表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悪役令嬢が主役の乙女ゲームの世界で負けヒロインになってしまったので王子(最推し)を使って全力で応戦します!

作者: 槙野
掲載日:2022/03/05




「其方が私の心を溶かしてくれた……ありがとう、ユリア」


 太陽の光を纏う金の髪、空と同じコバルトブルーの瞳。少年の色を残した年若い王子のその笑みで私は思い出した。

 私が誰で、ここがどこであるかを。

 

 白い肌、桃色のハイライトを持つ色素の薄い髪に、濃いピンク色の目をもついかにもヒロインヒロインした愛らしい見目。

 そう、私はヒロイン。


 乙女ゲーム「秘密の花園」のヒロイン。

 デフォルト名はユリア・マゼンタ。ユリアは私の名前だ。


 よくある平民からこう、なんらかの才能を見出されて貴族の通う学校に転入しました系のアレだ。そして目の前で笑う少年と青年の間のビジュアルのいかにも王子的な男の子はまんま王子だ。

「秘密の花園」の舞台であるガーデニア(名称どうなの?)国の第一王子、レッド・ローズ・ガーデニア。彼はこのゲームの攻略対象の一人だ。

 

 いやほんと名前が雑。レッドという割には身体的に赤いところないし。でもキャラクターカラーは赤だったんだよなぁと思いつつその手を取り立ち上がる。

 これはアレだ。レッドルートのワンシーンだ。

 

 しかし何故今この時になって私に前世の、日本と呼ばれる国に住むひとりの人間だった頃の記憶が蘇ったのかって話なのだけれど、それはこの世界が正しい「秘密の花園」の世界から外れてしまったからだと思う。


 この物語はほんとテンプレの乙女ゲームだ。特殊な力、この場合癒しと守りの力を持つ平民だったヒロインが貴族の学校に通い王子やら騎士やら魔法使いと学園生活を経て恋に落ちる的な。

 ただ一つ違うとすれば、ライバル令嬢が悪役令嬢であることくらいだ。

 昨今の悪役令嬢ブームを受けて作られたこのゲームのライバル令嬢はほんともう完璧なまでの悪役令嬢で、ヒロインであるユリアに色々な試練を与えてくる。王子の婚約者であることを盾に行われるのはかるーい嫌がらせから始まり、生徒を使ったいじめから特殊な人を使った犯罪行為まで多種多様に渡る。最終的にはこう、悪事がバレて婚約破棄されて国外追放されたり処刑されたりするテンプレ悪役令嬢。

 マリー・ブラッディーはそんな公爵令嬢だ。

 

 けれど私が知るマリー嬢は違う。原作のいかにも悪役令嬢! という感じのビジュアルではなく、美貌を活かした薄化粧で淡い色の服を纏っている。慈悲深く清らかーとか言われているし、婚約者である王子と距離を縮める私に見向きもしない。というか王子にすら興味がない。それよりもお金稼ぎと人脈作りに力を入れている。

 まぁアレだ、よくいる転生悪役令嬢だ。原作通り破滅してたまるか! 私は王子に興味なんてありません! みたいな?

 

 つまりこの世界は乙女ゲームの世界だけど悪役令嬢が主役の物語で、私はその中のヒロイン、いわゆる王子を惑わす負けヒロインになる訳だ。くっそ複雑すぎて訳分からん。


「ユリア?」

「……レッド様」


 心配そうにこちらを伺う王子。この子も可哀想な子だ。悪役令嬢が主役の世界ってことは、本来はヒーローなのにこの世界では無能とか見る目がないとか言われてんだろうな。

 平民に心を奪われるという失態を犯してはいるけれど、自分に興味がないハイスペック婚約者にずさんに扱われていたのならヒロイン的包容力のある私の魅力に靡かない訳がないのだ。

 モテる女は辛いぜ。

 

 けれどこのまま行くと私と王子は逆断罪される。婚約破棄宣言、からのー? ってやつ。それは勘弁願いたい。私は生きたいし、なんだかんだでこの純粋で真っ直ぐな王子のことは好きなのだ。

 真っ直ぐすぎてほっとけないんだよねぇ。

 ならばどうすればいいか?

 私と彼が生き、かつ王子である彼と平民である私が結ばれるには?


「レッド様、貴方に見ていただきたいものが……知っていただきたい世界があるのです」


 そっと王子の手を取り上目遣いでおねだりする。頬を染めた王子は慌てながらも頷いた。ウブな反応ご馳走様です。可愛いったらありゃしやない。

 

 私達はそのまま、学校裏の抜け道から出て私の故郷、平民街の外れへと向かった。

 

 





 

 半年後、今日は卒業パーティーだ。

 婚約破棄イベントがあるアレね。王子は原作通り婚約者の悪役令嬢ではなくヒロインである私をパートナーに選び参列した。

 悪役令嬢の一味? 一派? になった王子の取り巻きこと攻略対象や貴族達からは非難の目がビッシバッシ飛んでくる。この国の王と王妃からもね。いや、マリー嬢流石だわ。うまく取り込んだなぁ。

 でも私も色々頑張ったので負ける気はないぞ。


 この半年で凛々しく、かつ男々しくなった王子の腕を取り王と王妃の前へ進む。震えるレッド様の腕に、安心させるように腕を絡める。大丈夫、王子、貴方はこの半年頑張った。貴方ならできるって気持ちを込めて。

