第1逃 最後の審判
あーやば死んだ?いや、この感じはまだ死んでないぞ。
この感じってどの感じだよ。
あーまじ最悪、なんで見ず知らずのガキなんか助けちまったんだよ。
「ーーじさん!おじさん!」
なんだよ 今眠いんだ後にしてくれ...。
数分前、ここで交通事故が起こった。原因は運転手の飲酒&居眠り運転。
青信号になって飛び出した子供を轢きそうになった。
すんでにところで男が子供を突き飛ばし、男はそのまま轢かれ、子供は九死に一生を得た。
そして、この惨状である。
「おじさんごめんなさい、ごめんなさい、たくさんあやまるから、だから、だからぁ死なないでよぅ」
少年の両目は涙でいっぱいだ。
その瞬間男はうっすら目を開け、血を吐きながら言った。
「チクショウ、死にたかねぇ、死にたかねぇよ...」
「「「!」」」
奇跡と言っていいのか男は息を吹き返した。
野次馬が驚いている中、たった一人、少年だけは、嬉しそうな顔だった。
「おじさん!えっとえっと、ごめんなさいぼく...ぼくぅ..」
だが少年の必死な声も届かず、結局、男の人生はここで終わった。
「全然起きませんね。どうします?」
「そうじゃなぁ。このまま放置って訳にはいかんからなぁ」
「そっすねぇ」
ん?なんだ?声が聞こえ...る?。あれ俺って死んだんじゃなかったっけ?。
「「あ、起きた」」
男は意識がはっきりしない中、うっすらと目を開けて状況を把握しようとする。
「えーっと大丈夫すか?気分悪い?」
男の視界にうっすらと見知らぬ男が入ってきた。
その瞬間、男はガバッと起き、見知らぬ男と額がぶつかり合う。
『ゴンッッッ』っと鈍い音が響き、男二人、額を抑えて蹲る。
「全く...大丈夫か?」
「無理っす。医療手当欲しいっす。ついでに自宅療養させて欲しいっす」
「じゃあ、療養期間中は無給にしとこう」
「ひどいっす。ブラックっすぅ..」
待て待て、状況が掴めない。俺は死んで...。
そっからの記憶が..ない?
「お主は死んだんじゃよ。そして、今はここ、天界におるのじゃ。まぁ正確には下界と天界の間だ」
男は唐突な話についていくことができなくなっている。
「えっと...死んだ?そんな馬鹿な...え?死んだ?」
男二人が揃えて頷く。
「えー現状説明させていただきます。
1、高橋翔吾さん、あなたはつい先ほど死にました。
2、ここは天界と呼ばれる死者の処遇を決める場所です。
3、あなたの処遇は我々『閻魔株式会社 転生部 人間一課』が厳正に決めさせていただきます」
機械的に淡々と述べる。
「と、言うことで自己紹介ですね。先ほど説明した通り、我々は『閻魔株式会社 転生部 人間一課』」
少し間を置いてから続ける。
「おr..僕は見習いの転生の神、ハトホルです」
「ハトホル」と、そう名乗った神は、『好青年』、と言うよりチャラ男のような感じだった。
金に染まった髪に、キリリとした目、それ以外はかなり整った顔と強かな体、何処かのアイドルグループに入れそうだった。
「同じく課長、転生の神、イシスじゃ」
「イシス」と名乗った神は、なかなかの強面おじさんだった。
白髪に厳しそうな目、ゴツい体、神と言われたら真っ先に思いつくような容姿だった。
そして何より、イシスと同じくらいの長さの木の棒、『杖』を持っている。
「あ..えっと..田中翔吾です...?」
田中翔吾、普通のサラリーマン。
容姿平凡、能力平凡、漫画でいえば口から上が暗くなっているようなモブである。
「あり?高橋じゃないの?。あ、ほんとだ名簿に田中って書いてる...」
ハトホルの体がカタカタと少し震える。
おそらくこと後のことを考えて身がまえているのだろう。
「勘弁してほしいっす...」
声にならない声で助けを求める。
「まぁ説教はおいおいとして、」
ハトホルの体がもっと震え出す。
いやどんだけ厳しい説教なんだよ。
「ふぉふぉそんなに厳しくはないぞ。」
