十一逃 シエロ=イシス
...よく考えればおかしいことだらけだ。
あの時確かに譲渡した私の意識は今なお存在している。
つまり、モイライに身バレする危険はまだあるということだ。
はっきり言って、今私のことを口外するのはリスクでしかない。
もし天界のモイライの眼が耳がここまで届いている場合、秒でバレるからだ。
だが、ここで嘘の情報を流し、それがバレでもしたら今度はシエロの身が危ない...か。
「で、あれば...今ここで私は、聞かれたことの全てを正直に話し、話す内容の一切に、嘘はないと誓おう」
「あぁ。もちろんだ...!」
「私として教えることができるのは、私の情報と、私と俺の体の情報のみだ」
「なぜだ?」
「単純に、覚えてない。分からないから」
「?......分かった」
「では何から知りたい?」
「俺が知りたいのは二つだ、お前の安全性、それと中身のことについて」
「なら自己紹介からだな。改めて初めまして私が名はイシス。生命の神にして転生を司る者。そして私は神で、 俺はただの人間。とある事情で、イシスがここに落ちた。そのときの器がシエロ。多分主はシエロ。...のはずだ。入れ替わった時に既存の能力はほとんど失っただろうから、どう足掻いても危害は加えられないだろう」
「神.........!?...大事な情報を随分とペラペラ話すものだな」
ありえない言葉をゆっくりと噛み砕き、シルクの顔が警戒モードになる。
「全部本当だ。言ったろう正直に全て話すって。その方が今はいい...。...話を戻すぞ。今度は中身の説明だ。我々は常にお互いに引っ張られあっている。その証拠に、元々私はこのような喋り方はしていなかったし、シエロも3歳の割に知恵と落ち着きを持ちすぎている。おそらくはイシスの10000歳とシエロの0歳を足して2で割って、お互いに5000歳といったところだろう」
「...だから、シエロは幼い割に老けてるし、イシスは老けてる割に幼い...?ということか?意味わかんねぇ...」
シルクが頭を抱えて混乱しだす。
「...私達のことを昔からよく知っている奴じゃないとこの違いはわからないだろうな...。それとこれは予想に過ぎないんだが、多分人格の切り替えは睡眠。だからイシスとシエロは簡単にコミュニケーションをとることが出来ないし、最悪なことにこの肉体は簡単に睡眠を取れなくなった」
「何で?」
「...お前は限界まで寝切った後すぐに寝ることが出来るのか?」
「無理だな」
「明るいうちはシエロが、夜はイシスが覚醒状態となっている。多分両方が睡眠状態になれたら眠れるのだろうがな。...これは理想論でしかないんだが、最終目標ははどっちの意識も生きている状態にすること。具体的には脳を右脳と左脳で二分割して並行で使っていく。これが実現できれば普通に人としての生活が出来るようになる...!はずだ」
グッとイシスが拳を握りしめる。
「そんなこと出来んのか?」
「...分からない。前例がないからな。だからーーー」
シエロがシルクに頭を下げる。
「頼む。我々を鍛えてくれ。実現するには魔法を駆使するしかない。だからこの世界の魔法に詳しい奴に頼むしかない。俺を鍛えたら脅威になるかもしれないことは承知の上で言ってる。私はシエロを...この巻き込まれた可哀想な器器を守りたいんだ。だから頼む。いや、お願いします...!」
切願するそのか細い声がイシスの言葉が真実であることをものがたる。
「.........くぁぁぁぁぁぁぁ〜〜......」
「......?」
デカめのわざとらしいため息をつきながら、ベランダの床に膝をつける。
「シエロの影響なのかなぁ。神ってもっと傲慢で人間にしか興味のない...自分のことしか考えてないようなクソ野郎だと思ってた。んったく調子くるぅわぁ〜〜〜」
...まぁあながち間違いではない。実際身勝手な神なんて人の数いる。てかこれNoの流れか...?
と、シエロが決して口には出来ないことを思いながら顔に出さないように小さく絶望する。
......けど、万が一のためにここでこいつも鍛えておくことに越したことはない...か。
と、シルクが地面に向けて不適な笑みを浮かべながら思う。
「だがまぁ、分かった。お互いの目的達成のため、お前らを鍛えてやる!!」
「...!!本当か!?ありがとう...」
目元にうっすらと涙を垂らしたイシスが顔を上げる。
「おう!任しとけ!」
それにシルクは満点の笑顔で応えるのであった。
「...ところでお前らが言う蟲...異種族ってなんなんだ?」
「...あーそこから?まぁ確かに、まだ3歳のお前は知らなくて当然か...ってか転生先の情報くらい神なら知っているもんじゃねぇのか?」
「...興味本位で知ろうとするやつはいるが、私達がもらえる情報はその世界が器にとって安全であるかどうか程度のものだからな...特段知っていることは...ない」
転生したての時に使った神聖魔法を思い出し、一瞬妙な間を作ってしまったが、流石にノーカウントだと思い、キッパリと断言する。
「異種族は全部で三種。われらが蟲、魚、妖。くっそ簡単に言うと様々な種族の交わりによって生まれた種だ」
「ほぅ。なるほど、ルーツがそれぞれ違うのか?」
「まず昔、この世界には恐竜というそれはそれはデカい化け物がいた。陸海空に存在するそれはその圧倒的な力を用い、この世界を完全に掌握した...わけではなく、他の種族と共存し合い、仲良く暮らしていた」
「おぉ」
意外と上手いシルクの語りかたにイシスが思わず感嘆の声を漏らす。
「そしてその恐竜と一番仲良くしていたのが虫種だ」
「虫...」
...明らかにサイズが小さくないか?
