78.よそう
殺されるかもしれない。にわかには信じ難い話だ。
でも実際、それに準ずる仕打ちは受けてきた。スバル様だって銃で撃たれた。
これから私は、どうすればいいのだろうか。
「現時点では、どれも憶測に過ぎない。が、そう考えると全て辻褄が合うのだ。尻尾を掴めていないのが現状だがな…」
スバル様は苦々しい表情でそう言った。
「余は忌み子を止めねばならないと思った。だから、幼いミコトちゃんに目をつけた」
二人のうちどちらかを味方にしてしまえば、戦争を止められるかもしれないと考えたからだそうだ。
「ミコトちゃんを初めて見たとき…正直なところ、恐ろしいと思ったのだ」
髪は乱れていて、服もボロボロで。目はどこかほの暗い色をしていたらしい。…竜の族長から聞いた、昔のシノにそっくりだ。
「だからお主を選んだ。この子を絶対に魔王にぶつけてはいけないと思ってな」
…?それは達成されなかったような気が。
するとそこでスバル様は頭を抱えて。
「…外出、出国許可を与えたのは、諸外国で見聞を広げて、剣士以外の道も考えてみてほしいと思ったからだ」
でも私は剣士以外の自分を考えることもなかった。というか、外出許可が下りてからはずっと迷いの森にいて…。
「どうして魔王と正面衝突したかな…」
完全に期待を裏切る形になってしまった。額に手を当てうなだれるスバル様が若干可哀想に思えた。
「近くの街で友人を作るくらいから始まるかなと思ってたんだがな…まさか迷いの森に直行して、モンスター狩ってギルドにカチコミに行くとは…」
なんか申し訳なく思えてきた。そんなことしてたの?とでも言いたげなシノの視線が痛い。
「…ごめんなさい。強くなりたい理由を話しておくべきでした」
会いたいひとがいる、としか伝えていなかった私の落ち度だ。
「一発で見つけることができて良かったな、本当に…こんなバカみたいに防御力があって性格も丸い魔王で良かった…」
どっはぁぁ、とスバル様は大きな溜め息をついた。
「忌み子の機構権限のこともあったから、ミコトちゃんを魔族側に付けたいとは思っていたのさ」
まさか魔王に取り入ることになるとは、思わなかっただろう。
「魔族に囲まれて暮らせば、洗脳された人間たちの迫害も受けずに済むからな」
そんなことまで、スバル様は考えていてくれたんだ。
「スサガミ家からは随分と反対されたがな。でも、やはりおかしいと思った」
女だから。まだ若すぎる。実力もない。もっと品のある者を。家の者が言ったのは、そういった理由ばかりであった。
「みな口を揃えてリンネが相応しいと言う。だが実際に行きたがっているのはミコトちゃんなのだから本末転倒だ。…何故それに気が付かないのか、不思議でならなかったな」
最終的にはスバル様が権力と言葉遊びで言いくるめたが。改めて考えてみると違和感も感じる。
リンネはもう一族の代表として外交を務めているし、剣の稽古では負けたこともないし…。
「ま、結果的に良い方向へ転がったようで何よりだ」
ワシャワシャと大きな手が私の頭を撫でる。申し訳なさを感じていたため、そう言って笑ってもらえると一気に肩の力が抜けた。
「余も王としての責務を負い、生き残ってみせよう。だから魔の王よ、力を貸してもらえるか?」
こくり、とシノは深く首肯して。
「こちらからもよろしく頼むよ、人の王」
ふたりの王は、力強く笑い合った。
まだ確かなことは分からない。自分が何をすべきなのかも。
でも…とりあえず、このふたりに出会えたことに感謝しようと思うのだった。




