゅうりやらを収穫する。太い茎がザクッと切れる音は聞いててとても心地が良かった。が、突如隣から聞こえるブチッという音。
「ブチッ」???
ハサミで切ればそんな音が鳴るわけないのに…
そう思い横を見ると両手でトマトを持つ陽葵がいた。そう、陽葵は手でトマトをもぎ取ったのだ。
誇らしそうにトマトを眺める陽葵、結局ハサミを取れずに諦めて手で取ろうと思ったのか。
可哀想に思ってハサミをスっと差し出した。
「これ、使っていいよ」
声をかけられ驚くような顔をした陽葵。
「ありがとう!!」
ハサミを受け取り嬉しそうにそういった。
ふにゃりと微笑む顔が何よりも可愛くて、つい友達になりたい。初めてそう思った。
やがて収穫も終わりそれぞれが自分で取った野菜を食べる時間。私は洗い終わったトマトを持ってひまりのところに行った。そして2人でブランコに座ってトマトを食べた。
「ねえ、英陽葵ちゃん。友達になろうよ。」
陽葵はその時目を丸くし、口に含んだトマトを飲み込んだ。
「うん、、うん!!私も山根雪菜ちゃんと、友達になりたい!!」
初めて会ったの時はこんな感じだった、と思う。
ただここからだった、今はら何も知らなかったこの頃に戻りたい。