十三逃 剣士に追われる日
戦闘シーンを書くのは初めてです。
「なんつうキラキラした目をしているんだジャックスは...!」
コーガの全力の拒否を無視し、コロッセオのような形をした石造りの闘技場へと移動した一行、興奮した様子のジャックスと諦めたコーガがお互い向かい合って構え、いつでも戦闘ができる状態になっている。
そんな隅。観客席で、ジャックスが依然キラキラした目をしているのを見てシエロが呟いた。
「...............シエロ」
「ん?なんだ?」
「ジャックスのこと、ちゃんとよく見ておけよ?」
「...おん......?」
「ルールは基本なんでもあり!“戦闘不能”または“致命武器で行った時に死を避けようのない傷”を負わされたら負け。今回は特別ルールで降参はなし。いいな!では!両者構えよ!」
シルクの号令と共に、
「ふーーー」
ジャックスは呼吸を整え、木剣を正面に構える。
「ひぃ.........!」
コーガは左足を高く上げ、軽く腕を前に出す。
「では、始め!!」
シルクがスタートをかけた直後、ジャックスが瞬歩でコーガの眼前に飛び出し、木剣をコーガの首に当てる。
そう、当てる。
「わ、わぁぁ〜〜〜〜すごーいジャックスさん強〜い。ぼ、僕の負けだ〜」
手を挙げてわざとらしく敗北宣言をするコーガ。
「「............」」
唖然。失望。とてつもなく観客の空気が悪くなったのは言うまでもない。
「ふっふははははははははははははははははははは!!全く...お前というやつは!もう一戦だコーガ次やったら...わかるな?」
念を押すように倒れたままのコーガのおでこをシルクがツンと押す。
その全く可愛くない行動に、コーガの顔が真っ青になるが、ついた本人は全くもって気にしていない。
「ま、目の色変えない時点で薄々勘付いてはいたがまさか本当に八百長るなんてな」
笑ってはいるがその目からは狂気しかうかがえない。
「...なぁ、目の色を変えるってなんのことだ?」
「あ!まだ言ってなかったか!」
「蟲の祖先が一般虫って話はもう知ってるな?」
「昨日聞いた話だな?」
「そう。んで!特有機関はもう退化してるから使えないんだけど、その代わり、現存しているありとあらゆる機関がその虫の種類に合わせて発達している。手足が主だ。これが蟲にとってのギフト扱いになるが、生まれつき持っている物だから7歳未満でも使える。でもギフトとして受け取るとその力が膨れ上がり、特有機関が出てくる」
「なるほどです...!」
「それでバッタの場合が目の色を変えることによってその力を使えるようになる。元とはちょっと違うんだけどな。
向こうは体の色が変わるんだ。バッタのこれを相変異というらしい」
「へーじゃあオニヤンマはどうなんだ?」
「...それは秘密」
「えーー」
「...コーガさん。僕は手加減されて勝っても嬉しくないんですよ」
隅っこで丸くなりながら遠目でシルク達を見ていたコーガにジャックスが喋りかける。
「ジャックスさん...それは誰だってそうでしょう...僕ですら悔しいって思いますもん...!」
「だからちゃんとやりましょう!互いに本気で!」
ジャックスが手を差し伸べ、握手で同意を求める。
「...泣かないでくださいよ...?」
コーガはそれを力強く握りしめ、再戦に同意する。
「それは分かりません」
「じゃあ気を取り直して」
立ち直り、またお互い向き合ってジャックスは再び剣を構え、コーガは瞳の色を変え、膨張した左足を上げる。
「始め!!」
瞬間。ジャックスは瞬歩、コーガは脚力でお互いの居合へと侵入し、ジャックスの剣が、コーガの蹴りがぶつかりあい、戦慄のうねりをあげる。と、同時に爆発のような轟音が周囲に響く。
先に動いた剣が振り上げられた足を袈裟斬る。
が、これに脚が素早く反応し、支柱を右足から腕に変え、剣を挟み込み、そのまま上体を逸らしてバク転し剣ごと本体を吹き飛ばす。
ジャックスが体の損傷を最小限にするためになんとか綺麗に着地しようとするが、受け身を取れないまま地面の端っこに激突する。
「ぐぅぅぅ......!」
剣を支えにしてなんとか起き上がる。
だが、無情にも少しの弱りを見せれば、即座に懐に飛び込まれ、下から顎へと飛び蹴りを喰らわされ、勢いのまま空中に飛ぶ。
そのまま身動きの取れない開いた土手っ腹に綺麗に蹴りをぶち込まれる。
重っ!?
