十二逃 多分、剣士に追われる日
「よく考えてみりゃ、俺アイツらの力量知らないんだよな...」
日が上り、明るく照らされた室内の布団の上で、シルクがつぶやく。
隣には情報処理を無事に終えたであろうシエロがスヤスヤと眠っている。
確かシエロが寝ている状態でイシスも寝だすと寝ている状態になるんだったな...
意識は変わるが変わったその意識が寝ていたら実質寝ている状態になる...かな?
どのみち、数時間...いや、下手したら数分しか寝れないのはとてつもなく厄介だぞ。
昨日シエロから提供された情報をシエロの状態を観察しながら整理し、託されたこれからの修行のメニューを考えていると、コンコンコンとシルクの部屋のドアがノックされる。
「ジャックスか?入っていいぞ!」
「!ぉぉ、本当に一緒に寝たんですね」
シルクの横でスヤスヤ寝ているシエロを見て、ジャックスが嬉しそうな顔をしながら少しバツの悪そうな顔をして驚く。
その視線の先、シエロはジャックスが部屋に入って来たのに気づかず、まだ夢を見ている。
「...よく眠れたか?」
二つ並んでベランダの方、入り口から入ってきたジャックスから見て奥の方の布団で上体だけを腕の力で起こした
シルクが、心配そうな表情でジャックスを憂う。
「えぇ、お陰様で」
元気よく、力強く腕をぶん回す。
が、ジョックスの目の下には隠しきれていないくまが存在している。間違いなく、から元気だろう。
「...あまり無理をするな」
会話をしていた二人とは違った声変わりとはまだ無縁の幼い声色が部屋の中に広がる。
二人の喋り声が原因でか、起き上がったシエロが会話に混ざろうと声を上げる。
「無理が祟って倒れでもしたらこちらが被害を被ることになる。......俺はごめんだね」
心配はするが、しっかり拒絶もする。記憶の継承が済んだからか少し口調がイシスよりになったシエロは、最後に唯一のアイデンティティを思い出し、証明するように声に出す。
「そうだそうだ」と、少し野次馬感のある援護射撃をするシルクは、頭では記憶の継承が無事に済んで良かったと盛大なパレードを繰り広げている一方、本気でジャックスを心配している。
「...じゃあもうちょっとだけ寝てこようかな...」
最愛の家族二人に諭されれば実行する以外、ファミコン(ファミリーコンプレックス)に選択肢などない。
同日午後、巣から離れ、森の中の少し開けた場所でシエロがシルクと今後の流れについて話し合っているところに、完全に元気になって起きてきたジャックスが合流する。
「遅くなりました...と」
「...しっかり眠れたか?」
「もっちろん!シエロのおかげでね!」
ジャックスが疲労が抜けた顔で満面の笑みをシエロに向ける。
「ジャックスも合流したことだしぼちぼち始めっか!!」
「はい!」 「おー!」
「俺の師匠っち曰く、『強くなるには常に己を見つべるべし!!』らしい。と!言うことでお前らステータスオープンしろ!」
「はい!」「おー」
「「ステータスオープン」」
二人のステータスウィンドウが空間上に展開される。
ジャックス=エジェリー
貴族
職業 《剣士》
ギフト《守護者》
称号 英雄の弟子
自身(平均)
魔力 5000(15000) 防御 1500(2120)
攻撃 17100(1600)
属性 無し
スキル 《回復補助》《剣速補助》
シエロ=エジェリー
平民
職業 《?》
称号 無し
自身(平均)
魔力 測定不能(15000) 防御 100(2120)
攻撃 0(1600)
属性 無し
スキル 無し
「「うわしょぼっ」」
シエロとシルクが声を大にして叫ぶように言う。
「い、いや大丈夫だよ、シエロ。僕、測定不能なんて初めて見たなぁ」
ジャックスがすかさず励ます。
「んー?自分に向けてかもっていう視点はないんだ?」
シエロが皮肉をいっぱい込めてジャックスを刺す。
