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思春期男子の天国と地獄

 しかし現状『アイテムボックス』に閉じ込められている彼女を放置したまま死ぬわけにも行かないと、とりあえずは切腹を思いなおし、何とかリカバーできる方法は無いかの思ったのだが……。


「く……なんで“装備を外す”なんて項目があるのに“装備する”って項目が無いんだよ!? RPGの馬車システムならあって当然なのに……」


 俺がそう悪態を吐くと、緑色の文字列の横にポップアップのように『補足』という項目が浮かび上がった。


*待機パーティーシステム

 仲間が現状では命の危険が高い場合、時間経過を停止できるアイテムボックス内に収納する事で回復可能な教会などに搬送できる裏技。

 勇者はこの方法で瀕死の仲間たちの危機を何度も潜り抜けている。


*装備を外す

 ラスボスの魔王が纏っていた『暗黒の神衣』をはぎ取る為に編み出した苦肉の策。

 最後の戦いでのみ使用されたので、現在まで悪用された事は無い。

 ちなみにラスボスの魔王はドラゴンタイプだったため倫理的には特に問題無かった。


「ど~~~~でも良いわ、そんな情報!! 要するに現状では脱がす事が出来ても着せる事が出来ないって事じゃね~か!?」


 こうなると、まださっきまでの方が良いワケが可能だった。

 拉致監禁未遂とは言え、不可抗力の無意識である事を含め誠心誠意の謝罪の後事情説明を行えば、喩え数年のブランクがあるとは言え元は幼馴染であったか彼女……もしかしたら分かってもらえるのでは? とういう都合の良い淡い期待も無いでは無かった。

 しかし、不可抗力であろうと何であろうと、強制的に脱がせてしまったとしたら……もう言い訳はできない。

『アイテムボックス』の中で装備させる事が出来ないという事は、今この場で彼女を出した場合……生まれたままの姿で現れるという事になるワケで……。


「……………………………………は!?」


 その様を想像して卑猥な妄想に浸りかけて……俺は慌てて首を振り頭から妄想を無理やり追い出す。

 アホか俺は!? 今はそんな事を考えている場合じゃない!!

 今、正に俺は性犯罪者としての道へと踏み外そうとしている瀬戸際だというのに!!

 俺はとにかく彼女を『アイテムボックス』から出す事を前提に、先ほど入れたティッシュ箱を先に出すという実験をする事にした。

 本当に、何故俺は誰しもが思いつくはずの実験をやらなかったのだろうか?

 それさえやって置けばこのような事故は未然に防げたはずだというのに……。

 今度こそ俺は冷静に、選択ミスをしないようにカーソルをティッシュ箱へと合わせて間違いなく“取り出す”をYESに選択…………そうすると掌に現れた魔法陣の中に、さっき入れたばかりのティッシュ箱が何事も無く現れたのだった。


「……何事もない……か」


 俺はそのままティッシュ箱を机の上に置き、今度は所持品の欄に散らばってしまった項目の一つ『女子高生のブレザー』にカーソルを合わせる。

 理由は単純……コレから彼女が現れた際に即座に服を着れるように配慮するためだ。

 もうこうなってしまうと俺も覚悟を決めるしかない。

 拉致監禁、婦女暴行未遂として訴えられ、退学、少年院を経て社会的に抹殺まで視野に入れる必要があるだろう……。

 しかしせめて、今出来うる精一杯の気配りは必要だろう。

 先に『霧ケ峰吹雪』本体を出してから服を取り出していてはタイムラグが生じるからな。

 その配慮は間違っていないと思う……思うのだが…………再び掌に現れた魔法陣から現れた、しっかりと畳まれたブレザーを手にした瞬間、またもや邪な感情が沸き起こる。


「あったかい……………………は!? 俺は今何をしようとしていた!?」


 俺は手にしたブレザーに顔をうずめようとしているという、行った瞬間人として終わりそうな事件の一歩手前で我に返った。

 マズいぞコレ!? あの娘の服、しかも脱ぎたての段階で意識が飛びそうに!?