落ちてきた岩を受け止めたが如い衝撃がジャックスの体を駆け巡る。
その威力は落雷に等しく、これを剣で受けれなかったジャックスは円形のフィールドの端から端へとぶっ飛ばされるが、今度はしっかり受け身を取って体制を整える。
コーガはこの時点で『体制崩し➡︎空中➡︎重めの一撃』という自身で考えた完璧な必殺パターンを決めた。
「はぁはぁはぁはぁはぁふぅ」
フィールドを縦横無尽に走り回って体力を消耗する上に壁がないと使えない場所を選ぶものではあるが。
「...降参...したらどうですか?もうその分じゃまともに動けないでしょう...?」
殴打による攻撃が主だからか目立った傷は、手の地面に擦った時の擦り傷と折れて出た鼻血ぐらいしか見受けられないが、それでももうすでに立っているのもやっとという状態だ。
そんな体でもっと戦えというのはあまりにも非情、無情である。
だが...
「攻撃の大半が蹴りに偏っている。地面と接地して体を支えるのは主に腕。遠距離は一度着地が必要...脚...」
ブツブツと呪詛のような言葉の数々がジャックスの口から出ている。
つまり、当人はまだまだ戦闘継続の意思があるようだ。
「ジャックスーーーーーー!!」
場違いに緊張感のない幼き声が、一際大きくみんなの鼓膜に入ってくる。
「握られているのは俺の全部だーーーー!必ず守ってくれーーーーーー!!」
その声は、その内容は、あまりにも空っぽで場違いであった。隣のシルクが「よくやった」と言っている雰囲気からしてシルクが言わせたのは確実ではあるが。
だからこそ言いたかったのは何か重要な一言であることは間違い無いだろう。
「あぁ...守るよ絶対...!」
そこには愛している義弟からの声援で気迫と元気を取り戻したジャックスが剣を構えて立っていた。
「ぁあ......戦闘続行か...」
これで終われると期待していたコーガはガックリと肩を落とし、足を上げる。
「コーガはすでにギフトを使っているからな...やはりここはフェアにいかんと...」
「そんなにギフトの発動に『守る』の単語が必要なのか?」
「あぁ。お前にでも分かるだろう...ジャックスの様相が明らかにさっきと違っているのを...!」
シルクの視線の先。依然睨み合ったままの二人、だが先ほどと明らかに違うのはジャックスが纏った気迫。
「......今度はそっちからどうぞ...?」
「では!!」
コーガに誘われ、声と同時に力強く瞬歩で踏み込み、出した剣が首筋をとらえるがすかさず足が下から本体を襲う。
それをジャックスはジャンプで躱わす。
なんも学んでないのか?
「それは二の舞でしょう!!」
重力に従って落ちてきたジャックスの顔を目掛けて強烈な脚が伸びてくる。
そのまま顔に命中...といくのは何も学ばない愚者である。即座に剣を顔前に出し、蹴りを受け止める。
「でも吹っ飛ぶのは同じでしょうが...!」
!?吹っ飛ばない?
