第6逃 結局
〜教会〜
ゴミ回答をしたシエロはまだ膠着状態にある。
「ヒグッふぐっ」
ソラ=エッシャントの方もまた、泣き止む様子が微塵もない。
まさに地獄絵図だろう。
「あっいたいた。よかった〜変なところに行ってなくて。ってあれ?どうしたの?」
そんな地獄絵図に光が差すように、丁度ジャックスが戻ってきた。
シエロにとってはまさに救世主だ。
「そこの草むらで虫探してたら急に泣いてる人間が出てきて対処法知らなくて困ってたところなんだよ。ほんっとう来てくれて良かった」
もはや神の威厳なんて無い涙目の顔でジャックスに救いを求める。
「えっとそこの女の子の事かな」
ジャックスが刺激を与えないように少しずつソラに近寄っていく。
「ふぐっびぇぇぇん」
まだまだとどまる事を知らない泣きソラそのまま抱き抱えると赤ん坊をあやすかのように優しく揺らし頭を撫でる。
「大丈夫だよ怖くないからねぇ」
ずいぶん手慣れたジャックスのあやしテクニックにシエロが感嘆しているとソラが徐々に泣き止む。
「さっすがー」
やっぱあのステアを相手にしてるだけあるな
最後の言葉はぐっと胸に秘め、素直にジャックスを褒める。
「まぁステアを相手にしてるし馴れてるから」
「...」
シエロが使った覚えたての気遣いをジャックスが軽くブレイクする。
「話したくなかったら、言わなくていいんだけど、何で泣いてたのか、話してくれない?」
幼子でも聞き取りやすいよう、ゆっくり少しずつ話す。
「ん、あっごめんなさい、取り乱してしまって」
さっきまでの喚いたのが嘘のようにキチンとし出す。
「改めまして、私の名はソラ...。こちらの教会でシスター見習いをさせていただいているものです。...すみません。泣き喚いてしまい、......修行があまりにも辛くて...」
「あぁ、なるほど、辛かったね」
そう言って、ジャックスがソラを頭を撫でた後、抱きしめる。
...なーんかなぁ
と、シエロがデジャブを感じていると、
「あ、ソラ様こちらにいらしたんですか」
シスターの一人が駆けつけて来る
と同時にシスターを見つけたソラが震え上がる。
「申し訳ございませんこちら側の不手際で信者様に負担をかけさせてしまって...」
「いえいえ全然」
「ソラ様行きますよ。あぁ、それとステア様の方はまだ時間がかかるそうで...」
「そうですか...取り敢えず中に入ろうかシエロ」
「えっ」
また協会の中に入るか入らないか論争を繰り広げようとした瞬間ー
『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン』
という轟音と共に協会の上部が勢いよく吹き飛ぶ。
「「「「!!!!!?」」」」
その場に居た誰もが驚きと困惑の表情の浮かべ、パニックになる。
「ハッ、ステアは無事か!?」
その場に居た中で最も早く正気に戻ったのはジャックス。恐らくは彼の皆を守らねばという強い思いがそうさせたのだろう。
「行かなきゃ…」
「!?無茶だ兄貴!死にに行くようなものだぞ!!」
二番目に正気に戻ったシエロが叫ぶ。
「でも行かないとステアが…」
「非常時には自助!他人の命なんて構うな!」
「ステアは大事な家族だ!他人じゃない!」
「家族だって所詮は他人だ!」
「ッッッッッッッ」
極論をぶつけられたジャックスが怯む。
「そうだ、ジャックス。君にその思考を植え付けてしまったのは私だが...。そして、人命救助は子供に託していいものじゃない」
誰もがパニックになっている中、一際落ち着いた声色で諭すように語りかけてくる人間ー
「だから大人である俺が来た」
そう、いつもと少し格好の違うアレス=エジェリーその人だ。
〜王城(シエロがゴミ回答をした辺り)〜
「追放しても我が国への忠誠心は衰えてないようでなによりだ」
シャルルが安堵したように喋る。
「この程度で国への忠誠心が測れるとは思っておりませんが」
対して謙遜と少しばかりの皮肉を込めてアレスが言う。
依然、二人の空気は凍りついたまま。
「本題に戻ろうじゃないか」
「...」
「まず、愚娘の話だが、教育は順調だと信じた上で呼び戻そうと思う」
「...お言葉ですが、私は基本、本人の素養を見抜いた上で最適な教育を施すことを信条としており、まだそれが見抜くことができず...」
「ハッ抜かしおる。よもや、親子の如き感情を愚娘に対して抱いているわけではあるまいな?」
「...」
「都合が悪うなればダンマリか。それでは昔と変わらないではないか」
「...」
「決めた。貴様の処分はその地位の剥奪とする」
「...おおせのままに」
アレスが立ち上がりながら言い、出口に向かってトボトボと歩き始める。
貴族にとって地位の剥奪は死刑の次に重い処罰となっている。
「二度と我が王城の敷居を跨ぐでないぞ。次跨いだらお前は国家反逆人だ。面倒だから愚娘は貴様にくれてやる」
追い討ちをかけるように、アレスを嘲笑うようにシャルルが言う。
アレスがずっと開けっぱなしだった扉の前に立ち、振り返らずに最後の言葉を発する。
「...王よ。貴方は結局、人の本質を見抜こうとはしなかった」
王の頭に青筋が一本浮かんだのが一瞬見えたが、アレスはそれを気にも留めずそのまま歩き出した。
無駄に豪華に着飾られた廊下でその男は接触してきた。
「よー...あーなんつか、どんまい?で、いいのか?」
長くて真っ黒い髪に真っ黒い服、髪の隙間からチラチラ見える紫色の瞳には吸い込まれそうな魅力がある。髪はなぜかぐっしょりと濡れている。
「なんだ?冷やかしにでもきたのか?ルエ」
とアレスが表情を変えずに言うと、少し困惑したルエが答える。
「いや、別に冷やかしじゃねェよ。ただ、ちょっと落ち込んでるみてーだから元気付けようと思って」
「別にいいさ。いつこうなってもおかしくなかった。俺は、王との距離感を見誤ったんだ」
「...クソ王も損だよな。こんないい奴手放すなんて」
「いいんだ。あの子たちのことを守れただけでも」
その顔には若干の安堵が隠れていた。
「君たちも、もう私と関わらない方がいい。いや、もうすでに、か」
そのまま立ち去ろうとする。
「...冗談きついぜ?アレス。だったら、道が違くなるまで一緒に行こうじゃねぇか」
そう言って少し歩き出した瞬間ー
『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン』
その瞬間、遠くの方から怒号が鳴り響く。
「あの方角は...教会か!クソが!アレス行くぞ!」
そう言って髪を掻き上げながら横を見た瞬間ルエが硬直する。
いない!?
既にアレスは何処かへと行っていた。
ルエが周囲を見渡すとアレスは既に数キロ先に行っていた。
「隠居してもまだまだ現役ってか!じゃあ久々にその力見てやるよ!」
そう言って髪を下ろし、アレスの後を追い始めた。