74.けつえん
父上が自殺した。それを聞いたとき、吐き気がした。
顔なんて覚えていない。でも血の繋がった親が自らの意思で他界したなんて聞かされれば、冷静も保てなくなるものだろう。
その上、自分も消されるかもしれないなんて言われると、なおさら。
「消されるって…じゃあ、父上は誰かに殺されたってことですか?」
「余は、そう考えている」
ベッドに腰かけ、真剣な目で言うスバル様が、嘘を吐いているとは思えなかった。
「洗脳されたっていうのですか?でもスサガミ家には代々状態異常無効が…」
そう、私の父こそが先代勇者であるわけで…。
「それを破れる力が存在するだけだ」
信じられなかった。自分の耳を疑った。
「忌み子って、聞いたことあるかい?」
無言で首肯した。
他の勇者より格段に能力が高く、何度も歴史を塗り替えてきたという。それで、私がちょうど忌み子であり…。
「お主、一人っ子じゃないだろう?」
母は私が生まれて間もなく亡くなった。でも、私が一人っ子出ない理由はただ一つ。
「リンネが父上を殺した…?」
双子の弟である。
そうだ、全く同じ日に生まれた勇者の子は二人いたのだ。
どうして今まで気がつかなかった?
分からない。まるで記憶に蓋がされていたかのような。
「忌み子の力は人の心を操ることができる。それに…」
少し口をつぐんでから、スバル様は言った。
「母君のサユリさんも、首を吊っての自殺だ」
嘘だと言ってくれ、と叫びたくなった。でも口からは細い息が出るばかりであった。
「そして二人とも遺言書には己の持つ全財産をリンネに譲ると書いてあった」
これ以上聞いていたら、気が狂いそうだった。
だって、両親が全く同じように自殺して。そうさせたのが弟だなんて言われたら。
「特にイカヅチは、スサガミ家当主としての権力もリンネに継がせると記してあった。年齢的にも、もう継げる年だ。スサガミ家の力は、リンネが握ったと言っていい」
待って、まさかそれって。
「リンネが成長するのを待って…頃合いになったから、始末されたってことですか?」
「そういうことになるな」
耳を塞いでしまいたいと思った。でも今ここで閉じこもってしまえば、どうしようもなくなることは分かっていた。
「…それに、イカヅチやサユリさんが子供を手放して自殺するような人間だったとは思えない」
スバル様も苦しそうな顔をしていた。
「スバル様は、父上や母上と交流が?」
「あぁ。イカヅチとは何度も剣の試合をした。サユリさんと結婚してからは、惚気話をいつも聞かされていたさ」
どこか遠く、懐かしむような目をしていた。
「…止められなかった自分が、不甲斐ないばかりだ」
その横顔は、ひどく辛そうに見えた。




