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多分世界に追われる日々  作者: 高橋 よう
第二章 あなたはぼくで僕は貴方
16/23

十逃 『けしおうのものか ましおうのものか しょうたいをあらわせ』

「みんな、泣き疲れて寝ちゃったか」

自力で自室まで行ったシエロを除いてテーブルに突っ伏して寝ているみんなを見たアレスが嬉しそうに呟く。

「なんだかんだ。一番泣いていたのは僕たちですけどね」

ジャックスも嬉しそうに言う。

「...ありがとう、ジャックス。君と、みんなのおかげで自分の本心に近づけた」

「いやいやそんな、そんな...当然のことですよ」

そんな時、ドンドンドンとリビングの扉を叩く音が響いた。

ジャックスは気付けなくとも、普通、この孤児院に足を踏みれた時点でアレスならすぐに分かる。

それが気づけていないとくれば、それは相当な猛者である。

音がして間もなく、ドアが開き、侵入者の全容があらわになり、ジャックスが驚いたように口をひらく。

「あなたはーーーーー


〜夢〜

そこでは、シエロとイシスが一週間ぶりに対面していた。

後味の悪そうな顔で座っているシエロと、なぜか微笑んだまま表情を変えないで直立不動のイシス。

「...悪あがきじゃなかったな。イシス」

「.........」

「なんとか言えよ」

イシスは微笑んだままぴくりとも表情を変えない。

「...まぁ、そりゃそうか...」

消滅したわけではないが、主導権は現状肉体(シエロ)の方にある。

ので、(イシス)は深く眠っている状態で、何も答えてこないのは当然である。

「賞賛...ね」

ふと、思い出したように呟き固まったままの(イシス)に近づく。

「なぁ、(イシス)。本当にお前は素直にあいつに賞賛を送ったのか?」

「............」

当たり前だが、(イシス)からの返事は無い。

「神であるお前が、人間()()であるあいつを手放しで賞賛するとは...どうしても違和感を感じるんだ」

「............」

全く動かないもはや木偶のような状態のイシスは、眉をぴくりとも動かさず、反応すらない。

「帰ってこない会話は、つまらないな...」


次の朝目覚めると、そこは自室のベット...ではなく、

「...は?」

「あ、起きた?」

少し硬めの、馬車内の椅子だった。


クラシックな車内に床には一面の赤いふかふかカーペット。少し硬いが不思議と寝心地は悪くない長椅子。

窓から景色を覗けば広大な草原。

少し揺れているところからはこの馬車が現在進行形で走っていることが分かった。

そして向かいには()()()()()の笑顔のジャックス...

改めて、

「んっだこの状況!!」

「ま、まぁまぁ落ち着いて」

シエロはまだ半分くらい寝むっていた脳を叩き起こし、この状況になった要因を思い出し始める。

が、

 まっったくもって思い出せねぇーーー!!

頭を抱えて天井を仰ぐ。

みんなでアレスをギュッとしたところまでは記憶あるが、そこからここまでの記憶が一切としてない。

「なぁ、ジャックス...」

やっと何かに気づけたような声でジャックスに尋ねる。

「ん?どうしたの?」

「...もしかして酒飲んだ?」

テンパった時のゴミ思考力はしっかりイシスから受け継がれていた。

「.........飲んで無いねぇ」

何か考えごとをするように悩んだ顔をした後、シエロがゴミ思考力で頑張って捻り出した答えを笑顔で否定される。

まだまだ混乱中のシエロにジャックスが痺れを切らしたように説明を始めようとした瞬間、

「おーぅ起きたか!」

ジャックスでは無い、聞きなれない声がシエロの後ろ、壁越しに聞こえてきた。

力強くはあるが、おそらくは女性だと勘付ける声色をしている。

「わりぃいんだが今手が離せなくてな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ー!」

はつらつとしていて元気のいい声がジャックスに説明を促す。

「...先に言っておくけどお酒は飲んでないからね?」

「あ...うん」


「あなたは...」

「シルクか!?」

ジャックスが記憶から彼女の名を捻り出す前に、アレスが嬉しそうに声を発し、その名を呼ぶ。

「ははッ久しぶりだなぁアレス!5年振りくらいか?」

「あぁ...シルクが里を継いでからずっと戻ってこないから心配だったんだよ。でも、元気そうで安心した」

心の底から嬉しそうにアレスが微笑む。

「そうだ思い出した!僕が5歳くらいの時に当然消えた...!」

「久々だなぁ、ジャックス。随分デカくなったじゃねぇの」

「...シルク姉さん...!」

茶を基としてところどころに赤が混ざった、腰まで届く髪に、赤色の丸型のサングラスをつけ、ぱっちりとしているがキリッとした目つきに、程よく肉づき、胸部には豊満な乳房のついた体格。締め付けのいい巫女装束のような着物を着て、それとは別に、一枚羽織っているが、それは肘あたりで折り曲げられている。風貌はまさに頼れる姉御と言った感じだろう。

