77.動機
ミコトに機構権限について話した。それを聞いて、ミコトも不服ながらも理解してくれたようであった。
だがしかし、忌み子の最も恐ろしいところは…。
「リンネが父上を殺した…不服だけれど、それだけの力があることは認めるわ。でも、どうして私まで消されるのかしら?私が持つ影響力なんて、リンネの前じゃ無意味でしょう?」
「確かにそうかもしれないけど。影響力の排除というよりは…キミが持つ、機構権限の半分を狙っていると思うんだ」
それがない限り、リンネは忌み子としての戦闘力を得ることができないから。
「力はきっと、一つに戻る性質を持ってるはず。だからどちらかが死亡した場合、もう一方へと戻ることも十分に考えられる」
忌み子が過去に数多くいる中で、双子や三つ子になったことが一度もなかった、とも考えにくい。なら、はじめから一つになろうとする性質があると考えたほうが妥当だ。
「キミは家の者から厳しい鍛錬を課せられ、一度は逃げ出した…それで始末するつもりだったんだろうね、きっと」
精神的に追い詰めて、自殺させる。つまり殺そうとしていたのだ。
しかし結果として、それは失敗に終わった。
「キミは強くなると決意して、生き残ってみせた。だから、向こうの計画にも綻びが生じてきているんだと思う」
ミコトが魔王であるボクに接近したこと。ボクがスバルと裏で繋がっていたこと。おそらく、想定外だっただろう。
「手口は分かったけど、目的は一体何なのよ?財力と権力、人脈に戦う力が必要だなんて…」
ミコトも勘付いたらしいが、改めて言っておこう。
「リンネは、ボクに戦争を仕掛けるつもりだよ」
がたんっ、とミコトは勢いよく立ち上がった。
「は、はぁ!?おかしいわよ、だってあんたの実力は文献にも書いてある通りで…」
「その上でだよ、きっと」
本もろくに読まないほどの馬鹿か、こちらの裏をかけるほどの軍略家か。未だに分からないな。
「どうしてそんなことするのよ?私と同い年の子供でしょう?悪い大人に刷り込みでもされたんじゃ…」
「その可能性は十分ある。でも、戦争の意思に変わりはないよ」
ミコトは首を横に振った。
「分からない、分からないわ。忌み子って一体何よ?私の半分なら、私と同じでしょう?」
ミコトとリンネを隔てるたった一つの、大きすぎる違い。
「リンネには、おそらく前世の記憶があるんだ。この世界じゃない、もう一つの世界で生きた記憶が」
すると、ミコトはまた目をぱちくりさせた。
「前世…?百年ごとの忌み子に?でも私、そんなの全然…」
「だからこそ特殊なんだ。記憶がないのに、力の半分は持ってる。ボクだって最初は混乱したよ」
ミコトは今、かなり歪な状態にあるといえる。
「もう一つの世界って、本当に存在するのかしら?」
「存在してるよ。少なくとも、ボクが会った二人の忌み子はそう話してた」
そして、グラケーノに言われて気づいたこと。
「古代の文献に残っている、ドローンなんかの技術は時代の流れを完全に無視したものだけど…忌み子がもたらしたとすれば、納得がいくんだ」
はぁ、とミコトは大きな溜め息をついた。
「もう何を言っても仕方ないわね…いいわよ、信じることにするわ。でも…どうしてそこまで戦争をしたいのか、分からないわね」
「…そんなの、ボクにだって分からないよ」
だって本人に聞くしか、知る方法がないのだから。
いや、聞いたって分からなかった。
彼らは、こちらの世界を夢のように思っているのだ。きらきらとした希望に満ち溢れた世界のように。
だからこちら側の住人は駒か玩具にしか見えない。
…そういうところが、たまらなく嫌いなのだ。