なぜか蹴った後もジャックスは飛ばずに綺麗に直地をしていた。
「なぜ!?」
気味が悪くなったジャックスから一度距離を取ろう後ろにジャンプしようとするが、それすらも出来ない。
なんなら後ろに飛んだのを遮られた衝撃で背中と頭が地面と思い切り衝突する。
そこで脚を見たことによってようやく秘密が分かる。
「足掴むのはないだろ!!」
実はジャックスは右手で剣で受け、バレないよう左手で足を掴み、それがバレないよう適度に攻撃をして意識を逸らしていたのだ。
「くそっ...!」
足を取られ、自由な身動きを封じられたコーガはまるでまな板の上の鮮魚だ。
「さっきまでとは大違いだな...別人にでもなったか?」
さっきボコボコにされていたジャックスとは打って違い、逆にボコボコにしている様子を見たシエロが別人へと変わった説を推し始める。
「これがギフトの力さ!この世界ではギフトの強さはまんま才能なんだよ」
「...神にも似たような力はあったような...」
「!本当か?...まぁ神ならば当然か...」
「なぁジャックスのギフトはどんなのなんだ?」
「...《守護者》。その力は庇護対象の存在による基礎能力の向上。ってとこかな」
「ふぅん...あいつ願いでも『お兄さん』してんのかよ」
「ははっ!...もはや呪いだな!」
『《守護者》
被守護対象の確立によって初めて成り立つギフト。
力の内容は基礎能力の向上。それは力の範囲は筋力・膂力・体力・魔力に影響を与える。
効果範囲に能力向上を与える支援系とは違い、完全個に突出した向上。その代わりにその上げ幅は被守護対象一人につき五割り増し。
ただ、一定の範囲内に被守護対象は居ないと発動しない。
そしてこの基礎能力とはステータスを基礎としている。』
「降参...したらどうですか?」
体制を整え、ジタバタしていたもう一方の足を掴み、もはや勝ちを確信した顔でいるジャックスがコーガに降参を促す。それはさっきのコーガの煽りとは違い、客観的に見てコーガに勝機はないと見たジャックスの無慈悲な言葉の一撃である。
「...さっきの言葉をそのままお返しするといったところですか?ナメないで頂きたい!!」
「!」
手を軸に体を捻り、足を回転させる。おそらく回転で手を振り解くのが狙いだろう。
が、それはジャックスがコーガの足を持ち上げるだけで簡単にキャンセルされてしまう。
それだけで終わらず、持ち上げた状態から素早く地面へと手を下ろし、コーガと地面を激突させる。
「がぁぁあぁぁぁぁぁ」
衝突付近の石は粉々に砕け、轟音と共に四方八方に弾け飛ぶ。
その衝撃は凄まじく、コーガは驚きと苦しみの雄叫びをあげる。背骨はもう数本折れているだろう。
「...終わりだな。そこまで!」
「圧巻だったな...」
最初の、コーガにボコボコにされていた時とは別人クラスになり、最後は圧倒したジャックス。
その恐怖とも思える成長ぶりに、シエロは思わず感嘆と賞賛の声を漏らす。
「さっきもいったが、これがギフトの力だ。ギフトは......人を変える。だから...あいつのことちゃんと見とけよ?」
「?もちろん?」
ところどころで戸惑いを見せ、チグハグな言葉の紡ぎ方をする。まるで、何か思い出したくない何かを思い出しているかのような。そんな感じだ。
「シエロ!ちゃんと守ったよ!」
「ジャックス...俺お前が怖くなっちまったよ。ていうかこれが茶番だってことには気づいてたろ?」
「あーまぁうん」
そう言ってジャックスがはにかむ。
闘技場を離れ、また先ほどの広けた場所へと戻った一行は、コーガと、コーガを回復させるために回復もできるギフト持ちの寿を交えて、さっきの戦闘の復習をしていた。
「ジャックスの身に起きたのはあくまでギフト使用による能力向上だ。初めはギフト使用前で、しかも初見の技だったためにコーガが圧倒出来ていたが、ジャックスのギフト使用によりスピードで上回られた。これ、コーガの敗因な」
ホワイトボード型に削られた木に、ギフトという文字が刻まれる。
「でも、僕もギフト使ってたのに全然歯が立ちませんでしたね」
コーガは右耳を掻き、ははっと笑ってはいるが表情は微塵も笑っていなく、悔しさしかない。
「悔しくても奥まで手を出さなかったのは偉いぞ」
「......複雑です」
「はい。腰の治療は終わりです。ちなみに私のギフトはこのように回復させることがメインのものだよ」
寿は今度はコーガの足に手を置く。すると寿の手のひらがほんのり明るくなり、コーガの擦り傷が少しずつ塞がっていく。
それを見ていたシエロがみんなに聞こえる声量で呟く。
「俺にはどんなギフトくれるんだろな」
反省会は終わったのか少し和やかな雰囲気に変わる。
「ギフトはその人の願いだから強く願えば叶えてくれるぞ」
「シエロはどんなこと願うの?」
...願いか。
「寂しい......よな」
「「え?」」
これはシエロがイシスの記憶を読み取った時に感じたことだ。
