87.対策
グラケーノが抜けるのは少し痛手かもしれないが…これで良かったと思う。
スバルが戦争中に殺害されれば、跡継ぎ争いが激化するのは目に見えている。それで内戦が起きてしまえば、もう収集がつかなくなるだろう。
それに…グラケーノが自分から提案をしたのは、大きな成長だから。
「リンネは、きっと軍の最後衛にいると思う…たぶん。これまでの忌み子は、そうだったんだけど」
今代の忌み子は非常識がすぎる点も目立つ。こちらも安易な考え方はできない。
「それもそうだが…問題なのは、カイとやらの居場所だな。それほどまでに強力な手駒なら、自身の護衛にするのが妥当だが…」
ミコトやヒグレにぶつけてくる可能性も十分高い。
…相手が見えない状態での読み合いは苦手だ。不確実要素が多すぎて決定打に欠ける。
「ボクは最後衛の、本拠地に行くよ。もしそこにいたら処理しておく。万が一、シルフルートに来ていたら…そのときは、ミコトたち三人で対処できる?」
王都には結界があるが。グラケーノの解放からして、魔法が強制解除させられる可能性もある。
「初見の相手だと、分からないわね。【天照】ならダメージは与えられるでしょうけど…時間も限られるし、場所も選ばなくちゃいけないもの」
一撃必殺。三人の中ではぶっちぎりの超火力だが、色々と条件が厳しいのであった。
「カイの魔力の発動条件…対象の指定方法にはどんな種類があるか、知ってる?」
「オレの経験則になるっすけど…強めの命令を出すときは、指で触れること、鎖で触れることが必要だと思うっす」
念じるだけとかだと、分が悪いと思っていたが。命令の強弱にもよるのか。
「?鎖?特殊な魔道具なのかしら?」
「いや、オレが手足から糸を出せるみたいに、カイも鎖を出せるんすよ。魔力を込めた武器なら、簡単に壊せるっすけど…素手で触れれば、一発でダメっす」
ボク、基本的に素手なのだが。まぁ、いざとなれば影を使えばいいか。
「オレの糸とは相性が悪いっす。糸で下手に本人や鎖に触ってしまったら、絶対負けるっすよ」
ヒグレにとって、この上ない天敵であるようだ。
「グラケーノさんの記憶に穴を開けたように、外部への広範囲命令に魔力を消費してるっすけど。戦闘が始まったら、そっちを放棄してしまえばいいだけっすからね」
命令の重ねがけで、持続的な消耗を大きくできないかと思っていたが…なるべくボクの手で片付けたいものである。
しかし、現時点でカイの魔力量は常軌を逸している。消費速度が緩やかな魔力だとしても、機構権限でもないのにここまで広範囲に影響を及ぼすとなると、必要な量は相当になるからだ。
となると、カイの親による種族特性か?
ボクの魔力量を上回ることができるモンスターといえば…。
「魔力を込めて斬れば…射程の長い斬撃を使わなくちゃいけないわね。鎖をギリギリの距離で対処するのも危険だもの…飛び道具も必要かしら」
近接戦に特化した立ち回りをしてきたミコトも、頭を悩ませていた。
「…現場になって想定が崩れることは多々ある。まずは、自分たちでできること、できないこと。確実に優先させることを考えておくべきだ」
スバルの言葉で、ようやく思考がまとまりを見せた。
確かに、ミコトがいきなり銃なんか扱えないだろう。
「そうだね。まずボクらができることは…」
と、そのとき。
ぐりゅる〜っ、と間抜けな音が響いた。
しん、と静まり返る中。ミコトはひとり茹で蛸のように赤くなっていた。
「もうお昼の時間だね。ご飯にしよっか」
「わ、わざとじゃないのよ!?生理現象で仕方なく…!」
ミコトにしては珍しく、あたふたと言い訳していた。可愛い。
まぁ無理もない。こんな大真面目な話し合い中に腹の虫を叫ばせてしまったら、恥ずかしくてたまらないだろう。
「最近、お嬢の腹時計めっちゃ正確っすからね」
それはたぶん、同じ時間にちゃんと料理を食べるようになったから。
「あなたはちょっと静かにしてなさい!」
でもまぁ、今のミコトがその幸せに気づくわけもなく。ヒグレの胴に全力で回し蹴りを叩き込むのであった。




