プロローグ 童貞勇者の帰還
あけましておめでとうございます。軽い気持ちでどうぞ!
良く晴れた草原に爽やかな風が吹き抜けていく。
遠くには森があり、海が見える……今となっては何とも穏やかで心が現れる絶景スポットだが、初めて見た時はそんな事を考える余裕は欠片も無かった。
「色んな事があったって言うのに、ここの景色だけは10年前から変わんないのな」
『フン、景色の方もお前の都合なんざ知ったこっちゃねーってだけさ。まさか再びここに戻って来るなんて思ってなかっただろうしよ』
俺以外に誰もいないはずの草原で、ただ一人俺の言葉に応えてくれたのは……この世界に召喚されてから10年間、ずっと苦楽を共にした勇者の剣『斬九楼』だ。
勇者として召喚された俺が10年前、今となると若干中二気味だった事で付けてしまった漢字表記の名だけど、見た目はバリバリのロングソードである。
意志を持った愛剣であり、そして幾度も死線を共に潜り抜けた相棒でもある斬九楼との掛け合いも今日で最後だと思うと……感慨深い。
『あ~あ、10年もあったのに結局一人も女に手~出さなかったもんな~。次期国王の座を持ち掛けたクールな王女様や天真爛漫な絶世の魔法美少女がどれだけ迫っても靡かねーし、とうとう清楚系美女の最高峰、神殿の大聖女に“遊びで構わない、一度だけ想い出を下さい”とまで言わせておいて袖にしちまうんだから……男としてそれで良いのか~?』
「……仕方ねーだろ、俺は別の世界の人間だ。どこまで行っても帰っちまったら二度と会う事も出来ない。現地妻作ってあった事も無い子供が出来ていたとか……んなクソみたいな行いは俺には無理だもの」
『……だからこそ、あの娘どもも頑張ってアプローチしてたんだがな。一度でも手を出せば責任は絶対にとる真面目野郎だってよう』
知ってるよ……しかも打算的に勇者を世界に留めておきたいから美人局的にと言う事じゃなく、本当に俺の事を慕った上で傍にいて欲しいと言われた時は……マジでグラついた。
自分が彼女たちに失恋の涙を流させるたびに……胸が張り裂けそうなくらいの罪悪感を伴ったものだ。
でも……やはり……。
「俺の帰るところは異世界……日本なんだ。どうしたって帰りたくなっちまう……そんな場所なんだよ。そんな気持ちを捨てきれないコウモリ野郎がこの世界で彼女たちの幸せに入り込むのは……な」
『散々恋心を奪っておいて…………残酷な野郎だよ』
斬九楼の言う通り、俺は卑怯で残酷な男だ。
勇者何てガラでもない……だからこそ、ただ強大な敵を倒したってだけでスッパリいなくなるべきなのだ。
『そんなだから最終決戦前夜に共に過ごすのが俺だけなんて、色気のねー事になっちまったんだろうが。何だっけ? お前の世界で言うところのバッドエンドルート?』
「それも決戦前夜としては悪くね~だろ? ダチと決起集会……それもまた」
『そこで俺が女体化でもすりゃ~お約束だったろうがなぁ。生憎俺の人格自体は男で固定されてっからなぁ……カカカカ!』
「え~い、やめい! 気色悪いもん想像させんな!!」
10年間の付き合いでコイツには日本の知識が幾らか擦りこめれているけど、いわゆるRPGのお約束展開を持ち出して分かりやすく皮肉ってきやがる。
ま~確かにあの時も一緒にいたのはコイツだけだったがな……。
そんなバカ話をしていると……草原の風がフワリと優しく回り出し、その中央に見目麗しい長い水色の髪をした、薄手の羽衣を纏った女性が現れる。
最後の時、その時まで帰還の意志が変わらないその時には、ここに戻ってくるようにと……10年前に言われた通り。
彼女はこの世界の調停役にして大地の女神プレセア……魔王討伐の為にこの世界に俺を召喚した張本人であった。
そして俺を見た女神様はちょっと残念そうな様子で口を開いた。
『どうやら……お気持ちが変わる事は無かったようですね。勇者カミシロ』