「昔の虫は今のよりも随分図体がデカかったそうだ。それこそ、恐竜に勝るとも劣らないくらいな。信じられないかもしれないが本当にお互いがお互いを助け合って、共存していた。多分お互い陸海空に住んでいるのが何かと都合が良かったんだろうさ」
「......出来たばっかの時は容量ガバガバで、その分各個体の大きさに割り振れるということか...?」
顔全体を手のひらで覆い、何かを考えているのか、よく分からないことを口にするシエロ。
「?神にしか分からない話か?続けるぞ?...そんな中、恐竜と虫だけじゃない様々な種に偶然にも同年に突然変異種が複数体生まれた。その突然変異種はお互いに好奇心が強く、そして最も特別だったのは他の生物よりも、虫よりも一回り二回り...五回りは小さい体、細く長い腕と足。狭すぎる目と鼻と口の間隔。つまり、突然変異種は今の人間に近しい容姿をしていた」
「............」
シエロは考えているのか悩んでいるのかよく分からない顔で俯いている。
「その世代を皮切りに爆発的に突然変異個体が増えていった...。ここまで分かるか?イシス」
「.........!?あぁ分かってる」
思考中に水を差され反応が遅れたイシスが慌てて返事をする。
「これが説明をする上でのベースだ。そして異種族それぞれの交配種なんだが...
海に住まうは魚これは水生恐竜と始祖鳥種が交配した姿。一応両生類だ。
陸には妖と蟲。妖は虫と恐竜が交わり、恐竜味が強く出た種。そして蟲はその逆の上に人間とも交わった。
ちなみに魔物は突然変異種を新種、従来の形を旧種としたときに、旧種が何とも交配せず、独自に進化を遂げたものだ」
「それが異種族か...てことは寿は妖種か」
「あぁ、妖に関しては全部が虫との交わりのみじゃないから少し毛色が違って来るな」
「その当時に人種はいたのか?それによって考察度合いが違って来るのだが...」
シルクが言葉で答える代わりに両手を頭上でひらひらさせて『いない』ことを告げる。
「後々、ほぼ全種が混ざり合ったことによってDNAが崩壊・劣化して能力を失った...らしい」
「らしい?」
「これは人から聞いた話なんだ。ちゃんとよく知りたいなら学園に行っている、エジェリーに聞くといい」
「...学園とやらにエジェリー家の人間は今居ないんじゃなかったか?」
「そいつは比較的多く居るってだけだ」
「ふぅん...」
学園ね...
「ちょっとは人に興味が出てきたか?」
「ふん、人として過ごす上で元々、興味が皆無だったってわけではないんだぞ?エジェリーには特にな」
「ふふ、強情だねぇ」
そう言ってシルクがお姉さんらしく優しくほくそ笑む。
「この話シエロにもう一回言った方がいいか?」
「いや、その必要はない。理屈上記憶は肉体の方にも記録されるから意識が接続されれば思い出すはずだ。そして危険だが完全な記憶の継承を行う。脳の処理が追いつくかどうかが問題だな、多分倒れる...今頑張って寝てみるから後は・たの・・む?」
相当疲れていたのかまぶたを降ろした瞬間、気絶するように寝入る。
だが、脳から出された信号は肉体へと到達し、人格をも貫通して入れ替わってなお言葉を紡いだ。
「!どうだ?思い出せるか?
シルクはシエロの雰囲気が変わったことを瞬時に察し、記憶の継承がしっかりなされているかを確認する。
そんな言葉すらも届かないくらいに今シエロの脳にはイシスのいう神が経験した『記憶に残っている限りの情報』が駆け巡っていた。
一つ一つの記憶が遺伝子を魂と結びつき、元からあったものなんじゃないかとすら錯覚する完全な同期に人格は混乱し、未体験だと、危険だと悲鳴を上げる。
「シエロ...?」
フリーズ。飲み込むことを忘れ去ってシエロの口からこぼれ落ちた唾液は、その膨大な量の情報を映し出した。
終わらない情報処理。その完結は短く終わらず、シエロはあっけなく倒れる。
それを素早く掴んだシルクは半目で汗と唾液がダラダラになっている顔面を見て只事ではないと察知する。
「...俺がまだ敵だったらどうしてたんだよ...!くそっ、死ぬなよ!!」
もはや木偶と化したシエロをシルクがイシスの言葉に従い優しく布団に置く。
「........................」
まだまだ動く気配が無いシエロ。
「...明日には起きてっかな」
この莫大な情報処理にはまだまだ時間を要するだろう。