「まだ記憶あやふやだったろうによく覚えてられたな。俺なら無理だわ」

少し面食らったようにシルクが答える。

「...だって...唐突に...別れの言葉も無しに...いなくなったから心配で...」

ジャックスの目元から涙が溢れ出てくる。

「あれ、さっき流したばっかなのに...」

溢れ出てきた涙を手で押さえるが、その勢いは止まることを知らない。

「「.......」」

必死に涙を止めるジャックスを見てシルクとアレスが抱きしめる。

「...よぅしよぅーし。しっっかり泣いとけよー!どうせお前は責任感強いから滅多に泣けないだろぅ!俺もバカみたいに泣けて強くなれた!しっかり折れて強くなれー!」

「.........ぐずっっっはい!」

シルクがぽんぽんっと頭を優しく叩きながら励ましの言葉を送る。


「...さて...と」

ジャックスを椅子に座らせた後、シルクが寝ているセラの頭を撫でながら椅子に腰掛ける。

「あんま時間も残ってないからな。手短に、大人の話をしようか」

「あぁ」

丁度シルクの対面上の椅子にアレスが座り、両者の間にピリついた雰囲気が流れ出る。

先ほど自分を優しく励ましていたとは思えないほどピリついた雰囲気を出す二人にジャックスが驚きながらも、一つの疑問がジャックスの頭に浮かんでくる。

が、それをこの雰囲気で聞けるほどジャックスは空気を読むのが下手ではない。

もし、この場でその疑問を躊躇なく言えるとしたらただ一人ーー

「あれ?誰?」

「シエロ!?」

この、シエロただ一人であろう。

「......そうか...君がそのシエロか...」

「?誰?」

「あぁすまん自己紹介がまだだったな」

そう言って椅子から立ち上がり、シエロの近くに行く。

「改めて、初めましてシエロ。俺の名はシークウルディスト=インパクト。それとエジェリー。異種族、蟲の末裔にしてオニヤンマの血を引く...族長だ。なげーからシルクでよろ」

「・・・ふふっ。あぁよろしく」

「!随分と可愛げのない笑いが出来るモンだなぁ」

妙に含みのある笑いを披露したシエロにシルクが首を傾げて驚く。


「ところで、なんでそこまでピリついてんだ?」

「ちょっ、シエロ!」

「?だって兄貴も気になるだろ?なんでこんな不仲みたいになってんのか」

「それは...気になるけど...」

「触れてはいけないだろ」という言葉がジャックスの口から出てくることは無かった。

大事な義弟を傷つけかねないし、何より、彼自身が一番気になっていたのだろう。

対し、疑問をぶつけた本人は何が悪いのか分からない様子で首を傾げている。

当然だろう。彼は人間を知らないのだから。

「ふふっふははははははっそうかそうか。そーんなに気になるのか」

どこか納得したような顔をしてシルクが大爆笑する。

「なんでかっていうとそりゃぁな...お前の親についての議題だからだよ」

「...オレノ...オヤ?」

親という概念を完全に失念していたシエロがカタコトになりながらシルクの言ったことを復唱する。

「あぁ!」

「シルク!それは二人だけのうち秘めておこうって話じゃないか!」

「悪りぃ悪りぃ。でも、さっきので確信した。先に言っておいた方が圧倒的に合理的だ」

「そういう問題じゃないだろ...」

「そういう問題だよ。じゃあなんだ?シエロにはこれから一生、親の存在を知らせないまま暮らしてもらうつもりだったのか?」

「そ、それは...」

「遅かれ早かれ、こういう話をしなければならない日は必ずくる。だとしたら、さっさと話しておいた方が楽だろ」

捲し立てる。論破する。のような感じではなく、あくまで説得する口調でシルクが言う。

「う...く...」

もう過ぎた以上、何も言えないアレスは黙りこくってしまう。

「なぁ、結局、俺の親というのは誰なんだ?」

 ...考えなかったわけではない。アレスに配偶者が                 いないなら、俺は誰の子なんだ?と、流石にこの歳 で出来損ないはないだろう。であれば、なぜなのか。...結局のところ答えに行き着くことは無かったし、......あれも起こった