 王子は私を見ると愛おしそうに目を細めて、そして悲しそうに王と王妃を見た。世界を知った彼の決意は揺らがない。その道に彼を進めたのは私だ。巻き込んで、彼の道を歪めたのは私。だから、私は何があっても、たとえこの場で命尽きたとしても彼に寄り添うって決めたんだ。


「王、王妃。本日はレッド・ローズ・ガーデニアとしてではなく、私、レッド個人として貴方方に進言する」

「言ってみろ」


 王子の、レッド様の言葉に呆れた様子で散漫に頷いた王が言葉を促す。


「今この時を持ち、私は王位継承権を放棄する」


 レッド様の言葉に王と王妃の目が見開かれ、会場に響めきが起きる。マリー嬢と取り巻きもめっちゃ驚いてるなぁ。そりゃそうだ。本来ならここで彼がマリー嬢との婚約を破棄して断罪イベントが起きるんだから。マリー嬢バッチリ対策してたと思うけど残念ね。王子が王位継承権放棄しちゃったんだもん。


「そして、王の死を持ってこの国の終わりを宣言する!」


 レッド様が吼え、剣を抜く。

 一瞬で王の首が飛び、血が噴き出した。

 私は私とレッド様の周りに守りの結界を張り叫ぶ。


「革命軍、レッド様が王の首を討ち取りました! 全軍、レッド様に続け!」


 拡声魔法により響いた私の声は正しく届いた。一斉に雪崩れ込んできた革命軍に貴族達が蹂躙される。腰を抜かした王妃のはもう動けないだろうから結界の外に放り出しておこう。

 怒号と魔法や剣の打つ音が響く広間の中、ヒロイン補正で作られた強固な結界に守られた私とレッド様の周りだけは静かだ。


「……父上」


 王の髪を掴み首級をとったレッド様に寄り添う。

 今の彼は王子ではない。革命軍の代表であるレッドだ。

 

 


 あの日私はレッド様を連れて平民街へ行き、この国の腐敗を見せた。

 この国ね、貴族による平民の扱いが笑えないくらいに酷かったんだわ。ゲームでは表面しか見えてなかった世界だけど、裏側は平民の命は虫以下って感じの地獄だったのよ。

 私はその地獄から抜け出して、ひとりで綺麗な世界に逃げ込んだんだ。でもね、やっぱり故郷は故郷な訳。家族もいるし兄妹だって、幼馴染だっていた。忘れるなんてできないんだわ。

 とはいえ一度故郷を捨てて地獄から一抜けしてしまっているので、裏切り者扱いされないように「王族にこの世界を見せるために中に入り込んで近づいた」って体にした。故郷のみんなはあっさり信じてくれたよ。流石私。


 地獄をみたレッド様の絶望顔ったら。新規表情萌……いや、申し訳ないなぁって。

 そこから王子を革命軍の頭領に引き合わせたり色々動いて、彼にこの国はもう終わりだという判断をさせた。誘導したのは私だけれど、革命軍に入ったのは彼の意志だ。

 王族として自分の命で償うと言ったレッド様と革命軍の頭領、私の幼馴染のお兄ちゃんの友情物語が最高に良イベントでしたわ。前世のお腐れ様の血が騒いだぜ。

 

 という訳で、なんやかんやの末にレッド様はこの度めでたく革命軍のダブル頭領の片割れとしてクーデターを起こしたという訳です。


「父上、父上……」

「レッド様……」


 涙を零し父親だった王の頭を抱えるレッド様を抱きしめて、癒しの魔法をかける。怪我はしてないから精神安定剤みたいなもんだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい……貴方にこんな道を選ばせてしまった私を許さないで下さい」

「違う、違う、ユリアのせいじゃない! 俺が、俺が選んだ……俺が、俺の意志で選んだんだ……!」

「レッド様……」


 うん、これなら大丈夫そう。今は好きなだけ泣いて良いので落ち着いたら革命軍頭領として頑張って欲しい。

 堰を切ったように泣き出したレッド様をよしよししてあげつつ下を見ると、マリー嬢が取り巻きに守られつつ逃げようとしていた。残念だけどレッド様と私の力で戦力を底上げされた革命軍からは逃れられないと思うよー。

 彼女のお金稼ぎ、いわゆる現代知識再現のために犠牲になった平民が結構いるので、色々責任は取ってもらうことになりそうだけどすまんあとは知らん。マリー嬢の敗因は汚い世界に目を向けなかったことかなぁ。多分親御さん達が綺麗に隠してたんだと思うけど。これも運命だ。

 

 マリー嬢と目を合わせないように視線を逸らしてレッド様をよしよしする作業にもどる。しばらくすると、大きな破壊音と共に建屋が崩れて幼馴染のお兄ちゃん、革命軍の頭領の片割れがこちらに向かってやってきた。

 国の象徴である旗が燃えている。革命成功だ。

 

 さて、負けヒロインは回避できたので、これからはヒロインじゃなくひとりのユリアとして彼の隣で生きたいと思う。

 大丈夫、今は辛くても絶対に幸せにするよ。

 

 レッド様、貴方は私の最推しなんですから。





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