イシスは転生関係でいろんな生物と関わり合った反面、その関係性は浅いものだった。
ハトホル・モイライ・ネフティスと関わってもどこかに壁を感じ、だからこそ孤立感や喪失感がいつでもあった。
そうだな。イシスのためにも
「バカみたいに沢山の奴らに囲まれて楽しく笑いたい!」」
普段なら絶対見せない満面の笑みを見せる。それは多分どこかにイシスの願望が混ざっているからかもしれない。
それに対し、シエロと交流が深くない寿やコーガは軽く可愛いと思い、シルクとジャックスは心の底から驚いた様子を見せる。だが、総じて子供っぽいなぁと感じてニマニマした顔はする。
「シエロー!僕は絶っっっっっ対!シエロをひとりにしないから!」
泣きながらシエロに抱きついてきたジャックスがシエロの手を取りながら「安心して!」と決意を表す。
「いや友達が欲しいって意味でーーー
抱きついたままのジャックスの好意を早々に無碍にしようとするが、後方腕組み保護者ずらの皆を見て続きを口にするのを止める。
それは周りに目を向けたことで、すでに賑やかなことに気づいたのか、はたまた人の心を少し理解して“言ったら傷つく言葉”を理解したのか、真相は当人しか分からないことだが、周りを見た瞬間に僅かに口角が上がったところからして前者の線が濃厚だろう。
「とりあえず、ジャックスの課題は実践経験だな。アレスから基礎は叩き込まれていると思うから、あとは本当に殺しに来る奴相手にどれだけ通用するかだ。お前のギフトは基礎が上がれば上がるほど使用メリットも上がるものだから、一旦ギフトの使うな。もちろん、命の危険を感じたら使っていい」
シルクはジャックスの頭を撫でながら詳しく解説する。
「シエロは治癒魔法な。自身の疲労回復とジャックスが怪我した時用で」
「.........あれ!?終わりか!??」
シエロに向けては端的に言う。
「そんくらいしかないだろ。襲われそうになっても、ジャックスの練習台になるだけだし」
先ほど浮かべていた表情とは裏腹に邪悪な笑みを浮かべる。
「それに、何かある前に俺が守る。っとそれと...コーガ!」
「うっ...はい?」
足の治療を終え、今度は腕の治療が始まったところで、コーガがシルクに呼ばれる。
「お前はしばらくジャックスについていてやってくれ」
「嫌です!」
「頼んだぞ」
族長に笑顔で詰められれば、部下はもう何も言えない。
「明日、ジャックスが最寄りのギルドに行き、登録。その後はひたすら依頼を受けて実践訓練、コーガがそれにつきそう。シエロには俺が魔法の使い方を教える」
「おう」「はい!」
「出発は明日です。ジャックス君とシエロ君も、ちゃんと休んで、明日に備えてください」
労いの言葉を掛けるのは寿の役目だ。
「...あの話、いつするんですか?」
シエロとジャックスをシルクの家に送ったあと、大人であるコーガとシルクは森で秘密の会合をする。
「あ?何のことだ?」
その言葉にコーガが一瞬ギョッとするが、シルクの握りこぶしから血が出ているのを見てシルクの心境を察する。
こういった細かい気遣いが出来るからこそ、シルクはコーガを気に入って重宝しているのだ。
コーガがいつもビクビクしているのは、本心を奥底にしまっているからである。故に、それをさらけ出せるシルクを信用している。
シルクとコーガはこういった関係で成り立っている。
「あの話をしたらアイツらは...少なくともジャックスは責任感じて過剰に修行をして倒れちまう。それじゃ本末転倒ってやつだろ」
見せてきた手のひらの血はもうでていない。シルクの治癒魔法だ。
「あの、僕は...まだあなたの小間でいれてますか?」
「...どういう意味だ?」
「あの日から今まで...僕はあなたの真意がまだ分からない」
「分かる必要は無いよ...きっとこれは、経験しないと...経験してもわからない。」
「すみません。そういえばこれはあなたが大嫌いな話でしたね... ...彼らにいつ“ここにつれてきて修行をつける本当の意味”を言うのか、判断は任せます。それでも、どちらにせよなるべく早いほうがいい...です。あのときの僕がそうであったように。」
「あぁ。助かる。」
シルクと別れ、コーガは森の奥へと踏み込む。
そこには不自然に木がなく、地面の燃えた形跡を隠すように草が生い茂っている。
...僕はシルク様を信じてる。そしてジャックス君とシエロ君もきっとそうなるんだろう。
だからこそ関係が深くなればなるほど、秘め事の深刻さというのは大きくなる。あのレベルなら特に。
まだ大事なことを話せるような関係性でなかったと、信じていた分そのダメージは大きい。
それに、シルク様は心を隠すのが上手い。言わなければきっと最後までわからない。
...しかし、本当にあの話をした後のシルク様はダメだな... はっきり言って、木偶になる。本当に言うのかすら怪 しい
木々を撫で、その奥を見つめながらコーガが心の奥底で思う。
...さて、どうやって殺そうか。