「あ、そういうやり方も...あったのか...」
「え、い、いや!別に自分でも言ったことだし気にしてないから...!それよりも...ほら!まだ貴族でよかったな!」
しゅん、となってしまったジャックスを見て流石に罪悪感が出たシエロがフォローする。
「しっかし、俺も初めて見たなぁ測定不能なんてのは」
シルクがシエロのステータス表をまじまじと見つめながら呟く。
「...シエロ」
シルクが声のトーンを少し下げる。
「冗談じゃなく、これからステータスは可能な限り秘匿しろ。億が一見られたら測定不能の件は数値が低すぎるからっつって誤魔化せ」
シルクがシエロの胸に指先を置いてとびきり声のトーンを下げて続ける。
「冗談抜きで最悪死ぬぞ」
「...そんなに凄まんでも分かるよ...」
シエロにはシルクの心配と焦りが目から、指から、痛いほど伝わってきていた。
昨日の話合いからして、シルクが己の私利私欲のために隠蔽を施させようとしてくるようなやつではないことぐらい、シエロでも理解していた。
「じゃあ次はジャックスのーーーーー「測定...不能...?」
シルクの声が“何者か”によって遮られる。
「「!?」」
驚く...だが、その直後か同時にはシルクの手刀がその“何者か”の首元に届いていた。
「ヒェ...!ごめんなさいゆるひて...!」
「!コーガ...!!」
「すいませんでした!!ほんの出来心だったんですぅ...」
そう言ってコーガが綺麗な土下座を披露する。
「〜〜〜〜〜!!」
シルクが言葉ではない声を出し、頭をガシガシとかく。
「ぁ、あの!僕何でもします...ですのでどうか命だけはお助けください...!」
「う〜ん...」
こいつなら別に、軽く圧かければ口外はしない...か
だが、これは使えるな...!
「ジャックス!今、お前が大事にしている弟の命並みに大事な情報が握られたぞ!」
シルクがいきなり上げた荒げた声に、ピクッとジャックスとシエロが反応する。
「ぇ...」
「おお困った...!このままにしておいてその情報を言いふらされてしまってはシエロの命が非常に危険だ!」
「シルク?」「シルク様?」
シエロとコーガがシルクを呼ぶが、興奮した様子のシルクはそれに応じない。
「ジャックスよ!このままでいいのか?」
「シルク??」「シルク様!?」
「このままみすみす、シエロを見殺しにするのか?」
「シルク!?」
こうなったらもう止まらないことを長年の付き合いから察したコーガはもう反応しない。
あわよくば簡単な謝罪だけで済みますようにと淡い期待をこめて。
「そこでどうだ!!実力行使に出てみては?」
「シルク!??」
「おお何ということだ...!この蟲世界には虫相撲という決闘システムがあるではないか...!!しかも他の干渉を許さないフィールドまで整っているときた!」
「シルク!!??」
「何とかこの場を修めるにはこの方法しかあるまいか!ジャックス!」
「シルクーー!!!??? 全然それ以外の方法あるから!!」
「.........コーガさん」
「ひっ...ひゃい!」
ジャックスが振り向き、コーガの方に歩きながら言う。
普通に許してあげればいいのに...
! いや、違う。これはチャンスか...!
「彼は僕にとって世界で一番大事な義弟なんです。だから言いふらされて死なすわけにはいかない!」
ジャックスがシルクからのウインクを受け、わざわざあんなめんどくさいことをしたその意図を読み取る。
「ひぇぇぇ...」
「コーガさん。やりましょう決闘......!!」
口車に乗った顔のジャックスは物々しく、しかしその目と微かに口角が上にあがった口からはワクワクと興奮がうかがえた。
「.........無理...無理ですぅぅ」
一方最悪の方法で場が収まったコーガの方はポロポロと涙を流しながら決闘を拒否するのだった。