 俺ってそんなに変態だったのか!?

 そこまでダメ人間だったのか!?

 ダメだダメだ! このまま温もりを感じていては、俺は人として堕ちるところまで堕ちてしまう!!

 意識を他に向けるんだ自分! 今指先に感じている触覚を極力遮断するのだ!

 その他の感覚も全て意識を外に!!

 そうだ……すべての意識をあの広大な夜空へ、無限に広がる大宇宙の外側へとダイブするのだ。

 あの煌びやかな星々を思えば、所詮人間などちっぽけな存在。

 その人間が纏う衣類など、ただの繊維の集合体に過ぎないのだ。

 そう、繊維の集合体……。

 喩え純白のブラウスから堪らない香りがしても、喩え男性では絶対にありえない造形の胸部補正器具に油断できない情欲が沸き上がりかけても……喩えあの夜空に浮かぶ月を絶妙な配置で彩る雲の如きシマシマが視覚情報として飛び込んできても……。


「し……しましま………………ってバカヤロウ!!」


 俺は反射的に自分の拳で自分の頬を殴るという荒業で何とか自我を保つ事に成功する。

 他人が見れば呆れるかドン引きするかの二つに一つだろうが、その作業は俺にとって生殺しの生き地獄でしか無かった。

 そして、全ての衣類そうびを床に置き終えると……再び覚悟を決めて正座する。

 そこからの境地は無心……額、背中、掌と汗をかいていない所が存在しない程に緊張感はあるものの、ほとんど処刑前の死刑囚の心地である。

 本当なら、もっと違う形で再会を果したかった。

 俺が勝手にドロップアウトしてしまったのが原因だけど、彼女は特別避けていたワケじゃない。

 少しは勉学でも運動でも何かマシに、自信を取り戻せたなら……そんな淡い都合の良い未来を思い描いていた。

 しかしこうなってしまった以上、罪を認め謝罪するより他ない。

 俺は『アイテムボックス』から出て来た瞬間、彼女に悲鳴を上げ、罵倒され罵られ、そして悲鳴を聞きつけた親に発見された後、俺は多分社会的に終わるだろう。


「しかし、最早それも止む無し……」


 俺は全ての覚悟を決めて、『アイテムボックス』『所持品』の欄に残った最後の一文『霧ケ峰吹雪』へカーソルを移動させ、決定する。

 せめて出て来た時には彼女を見ないように頭を下げて……。

 ……しかし俺はこの時、またしても見落としている事があった。

 それは今まで『アイテムボックス』に入っていた物は“どうやって”外に出て来たかを。

 その事を思い出したのは、正座する俺の両手の平に、まるでお盆のように魔法陣が出現した瞬間であり……。


「あ!? やば……」

「……今日は生徒会活動は無いし、帰りに………………え?」


 そしてキャンセルの方法など分かるはずも無く、俺の両手に柔らかく温かい、美しき肢体の何者かが、まるで放課後の一瞬を切り取られたかのように話しながら現れた。

 それはそれは凄く、すっごく、すご~~~~~く刺激的な格好で、お姫様抱っこというお姿で……。


「ガハ!?」

「え? え? ええ?? アレ? 君はレン君……ってちょっと!?」


 その瞬間、どうやら俺のキャパは完全にオーバーしたようで……神聖なの光景と共にブラックアウトしてしまった。

 人は神と言う崇高な存在を目にした時、目が潰れると……どこかの聖職者が宣っていたような気がするが…………どうやらそれは真実だったようで。





ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。

お手数をおかけしますが面白いと思って頂けたら、感想評価何卒宜しくお願いします。

他作品もよろしくお願い致します


書籍化作品『神様の予言書』

 物語の雑魚敵が改心したら……という『チートなし』物語です。

 宜しければご一読下さい。

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[一言] これからどうなるのかが気になるのに中々更新されなくて残念です
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