ギョッと、翔吾はイシスを見る。
「何を驚いておる。私は神だぞ?考えていることを読み取るなぞ、造作もないことじゃ」
「さて..と」
どこから出てきたのか。
いつのまにか出てきていた椅子とテーブルにイシスとハトホルは腰をかけ、翔吾に座るように促す。
そんな超常現象を今更気にする気力も湧かず、進められるがままに翔吾も椅子に腰掛けた。
「これからやるのは、簡単な質疑応答っす。まぁ面接っすね」
「面接...」
「ーっす。そんな身構えないでいいっすよ」
「そうじゃ。これからの転生先に関わるがの」
えーめっちゃプレッシャーかけてくるじゃん。
「あの...そもそも転生ってなんなんですか?」
「えー知らないんすか?転生してチート能力もらって無双するあれっすよ」
イシスがハトホルの頭をゴチンと殴る。
ハトホルが頭を抑えて大袈裟に痛がる。
「転生とはな、寿命以外の不可抗力で死んでしまった生物を、悔いの残らないように、別の生物としてやり直してもらう、一つの供養方法じゃ」
「でも誰でも彼でも好きに転生させるわけじゃないっす。あんまりやりすぎると、生態系とか色々破壊しかねないんで」
「もうよいかな?」
「あっ、はい」
「では面接を始める」
翔吾は背筋が凍ったように感じた。
「履歴書、死亡動機等はすでに把握してるんで大丈夫っす」
「うむ、私らが聞きたいのは一重に、『前世に未練がある』か、ただそれだけじゃ」
「前世に未練があるか...」
「そうじゃ」
しばらくの間、沈黙する。
「正直...未練がないって言うと、嘘になります特にこれといってやり残したことがある訳ではないですが、でも、死ぬにはまだ早すぎないかって思います...」
「...ふっははははっははははははははは」
ハトホルが失笑する。
「!」「おい」
「ひーひー、いやぁだって、ブフッあまりにも.....真剣すぎてて...いだぁぁ」
鉄拳制裁。
「わ・・我が生涯に悔いばっかし..」
ハトホルが苦い顔で倒れる。
「まぁ君の未練はよぉく分かった。...23か、辛かったな」
立ち上がり、イシスが翔吾を抱きしめる。
「君は私が責任持って転生させてやろう」
「ハトホル!」
「ほいっす」
生き返った!?
「心外っすねー。こちとら見習いとはいえ神っすよ。さて、翔吾サンの職業はっと・・おっ《賢者》っす」
「「賢者!?」」
「よかったっすね!URっすよ」
え、何、ソシャゲのガチャかなんかで決めたの?
「そっす。」
「軽っ」
「世界名は?」
「おっケイルっす」
おっけ...いる?
「ケイルっていう世界っす」
「ランクは?」
「SSRっすね。翔吾サンとことんついてるっす」
「家柄は?」
「あーRの伯爵っす。まぁ総合SRっすね」
「おし、分かった。翔吾!聞いていた通りだ。今から君を異世界ケイルに転生させる。少しついてきてくれ」
10分ぐらい歩くと、そこにはとてつもなくデカい大穴が空いていた。
「今から君にはこの大穴に入ってもらう。出た先は下界の母親の腹の中だ。と言っても記憶が覚醒するのは、もっと 安定してからなのじゃが」
「...はい」
「これより転生の儀を始める」
「『閻魔株式会社 転生部 人間一課』課長、転生の神 イシス」
「同じく見習いの転生の神 ハトホル」
「「以上二名の名に置いて、人間『田中翔吾』を世界『ケイル』へ転生させる」」
大穴に魔法陣が展開される。
「達者でな、翔吾」
「簡単に死なないでくださいよ?」
「短い間でしたがありがとうございました」
翔吾が魔法陣に飛び込む。
「あ、記憶が覚醒したら、ステータスオープンっすよーーーー」
...そういうことは早く言ってーーーーー...。
飛び込み、魔法陣に触れた瞬間..消えた。
「無事、転生できたっぽいっすね」
「あぁ」
パチッ
ずっと眠っていた赤子が目覚める。
あれ?ここはー...どこだ?俺は確か死んで天界に行って...
