81.教会
グラケーノの口から、リンネが封印を解いたことを言わせることになってしまった。
こうするしか、ミコトをその気にさせる方法がなかった。でも…お互いに辛い思いをさせてしまったのは、本当に心苦しいばかりだ。
「あぁ、すまんの。何か、少し引っかかることもあるんじゃ」
グラケーノは、首をひねりながら。
「忌み子が封印を解いたというより…解くように命じた、という気がするんじゃよ」
「気がするって、どういうことよ?」
すかさず聞き返すミコトと、自信なさげに頭を揺らすグラケーノ。
「変な感じがするんじゃ。何というか…隊を組んでやって来たんじゃが、その隊長が忌み子ではなかった気がするというか…」
「リンネよりさらに誰かいたってことかしら?」
「そうなんじゃ、もう一人、誰かいたはずなのに…思い出せないんじゃ」
グラケーノには、人間と魔王どちらの機構権限も効かない。洗脳魔法も効果がないはず…だとしたら、より強大な力を持つ者が向こうの陣営にいるということだろうか。
「それは確かなの?」
「いや、それが分からんでな…気のせいだとも思うんじゃが…」
ボクの問いにもはっきりとした答えを出せない様子。
しかしそれが本当なら一大事だ。こちらが把握していない力を持つ者がいるということなのだから。
「…リンネが全ての糸を引いている、というのも憶測でしかないけどね。でも、楽観視するよりは何かしらの手を打っておきたいんだ。グラケーノ、何か思い出せない?」
どちらも、行き過ぎてしまえば争いの種だが…。魔王として、できるだけのことはしたい。
「そう言われてものう…」
「隊と言っていたな。どんな者たちで構成されていた?」
スバルもリンネとの接触は少なく、グラケーノからなんとかして情報を聞き出したいらしい。
「えぇっと…男が五人くらいで、女が三人くらいで、全員人間で…そうじゃ、リンネ以外はみな同じ服を着ておった」
制服でもあるのだろうか。私服なら、身なりから身分を推測することもできたのだが。
「白い上着とズボンで…腰には赤い布と短剣があったかの。それで…首飾りもあった気がするのう」
その容姿を聞きながら、スバルは深く思案しているようであった。
忌み子に協力する可能性があり、未だに情報が掴めていない組織といえば…。
「銀のメダルに、盾と刀の紋が入った感じじゃったな」
それを聞いた瞬間、がたんっ、と大きな音がした。
ヒグレが勢いよく立ち上がり、椅子を倒した音だった。
「教会が、まさか、オレのせいで…」
声は震え、過呼吸になっている。顔色も悪くなっており、目をあちこちに回していた。明らかに、気が動転している。
「連れ戻すため?嫌っ、そんな、なんで今更…!?」
へたり込んで頭を抱え、身を震わせていた。
間違いない。これは過去からくる恐怖心だ。
特効薬のない痛みに対する応急措置は…。
「大丈夫、大丈夫。今はボクがここにいるから。キミを絶対に守ってみせるから」
震える手を握り、もう一方の手でできるだけ優しく肩を撫でる。
「ここには、キミを道具扱いするやつはいないよ。ベルも、ミコトもグラケーノも、スバルだってキミを守ってくれるはず」
ここには本当に信頼できる者たちしかいない。ボクの命を預けてもいいと思えるくらいの。
「深呼吸して。落ち着くのはその後でいいから」
ヒグレがここまで錯乱状態に陥ったのは初めてだ。
…いや、もしかしたら。




