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現役竜王、人間界に堕ちちゃったw  作者: ワスレナグサ
3/3

3 立志練成の機

我の兵を以って方円防御陣を引いたが間に合わずアイシャに軽々と突破されてしまう。


「坊ちゃま―ーーーー!!」

「待てぃ!!不埒者!!」

防御陣を突破する僅かな時間でスチュワート兄弟がアイシャに追いついた。


スタインは馬上から例の愛槍「龍鉈」を全力でアイシャに振り下ろす。

リチャードは愛用の大剣「虎切」に渾身の力を込めてアイシャに斬りつける。


「うわっ…」

さすがの我も目を瞑った。


シーン


何も起きなかったことを不審に思いうっすらと目を開けると…

アイシャが片手でスチュワート兄弟の武器を白刃取りしていた!!!!


「なに晒すんじゃこのガキどもぉぉぉ!!!!」

アイシャの怒気を込めた唸り声とともにその身体が黄金色に包まれた。


「なんだと!?この女、闘気コンバット・オーラを扱えるのか!???」

スタインの驚きの声すら全く気にも留めず、アイシャは兄弟の武器を毟り取り空へぶん投げた、と思ったら兄弟自身も腹を抱えて膝から崩れ落ちている。

アイシャの裏拳が兄弟のみぞおちに刺さり二人とも口から変な泡を吹いていた。


「三下がぁ、吹き上がりやがって、身の程を知れ」

ヤ〇ザのような捨て台詞と唾を吐くとアイシャはクルっとこちらを向いた。満面の笑みで。


「坊ちゃま―!!!」

再びこちらへ突進してくる。遮るものはもう何もない。

我はおとなしく縛についた。


---------------------------------------------


自宅へ戻ってすぐ父と母が泡を吹いて倒れた。

荒くれ者として有名なスチュワート兄弟とその兵300が我の配下となったのを聞いたからだ。

お説教はベアトリスとアイシャが担当した。


ベアトリス「坊ちゃまは由緒ある貴族であるロシュフェルト家の三男なのだから…(以下省略)

アイシャ「クドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクド…(省略)