そうだ転生!!
翔吾は辺りを見渡す。テーブルやベット、椅子等があるが、どれもこれも見たことがない。
えっと...転生完了ってことでいいんだよな?
やば、緊張してきた。
ははっ、ともかく、これから俺の異世界ライフが始まるって事だな。
えっとまずはハトホル様が言ってた...
「ステータスオープン!!」
何々...
オーラ=フィリス
フィリス伯爵家嫡男
職業 《賢者》
称号 いずれ頂へと至る者
異世界より来たる者
自身(平均)
魔力 300000(500) 防御 5000(2000)
攻撃 200(3000)
属性 火 水 地 光 闇 神聖
スキル《魔力補正EX》《対魔法特化EX》
《会話補正EX》《超速回復EX》《解析EX》
なお、職業、称号、属性、スキルはしばらく他人に秘匿されます。
え、何これ平均より全然高いじゃん
属性多くね? スキルてんこ盛りだし。
あ、もしかしてこれがハトホル様の言っていた、転生してチート能力もらって無双するあれなのか?
そうなのかー?
〜天界〜
「翔吾さん喜んでっすねー」
ハトホルがケラケラと笑う。
「驚いているの間違いだ。それと今は『オーラ』だ」
「そっした。そっした」
「おーい、そろそろ交代の時間だ」
右目を髪で隠した無表情の男が近づいてくる。
「ネフティスさん!お疲れ様でーす」
「おう、お疲れ」
「もうそんな時間か。ハトホル、私は引き継ぎがあるからタイムカードきって先上がれ」
「うっすお疲れしたー」
「おう」
ハトホル行ったのを確認すると引き継ぎ作業が行われた。
「えっと今日送ったのは二人だ。一方は『賢者』、もう一方は『勇者』だ」
言いながら、その二人の転生語録を渡す。
「分かった。引き継ぎご苦労」
「...まだ治らないのか、その目」
「!、まぁそうだな..いろんな名医に診せているが、なかなか分からない」
そう言ってネフティスは隠していた右目を見せる。
その目は真っ赤に染まっていた。
「こいつのせいでよく厨二病と間違われる。実害は無いが、迷惑千万だ」
「ははは...」
イシスは触れてはいけない物に触れた気がした。
「さぁ交代の時間だお前もタイムカードきってさっさと帰れ」
「あ、あぁ..なんか..ごめん...」
「いいんだ。気にすんな。」
今度はイシスが帰って行った。
「...悪いな、いっつも」
本当はずっと前から、この目について分かっていたというのに。
イシスは帰路についていた。
「はぁ」
どこか怯えているような雰囲気でー
ちょうど20分経ち家に着いた。
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた」
そう言ってイシスを出迎えた女、モイライは、お淑やかをそのまま具現化したようないでたちだった。
「あぁ」
「今日もお仕事大変だったでしょう」
「あぁ、そっちも大変だったんじゃないか?」
モイライは『閻魔株式会社 ギフト部 人間一課』で人間に『ギフト』と呼ばれる特別な力を授ける仕事をしている。
「えぇまぁ」
イシスは妻と会話しながら家に上がろうとする。
「お待ちを」
「ングッ、ど、どどっどっどうした?」
「あなた...いえ転生の神『イシス』様?」
「なっななんなんだ?」
イシスの身体中から冷や汗が溢れ出る。
「浮気...してらっしゃいますよねぇ...」
「!!!!!!」
「なっなななななななななんのことかぁ、ゼフッ全然、そう全っ然分っからないなぁ」
平常心、平常心っ今こそっ仕事で培った営業スマイルをぉぉ。
イシスはもはや冷や汗が滝のように流れ、全身がガクガクいっている。
その状態で恐る恐るモイライの方を見やる...と。
仮面なのか素の顔なのか、般若のような...いや般若の顔でイシスを見ていた。
...手に浮気の証拠写真を持って...
