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名なしの薬屋とアンダーグラウンド  作者: 蟹谷 ノッポ
2/2

いつも読んでくれてありがとうございます。

家と大学までの距離はそんなに遠くはない。すぐに着く。でもそんなに早く行こうとは思わない。


薬学生は、他の大学生とは違い6年間もの長い期間を大学で過ごすことになる。最近思うことは、よくもまあこんな長い期間大学に通うことを兄が難なくしていたことだ。


平日は時間がまだあったほうで、遊ぶこともでき、大学生らしい生活を送ることができた。残念ながら、恋愛などには縁も、勤しむ暇もなかった。トーク画面を睨めっこしている時間より、薬の名前を覚えるために教科書と睨めっこしている時間の方が長かったかもしれない。


長いと思っていた大学生活ももうそろそろ終わりを迎えそうだ。講義も研究も発表ももうない。学びの集大成である国家試験も終え、後は合格発表を待つだけだ。


そう思いながら歩いていると、友達のエコードルが話しかけててきた。


「マキナ。そんな渋い顔で歩いているとマキナの綺麗な顔が台無しだよ。」


「いや。本当に薬剤師になれるかどうかが重要なの。心配じゃん。」


「大丈夫だってマキナなら。ちゃんと勉強してたじゃん。一緒に合格しようよ!」


「受かってたら良いよね。」


「そんなことより最後の思い出作りでもしようよ〜。遊んで、遊んで、遊びまくるよ。合コンもセッティングしようか?マキナならすぐお持ち帰りされると思うよ。」


「結構です。」


「冷たいなぁ。」


「ずっとそうだよ。」


そう言いながらスマホに目線を向ける。世間では頻発している地震のことや、隣国ブリンケン共和国とドルメンタ国を高速鉄道で結ぶ計画が関心を集めてるそうだ。自分にはどうでも良い事だが。


「無理だと思うけどなー。高速鉄道でブリンケンと繋ぐなんて。」


エコードルが顔を覗かしてくる。


「なんで?」


「ほら。間にあれがあるじゃん。カロー島。」


「あの間にある資産家が所有してるとされている島?」


「そうそう。曰く付きの島だよねー。肝試しに行った人が帰って来なかったとか。」


「本当に?帰ってきた人とかいないの?」


「えーいるのかなぁ?」


首を傾げながらエコードルが調べる。


「あ、一応いるみたい。でも帰ってきた人は全員おかしな事言ってるらしくて、『こ、殺されかけた。なんであそこに人がいるんだ、』だってさ。誰もいないはずなのにね。」


「やっぱりいるんだね。」


「まぁ行かないに越した事はないよね。さ、こんな話も終わった終わった。ランチターイム。」


「…お腹まだ空いてない。」


「気にしなーい。気にしなーい。」


そう言われて食堂に向かう。エコードルはカレーを口いっぱいに頬張っている。


「なんでマキナは薬剤師目指してたの?」


「お金稼げそうだったから。」


「金目当てなの。男ひくよ。」


「重要じゃない?お金あることって。」


「まぁそれはそうだけど。」


「じゃあなんでエコードルは薬剤師を目指してるの?」


「私?会いたい人がいるから。」


「会いたい人ねー。」


「そのために今まで勉強してきた。まぁ薬剤師になれてるかどうかは別だけど。」


会いたい人がいるという言葉に引っかかった。そこで、思い出した。いや、思い出されてしまった。


「あなたが薬剤師になったらりしたらまた会えるかもね。」


 逆になんで今まで忘れていたのだろうか?自分のことを治してくれた不思議な人たちのことなのに。そもそも病気に罹っていた時の記憶が曖昧だ。家族に聞いて補填はしているが。


「午後遊べる?」


カレーは食べ終わったそうだ。


「ごめんバイト。」


「そっか。明日なら遊べる?」


「多分。」


「分かった。また連絡して。よろしく。」


「うん。バイバイ。」



大学と同じで、バイト先のドラッグストアもそんなに遠い位置にある訳ではない。時給も他のアルバイトよりかは良く、そんなに多忙でもないからサイコーだった。いや、多忙ではないと言ったが、ほとんどが暇だ。お客さんはあまり来ないし、お客さんが来たとしても、相手は薬剤師のダンさんがしてくれるし。陳列は既に終わっている。


だから私の仕事はダンさんと話すことだ。話すだけで時給がもらえる。良い仕事ではないか。


「もう卒業ですか?マキナさんは。」


「はい。後は卒業と合格発表を待つだけですね。」


「そうですか。私も不安でしたね。あなたと同じくらいの時は。」


「ダンさんって何歳なんですか?」


「ん?それは秘密だよ。」


「意地悪なんですね。」


「意地悪です。」


なんなんだこの人はと思っていると、お客さんが来た。髪は茶髪で、耳にピアスをつけ、いかにもブイブイいわしてそうな私とは縁もゆかりもないような人だ。でも若くはない。20代から30代だろうか。


どうせダンさんが対応するだろうと思っていたら


「君良い匂いがするねぇー。」


と首を耳元まで近づけてきた。あきらかに変態だ。とっさに顔を殴ろうとしたが、ダンさんに止められてしまった。早すぎて手が見えなかった。


「流石に暴力はダメですね。いくら変態が前にいようと。」


「おいおい。変態とは失礼な。俺とお前の仲だろうぅ。」


「ダンさん。この人と知り合いなんですか。」


「まぁそんな感じですね。それでどんな用件で来たんですか?」


「そこの娘さんに用があってきた。スカウティングも俺の仕事のうちだからな。」


「もう一回殴って良いですか?」


「待て待て。ウェーイト。ウェーイト。話を聞いてくれ。君は薬剤師かい?」


「…いいえ。私は薬学生なんでまだ薬剤師ではないですね。」


「それは良いな。君は薬に関する知識はひととおりあるのかい?」


「もちろんです。」


「ダン。それは確かなんだろうな?」


「それは保証しますね。」


「お前が言うなら確かなんだろうなぁ。」


「…あのぉ。あなたは私を何にスカウトしたいんですか?水商売には薬の知識は必要ないと思うんですが…」


「俺かい?俺は水商売したい奴をスカウトしてるんじゃねぇーよ。薬剤師を今はスカウトしてるんだよ。」


「や、薬剤師?だーから。私はまだ薬剤師じゃないですって。」


「そんなこまけー事はどうでも良いんだ。お嬢ちゃん。裏の世界で一緒に働く気はないかい?この国の裏の世界じゃなくて、言葉通りの裏の世界でな。」



 








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