73.回復
スバルの治療も終わった翌日。
慣れない作業に疲れたものの、命に別状はないようで安心した。ベルいわく、後遺症も残らないだろうとのことだ。
良かったよ、本当に。
「水と米と塩…味薄いな、これ」
おかゆをずるずると食べながらスバルがそうこぼした。
「当たり前でしょ、おかゆなんだから」
「余、もうちょっと味があるものが食べたい」
大国の王とは思えない台詞である。
「そうだ、ミコトちゃんがお主のカレーは絶品だって言っていたが…」
「お昼は卵おかゆにしようか」
えぇー、と昨日腹に穴が開いた人物だとは思えないような態度をするスバル。
「スバル様、元気そうね。良かったわ」
ほっと胸を撫で下ろすミコト。よほど心配していたのだろう。
「というか、こんなにのんびりしてて大丈夫っすか?国王の仕事とか…」
「あぁ、それなら大丈夫だ。影武者がいるからな」
いつも急にいなくなるスバルの影武者。本当に苦労させられていることだろう。
「今日は一日頑張ってもらうさ。ちなみに余はシルフルート遊びに行っていることにしてある」
部下に嘘を吐くのは、とも思うが。今はどの人間が敵になるのかも分からない状況なのだ。仕方ないだろう。
「まぁ、今日は色々と話さなければならないこともある」
ことん、と空になった皿を置いて。
「ミコトちゃん、特にお主に関係のある話だ」
急にそう言われて、ミコトは目を丸くして首をかしげていた。
「長い話になる。椅子を用意してくれるかい?」
「全員分、でしょうか」
「あぁ、頼む。一通り全員が知っておくべきだからな」
近くの部屋から各々が椅子を運び、座る。するとスバルは、深呼吸をして。
「先日、ミコトちゃんの父であるイカヅチが亡くなった」
隠すでもなく、直球でそんなことを言った。
「え…?」
ミコトの小さな声。戸惑いの色が強く滲んでいた。
「父上が…?病気、ですか?それとも、事故で?」
「いいや、自殺だ」
あまりにも衝撃的な言葉に、場にいた全員が息を飲んだ。
ミコト自身、パニックに陥っているようであった。
顔を覚えていないとはいえ、実の父が自殺したのだ。無理もないだろう。
「ある日唐突に、だったらしい。移り住んでいた別邸の庭の木で、首を吊ったそうだ」
ひゅ、とミコトの喉が鳴った。
背に触れると、小さく震えていて。ゆっくり、やさしく何度も撫で下ろした。
「…すまない。こんな話を、まだ幼いお主に聞かせるのは酷だということは分かっている。だが…話さなければ、信じてもらえないだろうと思った」
ベッドから降りて、点滴器具を支えに歩くスバル。
そしてミコトの前に膝を折り、目線をしっかり合わせ。
「次に消されるのは…ミコトちゃん、お主かもしれない」
ミコトの瞳が、見たこともないくらいに見開かれた。
「どうして、私が?」
そして彼女は、おぞましい事実を知ることになる。