「そうだな...結論から言うと、お前の親はまだ見つかっていない」

「「!?」」

アレスとシエロが同時に驚く。

「見つけたから来たんじゃないんだ?」

「...ウルセェなー何しろ手がかりがないんだよ、手がかりが!」

頭をかきながらため息混じりに反論する。

「はぁ...じゃあ何しにきたんだよ...」

シエロが呆れた顔をして

「いい質問だ!ここへなにしに来たかっていうと...」

ジャックスを指さして嬉しそうに続ける。

「ジャックスを俺の里に連れに来た!」

が、と続けてシエロのことも指差し、

「だが、ここに来て気が変わった。シエロ。お前も里に連れて行く」

そう、シルクが真剣な顔をして言い放った。


「て、感じかな。本当に覚えてないの?」

「...うん...」

 蟲...シルク...?

「話は終わったかー?着いたから降りてくんねぇー?」

「もしかして寝ぼけてたのかな?とりあえず降りようか」

「...うん」

先にジャックスが降り、振り向いてシエロに手のひらを向ける。

「シエロ。お手を」

「いらねぇよ」

差し出された手を手のひらで叩きながら言う。

「ふはっ!まぁ、何はともあれ、ようこそ蟲の巣へ!」

シエロとジャックスが辺りを見渡すと、そこには広大なジャングルが広がっていた。

木と木を繋ぐロープがそこかしこに張り巡らされ、各家は少年心をくすぐるツリーハウスになっていている。

そして何より...

「あれは...ヒトか?」

姿形全て人間そのものの生物を見てシエロが疑問を投げかける。

 いやでも蟲って言ってたよな?

「ここに人間は居ないよ。どんなに人間に姿形が似てても、全部蟲だ」

「すげぇな...生命の神秘ってやつか?」

シエロが思わず感嘆の声を漏らす

「...ははっ。ロマンチストだねぇ」

 ...それと、リアリスト...か。

シルクがケラケラと笑うが、どこか含みがある顔をしている。


「あっ!シルク様だー」

「ん?」

ふと、落ち着いた声が聞こえてくる。

「ぁ、帰ってきたんですね」

今度は怖気付いてどこか自信がなさげな声が

「?。!おおーお前らー!」

「お久しぶりです」

落ち着いた声の持ち主は、肩までの短髪の淡い栗色の髪にぱっちりとした大きい目とその少し上にはまろ眉を備えているケモ耳で、スレンダーな体格に巫女装束をしている。

「ども...」

怖気付いて自信なさげな声の持ち主は、控えめな金髪のストレートで毛先が少しくるんとなった髪型と、切れ長の細長い糸目で、ほんのり開いている隙間から緑色の瞳が見える、しゃんとすれば身長はかなりのものにあるだろうが、猫背になっているせいで意味をなしていない。そしてこちらもやはり着物を着ている。

「...えっとシルク様そちらの方は?」

ケモ耳が少し困惑した声でシルクに尋ねる。

「あぁ、こいつらはなーー」

シルクがシエロとジャックスの頭を鷲掴みにして笑顔で言う。

「俺の!家族だ!!」

満面の笑みを浮かべ、ケモ耳たちに雑な紹介をする。

 ...これじゃ伝わらないだろ...

「...あの!俺たちはーーー

シルクの雑な紹介に見かねたシエロが補足の説明を始めようとすると、

「まぁ!素敵!あんなに一匹狼でしたのにこんなにあっさりとこの子達を家族と紹介するなんて!」

天然かわざとか若干の皮肉を孕んだケモ耳の言葉が繰り出される。

「ぁ、申し訳ありません、(わたくし)ったら名前も言わずに!」

そういうとケモ耳が手を腰におき、柔らかい笑みを浮かべる。

(わたくし)妖の一族、九尾の末裔にして陽刻を持つもの。寿 旦(ことぶき あさ)ですわ。...ほらあなたも自己紹介して!」

「...ぇぁ、はい...。えっと僕の名前はコーガ=イルミ。一応バッタ...でう」

「あっ僕はジャックス=エジェリー。で、こっちは義弟の、」

「シエロ...=......エジェリー。よろしく」

シエロが二人に握手を求める。

「はーい。これから末長くよろしくねぇー」

寿の方は快くそれに応じるが、

「ぅわっ初対面で握手求めるとか陽キャすぎ...」

コーガは怪訝な顔をした後、渋々握手に応じるのだった...