下らん話を聞き流している間にふと気になるワードが耳に入った。


「我は6才になったら学校へ行くのか?」


「以前からお話ししていたとおり、シリウスさまは来月6才となったら主家ヴァルフレード公爵家に居候して商業都市レンデンにある幼年学校に入学することになります。」


「ほほう?それは楽しみだな!」


「スタイン!リチャード!そなたらは歳はいくつになる?」


「21でございます。」スタインが答えた。

「俺は19だぜ!」リチャードが答えた。


「うーむ、2人とも供として連れて行くには年が行き過ぎているな」

2人とも残念そうに項垂うなだれる。


「あたしならお供にちょうどいいかと!」

アイシャが元気よく立候補する。

「いま大事な話をしている。面白くもない冗談を言う場面ではないのが分からんのか?」

スタインが冷ややかにアイシャを制す。

「そうだそうだ!笑い話はそのペタンコの胸だけにしておけ!!胸だけは入学できる大きさだがな!ゲラゲラゲラゲラ」

豪快な笑い声を放ちながらリチャードが吠えた。

怒りと羞恥で真っ赤になりながら今度はアイシャが項垂うなだれた。


「まあ、我1人で行くのもよいか」


窓の外の景色を見ながら我は呟いた。

穏やかな風が森の樹々の葉を揺らしながら暖かな陽の光が差している。


ふと閃いた。


「なあアイシャ?軍人の学校とかってあるのか?」


「あります。陸軍士官学校というものが…。それが何か?」

涙を拭いながらアイシャが答える。先ほどのやりとりが心に刺さったのか


「いや、こいつら我が幼年学校に行っている間何かさせてないと心配でな」


「坊ちゃま、士官学校は貴族や極一部の優秀な人間しか行くことが出来ません。こいつらのようなボンクラが行けるところではないです」

アイシャは一転しニヤニヤとスチュワート兄弟を蔑んだ目で見ながら吐き捨てた。


「バカな!我らも他国とは言え貴族の端くれ、資格がないわけではないだろう!?」

スタインが抗議する。


「お・べ・ん・き・ょ・うできるんでちゅか~~??」

ここぞとばかりに畳みかけるアイシャ

途端に青ざめるスチュワート兄弟


「あれれー?お勉強できないのに学校に入ろうとしているおバカさんはっけーん♡」


「その辺にしておけ」

我がたしなめるとアイシャは背筋を伸ばしてお澄ましをした。


今後の関係を考えるともう少し仲良くしてもらいたいものだが、さて…


「よし!決めた!!お前ら二人とも傭兵となって我が学校にいる間、戦の経験値を積んでおけ!!」

「ははっ!」

「それなら俺に適任だぜ!」

兄弟は二人とも満足気に同意した。


「アイシャ」


「はい、坊ちゃま」


「お前はこの2人にさっきの闘気コンバット・オーラを教えてつかえるようにしておけ」


「えぇーー、あ、はい。畏まりました。」

渋々ながらアイシャは同意した。


「まてまてー!俺はこいつから教わることなんかなんもないぜ?」

「主君、私もリチャードの意見に同感です。」

スチュワート兄弟が猛反発する。


「我の側近たる者がいつまでも弱虫のままで良いと思っておるのか?」

冷たく言い放ったが…


「兄者!俺がシリウス大兄の側近だって!!」

「おう!聞いたぞ弟よ!これはもっと励まねば!!」

2人はなぜか喜んでいた。


「私から主君へ質問してもよろしいですか?」

スタインが恭しく口を開いた。


「うむ、許す」


「主君はこの先何を目指すのでしょうか?」


「天下取りに決まってらぁ!!」

リチャードが吠える。


「アイシャもそれ聞きたかったですぅ~」

アイシャが目をキラキラさせて相槌を打つ。


ベアトリスの講義で聞いた限りだがこの国の政情は不安定だ。

王族同士の争いに貴族の派閥争いも加わり一触即発の事態となっている。


我は考え込んだ。


何も考えてなかったからだ。どうしよ?


「私が騎馬兵を率い弟が歩兵を率いれば当たるところ敵なしですぞ!!」


スタインの勇ましい言葉を打ち消すように我は苦笑混じりに言い放った。


「我の目指さんとするところは遥か遠い。今のお前たちには到底理解出来まい」


「おおぉーー!!さすが大兄!深慮遠謀だぜ!!」

リチャードが難しい言葉を使って驚嘆する。


「大鳳の考えるところ確かに小鳥には計ることすら出来ますまい」

スタインは一礼をして下がる。


「あたしは坊っちゃまの行くところなら何処でも付いていく~」

アイシャが叫ぶように言い切った。


何処かすら決まってないんだが?

お前たちどころか我にも我が理解できないんだが?