『ああ、残念ながらコイツをこの世界に縛り付ける事は出来なかったよ。もうちっと無責任なヤツを選んでりゃ良かったんだけどなぁ、女神様よ』
『ですが斬九楼? カミシロがこのように真面目であったからこそ、彼女たちも慕ったのだと考えれば……どちらが正しかったとも言えませんでしょう?』
『まぁな、それに無責任なら女に手を出そうがガキ出来ようが知ったこっちゃね~って、とっとと故郷に帰る選択をするだろうからなぁ』
「予想していたけど、やっぱりアンタ等はグルだったワケね。通りで都合よく女性が俺の前に現れると思っていたら……」
唐突に本来なら俺の前ではしなかったであろう、ぶっちゃけトークをし始める辺り……女神様も俺をこの世界に留める事を諦めたようだな。
『そのような打算もありましたが、愛する人が共にいるという貴方に対しての報酬のつもりでもあったのですよ? ……そのおかげで貴方には相当な苦行を強いたようですけど』
「そこは言及しなくて良いです」
『耐え切る為に自家発電を繰り返すのであれば、さっさと手を出せば宜しかったのに……まあその時点で残留は確定でしたでしょうけど』
「言わなくても良いっての!!」
見目麗しく、愛しく、性格もスタイルも良い女性たちに迫られる度に耐える為にしていた事は本当にトップシークレットである。
神であろうと追及はノーセンキューなのだ!!
俺が慌てる様子に女神様はクスクスと、斬九楼は大声で笑いやがる……んにゃろう、揶揄いやがって。
『まあですから……このまま帰還と言うのも、さすがに貴方にメリットが無さ過ぎますからね。帰還は召喚された15歳の高校一年である事で、整合性を保つためにもコチラの記憶は封印させていただきますが、私の権限で何か一つだけ貴方が今使える能力を持ち帰っていただこうかと思います』
「……え? ……ええ!?」
『ただし、あまり規格外の力は世界の均衡を崩してしまうからダメです。何千もの魔物を消し炭にする上級雷魔法やら、大地を両断できる程の超身体能力など日本では持て余すだけでしょうから』
「え……ええ、そうでしょうね」
一瞬チート能力現代に持ち帰りでアメコミヒーロー的な自分を想像してしまったが、女神様の言葉で、そういったヒーローたちは常に出過ぎた能力の為に利用されたり葛藤したりする事まで思い出す。
召喚前の15歳当時にその手の映画は良く見ていたが……あんな日常は確かに嫌だな。
「なんか、そう考えると難しいですね。勇者何て戦う以外能力に突出していない一芸バカなワケだし、実際銃刀法違反バリバリの日本での生活にはいらない技能ばっかりですよねぇ……う~む」
『ハッキリ言いますね。本当に世界を救った勇者である貴方だからこその言葉ではありますけど』
『なら魅了魔法はどうだ? 元の世界で今度こそ10年耐えて来たリビドーを解放して酒池肉林、ハーレムの実現を!』
「そういう誘惑はやめい! 想像しちゃうでしょ!!」
斬九楼の揶揄いの言葉で、一瞬脳裏に高校生に戻った自分が校内の女性全てにチヤホヤされているシーンが浮かんだが……某アニメの最終的に女子に首を切断されるシーンが浮かんできて慌てて首を振り妄想を振り払う。
「日本での日常にそこまで支障をきたさないくらいの、多少の能力………………よし!」
そして俺は熟考を重ねて……ようやく答えを導き出した。
「じゃあ女神様、俺が日本に持って帰りたい能力は…………」
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
お手数をおかけしますが面白いと思って頂けたら、感想評価何卒宜しくお願いします。
他作品もよろしくお願い致します。
書籍化作品『神様の予言書』
物語の雑魚敵が改心したら……という『チートなし』物語です。
宜しければご一読下さい。
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