選択、『収納能力《アイテムボックス》』
「収納能力でお願いします」
『収納能力ですか……確かに攻撃魔法でも武器でもないですから、あまり大事になる事はないでしょうけど……』
悩み抜いた末に俺がようやく出した結論だったが、女神様は微妙な顔になった。
世界を救った代償としては安いと思っているんだろうけど、でも混乱をきたさない絶妙なチートと考えるなら、この辺が妥当じゃなかろうか?
収納能力はいわゆる青いロボットが使うポケットのようなもので、そんな大荷物でも収納して手ぶらで移動できるという、冒険者にとってパーティーに一人でも使用者がいれば重宝する力だ。
ま……俺の収納能力は精々10畳程度の一部屋分くらい。
パーティーの魔導士に比べれば微々たるものだったからな~、邸クラスを収納できたアイツに比べれば俺の能力なんぞ大したもんじゃないから、元の世界で混乱をきたす事も無いだろうや。
記憶を失って日本に戻った俺はチートを持っている事すら忘れて、下手すると一生涯自分の能力に気が付けないかもしれないが……それでも、そんな多少の収納能力くらいであるなら諦めも付くってもんだし。
『本当に宜しいのですか? 現在お持ちのこの世界のアイテムも全て回収させて貰う事になりますけど……』
「当然でしょ? 瀕死の重傷を回復できるエリクサーやら巨大なドラゴンすら消滅させる魔法爆弾何て持って帰っても扱いに困りますよ」
『諦めなって女神さん、この真面目なボンクラに過剰な礼は負担にしかなんねーよ』
納得していなそうな女神様を慰めるかのような斬九楼の声…………俺の異世界での記憶はそれを最後に薄れて行き…………。
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「……ん? あれ??」
何でもない日の朝、俺はただ学校を目指して歩いていたハズだった。
周辺を見渡してみても、何の変哲もない日常の風景……通学路にあるブロック塀も、最近では朽ち始めているポストも、遠くに見え始めた高校も、全てが何一つ珍しくも無いはずなのに……。
なぜか一瞬だけ強烈な懐かしさを覚えて、そんな感覚をなぜ今突然感じたのか分からなくなり、立ち止まってしまう。
「??? 変だな……何だか10年ぶりに故郷に帰って来た戦場カメラマンの心境??」
本物の戦場を知りもしないクセにそんな事を考えること自体が無礼な気持ちもあるのだが、何故だかそんな表現が間違っていないという自覚もある妙な感覚。
「オ~ッス、なに道のど真ん中で突っ立ってんだよレン、遅刻すっぞ?」
そんな心境をぶった切るように声をかけて来たのは、同じ高校に通うクラスメートの男友達佐藤だった。
しかしその瞬間にも物凄い懐かしさを感じそうになり……昨日も同じように会っていた事を思い出して慌てて頭を振る。
「なんだぁ? 調子でも悪いのか?」
「ん、いや……何か妙な夢でも見たのかな? 妙に頭がボンヤリする」
「お? もしかして思春期バリバリなヤツか? 早朝下着を洗濯する系の……」
「ん~~? いや、何というかそんな嬉し恥ずかし系じゃ無かったな。大体そんな早朝を迎えていたら、羞恥心全開でお目めパッチリだろうよ」
「そら違いない!」
朝からゲラゲラと下品なバカ話で笑う友人との登校風景……そんな当たり前の事にすら喜びを感じてしまうとか、本当に今日の自分はどうかしているのだろうか?
神代煉 高校2年でどこに出しても凡庸な……もっと言えば成績は中の下、運動神経も大してなく人生の目標も特にない、俺はそういう人間であるハズだが??
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