そして我は6才の誕生日を迎えた。

商業都市レンデンの門前に我は居る。


レンデンはライデンから200㎞程北東にある。

家から通うことはできないから公爵家に居候することになった。

ヴァルフレード公爵家は竜騎士団を率いる王国随一の軍勢を持ちながら経済的にも発展している都市を複数抱えている。

王国への発言権もかなりなもので先代当主は宰相を勤めていた名門中の名門だ。

当主は代々伝わる大剣『竜剣』を携えて戦場では鬼神の如き働きを見せたという。

それもそのはず『竜剣』はSランクに位置する名剣の中の名剣でその真の力は竜王をも凌駕するという話だ、まあ眉唾だがな。

竜王たる我輩が言うのだから間違いあるまい。

そもそもたかだか剣の分際で竜王を凌駕するとかあり得る話ではない。

神が作った『神剣』ですら我輩には傷一つ付けられなかったではないか。むしろ折れて砕けたではないか。馬鹿らしい。

そのような物を大切に信奉しているヴァルフレード公爵家というのも高が知れている。「笑」である。


旅中の警護として付いてきた我が家の騎士2人も既に帰路に就いており我1人となっている。

ヴァルフレード公爵家の具体的な場所は訊いてなかったが一番大きい建物を目指せば間違いなかろう。


レンデンの門を通過すると真っ直ぐな大通りに入った。

大通り沿いには様々な商家が建ち並び大勢の人々で賑わっていた。


商家の終わりに辿り着くと巨大な屋敷とそれを囲む堀が見えた。

屋敷に行くには衛兵の立つ大きな橋を渡らなければならない。

衛兵はざっと10数名が立っていて奥に詰所もあるのでそれなりの数が居そうだ。


「関心関心、いつ何時狼藉者があらわれるか知れたものでは無いからのう」

我はそう呟きながら衛兵の脇をスッと通ろうとした。


「キサマっ何奴!!許可なくここを通すわけにはいかん!」

やれやれ…どこかの馬鹿が衛兵の許可を得ず橋を渡ろうとしているのか。どんな馬鹿か顔を拝んでやるとしよう。

目を衛兵の方に向ける。怒り狂って真っ赤になっている衛兵と目が合った。

あれ?我の事?だって我は…

「餓鬼とは言え容赦せんぞ!!」

衛兵は槍の穂先を我の眼前に突き付ける。


我も狭量ではないがこうまで居丈高に来られると癇に障る。


「まてまて!我は…」

「問答無用!去ね去ね!!」


衛兵はそう言うと槍を我に向けて繰り出してきた。

槍が我の顔面を直撃する、我の額から血が迸る。

衛兵は更に我の腹に蹴りを入れる、我は無様に吹っ飛んで転がる。


「クソ餓鬼がっ!」

追い討ちとばかりに我に唾を吐きかけた。

顔面にヒットした。

避けるのは簡単だが我は今回容赦しない。

我は立ち上がり唾と血を服の袖で拭い衛兵に向かった。

「餓鬼がまだやる…」

言い終わる前に衛兵の首が宙を舞う。

隣でニヤニヤして見ていた仲間の衛兵が悲鳴を上げ救援を呼びに行った。

詰所からワラワラと衛兵が出てくる、ざっと40人計か。


「狼藉者!覚悟っ!!」

槍や剣を手に我に押し寄せて来ようとする、がその場で皆血を流して地面に倒れ込む。


「こいつ強過ぎる!ダメだ騎士様を呼べーー!!」


騎士とやらを待ってやる道理もないため我はズカズカと橋を渡り屋敷に入る。

途端に大剣を掲げた集団に包囲される。

「騎士団、掛かれーーっ!!」

包囲からの同時集中攻撃、ランスならぬグレートソードによる吶喊チャージは敵に甚大な被害を与える、はずであった。


一瞬、瞬きすらしていない。騎士たちは四肢が切断された無惨な姿を晒している。


我は騎士の骸を尻目に更に奥へと進んで行った。


一際豪奢な扉がある。蹴り開ける。進むと恐怖に脅えた女官たちとそれを護るように貴族とその子弟と思しき者たちがいた。


「そ、それ以上近づくなーー!」

甲高い子どもの声、それでいて甘えや奢りが入り交じっている嫌な音だ。

従う謂れもないので歩を進める。


魔法が飛んでくる、第四階梯魔法のフレイムキャノンだ。

解呪魔法ディスペル・マジックで効果を打ち消す、と言っても片手で払う動作をしただけだが


「な、な、な、なんだとーー!?」

先程と同じ甲高い声が驚愕している。


お返しに我も第一階梯魔法のファイアーアローを小指で放った。

豪炎が貴族の集団に向かって飛ぶ。

長らしき者が先頭に躍り出て大剣を掲げた。

豪炎が集団に直撃、視界が晴れると不思議なことに全員生きていた。無論無傷ではないが