終わったー勝てねー
「ま、待て話し合おう。な?あ、そうだ今はなんの世界の管轄なんだ?」
「『ケイル』ですがぁぁ。」
ケイル?...それってさっきの...
「私は転生の神様と結婚したつもりだったのですが、いつの間にか浮気の神様に転生していたようですねぇ〜」
「ま、待て誤解だ」
「であればどういう?」
ま、まずいこのまま捕まると終わる。
イシスはもはや涙目だった。
ここはもう
「逃げるは恥だが役にたつッッ」
イシスは逃げ出す。
モイライが間髪入れずに追いかける。
「待てやゴラァァ」
もはやお淑やかもクソもない状態で追いかける。
「ごめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんん」
神様涙目
「ごめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんん」
神様号泣
「ほんっとマジでごめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんん」
神様威厳ゼロ
つかあいつどこに向かってんだ?
と、モイライが疑問を持ち始めた頃イシスはー
やばいやばいやばいやばいやばいどうしよーう。
何も考えずに涙、鼻水、汗ダラダラでただただ走っていた。
どうする?どうすれば逃げられる?
イシスが逃げ出し始めてから、20分が経ち、さっき翔吾が転生したゲートに戻って来ていた。
「くすっ、やっぱりやっぱりきたね。世界はーさっきのでいっか」
「『閻魔株式会社 転生部 人間二課』課長、転生の神 ネフティス」
「以上一名の名において、転生の神『イシス』を世界『ケイル』に転生させる」
大穴に魔法陣が展開される。
「おっ、来たね。イシス」
「ネフティス!?」
「イシス、君の逃亡劇手伝ってあげてもいいよ」
「!」
そう言って髪を上げる。
ネフティスの目は変わらずー否、神々しく光っていた。
「実はだいぶ前に病状を言われたんだ。この目、実は病気でもなんでもなく、『神眼』という神の固有術式なんだ。 未来が見える。 今まで黙ってて、ごめんね」
「....いや、気にすんな。何も無かったんだったら、それで良い」
「そっか、ありがとう。お詫びといってはなんだけど、“あれ”起動させといたよ」
そう言って後ろを指差す。
「お前...」
本来、私意的な『大穴』の使い方は犯罪なのだが、イシスにそれを指摘する余裕はない。
「悪い助かる」
「あっちでも達者でね」
「あぁ」
そう言うとイシスは、少し助走をつけて飛ぶ。
「ーっ」
そして、魔法陣にかかった瞬間消えた。
「転生完了...かな」
少し遅れて、モイライが到着する。
「あら、ネフティスさん。イシスのこと見てません?」
「....イシスなら鬼の形相であっちへ行きましたよ」
ネフティスが指差した先は、『地獄』
「そうですか。ふふっそのまま地獄に落ちて一生戻ってこないで欲しいですわ」
「素敵な笑顔でとんでもないこと言いますね」
「あら、お恥ずかしい。それでは、ごきげんよう」
そう言い残し、モイライは地獄へと突っ走って行った。
「宜しかったので?こんな事すれば、支持率に関わりますよ」
「良いんだよ。大事な親友が困ってんだ」
「はぁ。全く」
〜ケイル〜
「転生完了。あ、なのじゃ」
ん〜語尾はもういいか。キャラだし。そんな老いてないし。
「よし、ステータスオープン!」
シエロ=エジェリー
平民
職業 《?》
称号 絶対神の親友
転生の心得
自身(平均)
魔力 測定不能(10000) 防御 測定不能(2070)
攻撃 0(1700)
属性 神聖
スキル《全属性EX》《物理無効EX》《魔法無効EX》《解析EX》
《無限神速再生》《転生》
加護《絶対神の加護》
なお、職業、属性、スキルはしばらく他人に秘匿されます。
なお、称号、加護はしばらく秘匿されます。
んー神だった時と変わんねーな。
秘匿されてんの多すぎてなんかひっかかっけど、
「必ず逃げ切ってやんよ。モイライ!」
〜天界〜
モイライはまだ地獄辺りを探していた。
おかしい全然見つからない。ちっ。逃げられたか!
「必ず見つけ出してやる。イシス!」