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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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84.しきょう

 恐ろしい組織だと思った。それを生んだのが自分の祖先だと思うと、また吐き気がしそうだった。

 ヒグレは、私のためにも黙っていてくれたのかもしれない。


「資金が足りなくなってからは、オレの身体を切り売りするようになったすね。で、いつの間にか丸ごと貴族へ売り飛ばされていて…売買の金の一部を、捕獲、調教した者の権利で徴収してたっす」

 聞けば聞くほど、その傷が深いことが分かっていく。

「…色々と、覚えたくもなかったっすけど。言われたことは完璧に実行しなきゃいけなかったんで」

 ヒグレの心が壊れるのも、無理はなかった。


「今、司教として最上位にいるのは…カイと呼ばれる男らしいっす」

 きっと、リンネと直に繋がっているであろう人物だ。

「たぶん、グラケーノさんを解放したのはその人間っすよ。オレの方に来た人間たちはそう言ってたんで…教会の、最高傑作らしいっす」

 それが何を意味するのかは分からない。ただ、ひどく恐ろしいものであることは確かだ。

「どういった力を持っているか、知ってるの?」

「はい。正直ふざけた魔力っすけど…他人に命令して、強制的に従わせる魔力っす」

 シノの魔眼と似たようなものだろうか。あれは精神まで捻じ曲げてしまうというが。

「人間、魔族、モンスター…種族を問わず命令できるっすよ。抗う意思が、あろうと無かろうと」

 たちの悪い冗談だと思いたいくらいである。ひょっとしたら、機構権限(システムコード)より厄介かもしれない。

「使い方もめちゃくちゃだったっすよ。教会に関係する者以外、カイを記憶してはいけない…そう自分に命令をかけておけば、そうなるっすから」

 自身にかけることも可能なのか。つまり、周囲の者に対して同時に行動制限をかけることができる…未だかつてない強敵になることだろう。

「だから、グラケーノさんの記憶に穴が空いているんだと思うっす」

 尻尾も掴めないわけだ。しかし、ヒグレには記憶が残ってる…命令が聞いていないのは何故なんだ?

「命令の条件は、はっきりとは分からないっすけど…たぶん、オレは教会が生まれた理由そのものっすから。教会を単位にしているのなら、オレとの繋がりは切っても切れないっすよ」

 地の果てまで逃げようとも。何度日が昇り、沈もうとも。命ある限りオリガミとしての苦しみが付き纏い、忘れられない。惨すぎる話だ。

「魔力なら、魔力切れを狙えるのが救いかしらね…」

「そうっすね。命令が発動している間は、魔力の持続消費もあるみたいっすよ。でも戦うとなると、ひとりじゃ絶対勝てないっす。相手がひとりなら、武器の所持も歩行も、呼吸すら禁止できるっすから」

 何故、そこまで知っているのだろうか。

 まるで、戦ったことでもあるかのように。

「賭け勝負で、幼い頃のカイとは何度かぶつかったことがあるんで。修道士が終わった後のことは知らないっすけど…」

 命がけの勝負だっただろう。うんざりしたヒグレの横顔が雄弁に物語っている。

 それに高みの見物客が金を賭ける。

 命と金は絶ち難いほど深く繋がっている。が、命のために金が使われることがあっても。金のために命が使われることはあってはならない。


「魔法への干渉もしてたっすから、封印の術式に対して<発動してはいけない>と命令すれば…たぶん、二度と起動すらしなくなるっすよ」

 本当にめちゃくちゃな使い方だ。魔力の流れも従えてしまうなんて。

「カイが何のハーフかは知らないっすけどね。いつも変身魔法で人間姿になっていたんで」

 変身魔法を使えば、多くのことを偽ることができる。ヒグレがその最たる証拠だ。

 ヒグレも自覚しているのか、また表情が暗くなってしまった。


 彼に必要なものは何だろう。

 励まし?共感?慰め?憐憫?いや、きっとどれも不正解だ。

「とりあえず、あなたほど綺麗なたてがみは持ってないでしょうね」

 それが私の結論だった。ヒグレの心を傷つけることなく慰めれるほど、私は器用じゃないから。

 するとヒグレは一瞬きょとんとした後。

「ははっ、お嬢にそう言われると照れるっすね」

 ふにゃ、と口元を綻ばせてくれた。ようやく、私が知っているヒグレが帰ってきたような気がした。


 不思議だ。ほんの一年前くらいは、誰かが悲しむのも笑うのもどうでもよかったのに。

「やっぱりお嬢も優しいっすね」

 どうして今こんなにも、笑った顔を見てほっとするのだろうか。

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