「ここが、俺の家な」

「うおっでっか」

シルクの家は他のツリーハウスよりも二回りは大きいものだった。

ベーシックな四角い家で、少し広めのベランダが外から見えた。

入ってみると内装はシンプルで、例えばリビングには木造の椅子しかない。

まさに、各部屋に与えられた名称その通りの部屋になっている。

「一応、お前らの部屋用意してたから、今日は旅で疲れただろうし、部屋でゆっくり休め」

「何から何まで本っ当にありがとうございます!」

「いいんだよ別に」

ジャックスとシルクがキャッキャしだした。


「うおっ広っ」

大きめのベット一つに机が一つで床にも大きめのカーペットが敷かれているという思っていたよりも大きな部屋にシエロが驚く。

「シエロ一人で寝て大丈夫?」

「ん?シエロもしかしてまだ一人で寝れないのか?」

シルクがニヤニヤしながらシエロの頭に肘を置く。

「手ぇどけろ。心配しなくても一人で寝れるわ」

シエロが頭の手を退けようとするも、シルクの手はまったく動く気配がない。

「...ったく!しょうがねぇなぁ!そんな弱虫シエロ君は今晩俺が一緒に寝てやるよ!」

「は!?待て待て俺、そんなん頼んだ覚えないんだけどおおおおおおおおぉぉぉ!?」

シエロが必死に拒む中、シルクがシエロを強引に担ぎ上げる。

「じゃ、ジャックス。おやすみ。また明日」

と言ってジャックスに手を振る。

「お、おやすみなさい...」

と、ジャックスは微妙な反応をしながらも手を振りかえすのだった...


シルクの部屋はほんの少し特殊で、間取りとインテリアは変わらないがベランダがついているものだった。

「・・・全くもって不愉快だと思ったが、なかなかに合理的な誘拐だったな」

ベランダの壁にもたれかかったシエロが知的っぽく言う。

「誘拐とたぁ なかなかのジョークだな。けど、()()()()をするには素晴らしい手口だっただろ?」

「...確かにな」


「唐突だが、俺は家族が大好きでね」

「本当に唐突だな。ここにはその大〜好きな家族とやらはいないのか?」

「...ここにはいない。俺の家族はエジェリーだけだ」

「ほう。俺にはまだいないがね」

「だろうな」

シルクがかすかに笑う。

「さっきの続きだが、俺は家族が大好きだ。だからこそ、今の形は危ういと感じている。お前もあんなに近くで見ていたらわかるだろう?収入は国からの援助だけ。しかもそれすらも最近切られてしまった。つまり経済力を持っていない。はっきり言って今維持できていること自体が奇跡以外のなんでもない」

「そうかなぁ...俺、いや...もういいか()は今の形でいいと思っているが」

「...お前は知らないだろう。今、エジェリー家には、莫大な懸賞金がかけられている」

「へぇ...知らなかったなぁそれは」

「それでもなお、まだ襲撃を受けていないのは何故だと思う?」

「間違いなく、アレスの存在じゃないのか?」

「半分正解だ。さすがだな」

「どーも」

「実際、アレスの存在は馬鹿でかい。堕ちたとはいえ、依然英雄。その力を恐れる半端者は多い」

「いぇい」

「もう半分は、あそこを出て行ったエジェリーがどもが強すぎるからだ」

「そーいや5人だっけか?今学園にいるっていう...」

「そうだ。だが、今現在全員学園には居ない。そもそも、学園からエジェリー家までが遠すぎる。だから、いざという襲撃の時に助けには入れない」

「そんな矢先、(異分子)が現れた。だから色々話を聞くためにここに連れてきたんだろう?気が変わったなんてのも全部嘘だろう。違うか?」

「...!流石なんてレベルじゃない...察しが良すぎる...!」

「分からなくても、多少なりとも考えることは出来るだろ」

そう言ってシエロがかすかに笑みを浮かべる。

「...確かに、そうだな...」

そう言ってシルクが俯く。

「わかっているなら話は早い。さっさとお前の情報を吐け。...お前は何なんだ!!」

「...交渉下手か。まぁいいだろう。だが、一つ確認だ。お前はどこまで知ってる?」

「...おそらくは二重人格。片方は普通の一般人。そしてもう一方。お前は、人智を超えた化け物」

シルクが、シエロに指をさしながら言う。

「お前も大概じゃないか。だが、まぁそうだな。絶対に、誰にも言わないのであれば、知っている限りの()を全部教える」

そう言ってシエロはベランダから空の星々を彼方を見つめるのだった。



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