76.けんげん
私は両親から愛されていたとスバル様は言った。
実感が湧かない。何もかも。
そもそもリンネが犯人にされているのは、心を操る力があると仮定したときの話で。
でもシノは、リンネにはその力があると言い切った。そしてもう半分は私が持っていると。
「一つ一つ話そうか。まず、忌み子が大きな力を持っていることは知ってるかな?」
まぁ、それは。歴代の魔王たちの手記集に書かれていたから。
「それは機構権限といって、百年ごとに勇者の子に与えられる特殊な力なんだ」
本来、一人の人間に与えられるはずだったが。
「双子で生まれたから、力も二つに分かれちゃったんだと思う」
魔を斬る力が私に、人を率いる力がリンネに。
「だからミコトは戦闘意欲が異常に高い。もし初めて出会った魔族がボクじゃなかったら、キミは辻斬りになっていたかもしれない」
確かにそうだ。
あのとき、モンスターと命がけで戦うのが。返り血を浴びながら肉を削ぐ感触が。どうしようもないくらい心地よかった。
異様に高い身体能力と再生能力。刃を振るう喜び。
これが機構権限…忌み子の力の、片割れによる影響?
「人を率いる力…集団心理を操作する力、と言った方が良いかもしれない。誤解を起こさせるって感じかな」
そう言われてもあまり分からない。規模が大きすぎる。
「まずさっきスバルが言ったように、リンネを人間全体が思い込んでる」
…私はそんなこと、気にしたこともなかった。
「それに…ボクが会った二人の忌み子も、不気味なくらい人々の心を扇動することができた」
圧倒的なカリスマがあったのか、といわれているが…洗脳魔法の天才だったのかもしれない、と唱える学者もいるくらいだ。
私だって、二度の蛮勇戦争には疑問を抱いた。
どうして挙兵できた?兵士たちに異論はなかったのか?
そして…どうしてあっさりと終戦した?
あぁ確かに。人の心を操る力が、毎回意味子に与えられているとすれば納得ができる話だ。
「何より、ミコトの小さい頃の扱い。どう考えてもおかしいよ」
じっ、とシノは私の目を見た。
「厳しく鍛錬させるのに、それ以外は放置…ミコトが家出しても、誰も探そうと言わなかった。これって、おかしいと思わない?」
自分が女だから、と思っていた。でも、どうなのだろう。おかしなことなのだろうか。
「人々の認識、心を操作する力がある人物が内部にいるとしか考えられないんだ」
考えすぎだ、と言い返したかった。しかし、シノの考えを否定するだけの理由は、私の手元にはなかった。
「夫婦そろって自殺…普通なら、世間も大騒ぎになるはずだよ」
人々が平然としているのも、心が操作されているから…。そう言われてしまえば、何も反論ができなくなってしまう。
「遺産の全てをリンネが手に入れた。ミコトに財産が譲られないのはおかしいって言う人も、いていいはずなのに」
権力に屈したか、あるいは。
「あと、自殺に遺産のことが書いてある場合は…」
魔法により、洗脳も証拠の隠滅も容易いこの世界での犯罪への考え方。
「相続人…その人が死んで、一番財産を手に入れる人物による他殺ではないかって考えるのが普通なんだけどね」
それを言う者がいないのは非常に不気味で、つまりは。
…本当にシノは性格が悪い。みなまで言わずとも、理解させられてしまう。
「…」
何も言えないまま、私はシノの目を睨むことしかできないのであった。