「面白い道具を持っているな。もっとももう使い物にならぬようだが」

先程の剣、刀身が焼け焦げ朽ちている。


「会話ができるのか?」

長らしき者が声を発した。

「そちらが問答無用とのことであったのだぞ?」

「それは失礼をした。もし可能であれば我々は全面降伏をしたいのだが受け入れてくれるか?」

「ふむ、問答無用で降伏か。潔くも素早い決断だな。我に槍をつけ蹴りを入れ唾を吐きかけた無礼は赦してつかわそう。」

「有難き幸せ。ところで貴方様のことを何とお呼びすれば良いでしょうか?」

「その連絡があったことすら失念しているのが今回の騒動の一因よの。我はカストル・ロシュフェルト男爵の三男、シリウス・ロシュフェルトなるぞ!」


皆がポカーンとしている中、長だけが恭しく座り込み礼をした。

「我が主、シリウス・ロシュフェルトさまに栄光あれ!!」

他の者らも慌てて長に倣い唱和した。


「私はヴァルフレード公爵家当主、マキシミリアン・フォン・ヴァルフレードと申します。」

貴族らしく煌びやかな衣服を身にまとった金髪の青年が畏まって我に自己紹介した。

「うむ、では今後『マキシム』と呼んでやろう」

「ははっ、有難き幸せ」

遠くで恐る恐るこちらを覗いている医師団に気付いた我はマキシムに目配せして怪我人の救護を許可してやった。


「早速ではありますがシリウスさまに御相談が2つ御座います。」

「申してみよ」


「1つ目で御座います。形式上私の養子となって公爵家を継いでは頂けませんか?」

「2つ目はライデンの学校ではシリウスさまにとって退屈なものとなりましょう。王都の大学に飛び級で編入学するのは如何でしょうか?」


「我がここに居たのでは色々差し障りがあるから体良く追い払う算段か?」

「滅相も御座いません。王都に御遊学される際はこのマキシムがお供致します。」


「御館様が直接行かなくとも、」

家宰らしき老人が口を挟む。


「私は士官学校の校長とは旧知の仲でな。手紙で遣り取りするよりも直接談判した方が早い」


「いや、よい。折角だが提案は二つとも却下する。理由も知りたいか?」

「可能であれば是非お伺いしたいです」

マキシムはいくらかしょんぼりしている。

「1つ目、養子の件、元からいる嫡男を廃することになる。今は国内で目立つつもりは無い」

「2つ目も似たようなものだな。当地の学校を経ていずれは王都に行くつもりだ」

「ははっ!左様に手配させて頂きます」


「さて、我は疲れた。寝所へ案内せい」

「それでは今日は離れを仮の寝所としてください」

「うむ」


シリウスが去った後ーー


「御館様!あの者になぜ服従せねばならんのですか!?今からでも討手を出ー」

「あの方に逆らってはならぬ。何人と言えどあの方に勝てる者などおらぬ。いまは一刻も早くあの方の身内と認められるべく誠心誠意お仕えするしかないのだ…」

家臣からの進言を遮りマキシミリアン・フォン・ヴァルフレードは怒気を孕んだ声で静かに言い渡した。

「それでは死んで行った者たちに申し訳がたちませぬ。せめて一矢でも報いたく…」

食い下がる老臣に対してマキシミリアンは冷たく問う。

「ライデン住民40万を犠牲にしてでもか?」

軽くため息をつくと

「ワシが決めたことだ。恨むならばあの方ではなくワシを恨め。決してあの方に弓引くことはするなよ?」

マキシミリアンはそう言って静かに場を後にした。


翌朝早々、我はマキシムを呼び付けた。

「マキシムよ。昨日の一件なかなか見事な立ち回りであったな」

「滅相もありません。ただただシリウスさまの深いお情けに縋ったまででございます」

「ふむ、しかし我の扱いには家中も賛否両論なのではないか?」

「その辺は私が厳しく取り締まります」

「そうか、ならば我も少し手助けしてやろう」

「えっ!?」

我はその場で指を鳴らした。乾いた音が響く。

「何をされたので?」

「刻を戻したのだよ」

ぽかんと口を開けたマキシムの顔からは普段の威厳や知性が抜け落ちたかのようだ。

「正確に言うと我とマキシム以外の刻を事件前に戻したのだ」

言いながら寝台から飛び降りる。

「信じられまいが直ぐに分かること。時間はないぞ!次はしくじりの無いように万全を期せ!!」

「ははーーっ!!」


そしてライデンの城門に着くとマキシム公爵自らが儀仗兵を引き連れ我を迎えに来ていた。





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