83.交配
グラケーノ、ヒグレの言葉の証言により、こちらが不利になっているかもしれないことが分かってきた。
…ヒグレ本人が話す決心ができたのは、大きな成長だと思う。
「そもそも教会ができたのはオレが三百年前に…オレが勇者に、たぶん、マスターたちが言う忌み子に捕まったからっす」
そうだ。三百年前はボクが魔王になったばかりで、まだラグナロスト国内が荒れていたころだ。
そのとき忌み子の軍勢が押し寄せて来ていれば…こちらの兵力が足らないのはもちろんのこと、心が弱りきっていたボクも殺されていたかもしれない。あのころは死ねるのならすぐに死にたいって、殺すのも誰でもいいやって思っていたから。
何故そのときに忌み子が襲撃してこなかったのかが不思議だった。でも、ヒグレが捕まったのも同じくらいだと考えると。そちらで何かしらやっていたと考えることもできる。
「半血って、数百年に一度といわれるくらいの珍しいものらしいっす。そもそも異種族の者が番になることも少ないっすから。でも、もし生まれた場合、強い個体になることは確からしいっす」
血を操り、相手の魔力を奪う能力。糸を生成し、操作する魔力。使いようによっては恐ろしい効果を発揮することは、よくよく知っている。
「オレ、糸で触れるだけでも相手の魔力奪えるっすからね」
吸血鬼は本来、血を飲まなければ魔力を奪えない。もしくは、ボクやミコトのように、魔力を何かしらの媒体に流したものを摂取する必要がある。
…ヒグレの糸での魔力供給をしなかった理由。それは糸からの吸収も吸血と同じ効果が発生してしまうからであった。
違和感を感じ、快楽に至る前に慌てて止めたが…能力や魔力は歪に関係し合うことも多いのだ。
そもそも、種族など肉体に依存する力を能力、体外への放出なども可能なエネルギーを魔力と呼び分けているだけであり。しかしどちらも世の理を歪めるものであり、正直なところ違いははっきりしない。
「半血の子が強いと知った忌み子は、人を集めて…片っ端から異種交配をするように命じたっす」
人を集めることができたのは、おそらく機構権限の恩恵もあるだろう。
「それで交配実験をする組織ができて…教会という形になったっすね」
勇者、ひいては忌みこのために作られた組織。それがこんな形でボクらに繋がっていたなんて。
「勇者と共に戦える戦士を生み出すこと。それを目指し、今なお世の影に息づいてる…おかしな話っすよね」
ヒグレの感情のない笑みは、教会への嫌悪か、はたまた軽蔑か。
「…オレのせいで凄惨な目に遭わされるひとたちを…折の中から見ることしかできなかった。ほんと、情けない話っすね」
自嘲。己が言葉で深く傷を負っているようであった。
「それがはじめの百年くらい続いて…。実験体にされるのは貧民街から攫ってきた子供から、迷いの森のモンスターまで色々いたっすね」
ヒグレの気持ちを推し量ろうとするだけで、胸がキリキリと痛んだ。
「…もう、いいから。それ以上話したら…」
きっとヒグレの心が壊れてしまう。自身の言葉のナイフによって。
しかし、ヒグレは首を横に振った。
「心配してもらえて嬉しいっす。でもこれは…オレの中で、決別するためでもあるんで」
…その覚悟を否定するほど、ボクには勇気もないのであった。




