7.無茶
ミコトという勇者が来て、一ヶ月が経とうとしている。
「強烈な子だったなぁ…」
嵐のような子。しかも歴代勇者の中でトップクラスの実力。
でもご飯を食べた後のあの表情はとても可愛らしかった。
「やっと落ち着いてきたのに…」
マントを外し、風呂場の戸を開ける。
掛け湯もそこそこにして足元を湯に浸す。
「勇者かぁ…」
悩みを溶かすように熱い湯に肩まで浸かる。
魔王のための巨大な湯船。外には露天風呂もあり星がよく見える。
「仲良くなれるかなぁ…」
あの子は例の勇者ではないみたいだけど…ある意味凶悪だったなぁ…。
ここ百年争いもなく、人と魔の差別意識も改善されつつある。
まだ問題は山積みだけど、小国はスバルが目を光らせてくれているから安心だ。
スバル…時々魔王城にふらっと遊びに来る男。
城の酒を飲みまくって喋りまくって深刻な要件をおいて去っていく。
かなり強かである。人間と魔族の交換留学とか、天狗になった騎士団の鼻っ面を折れとか。
本当に無茶ぶりばかりする人だ。
まぁお互いに頼りにしているんだけど。
「またいつか、ね…」
竜ものびのびと入れる浴槽。ぽかぽかと心地よい熱に心身が休まるのを感じた。
確かスバルの国が勇者を抱えていたはず…。
…無茶ぶりとか、ないよね?
「仲良くなる!よし、頑張る!」
もしかしたらあの子はボクのことを…。
悩んでいても仕方ないし。そのときできる最善策をやっていくだけだ。
気持ちを切り替え勢いよく立ち上がった。
風呂からあがり、マントもきっちり洗った後。
広く静かな寝室で。
ふかふかのベッドに身を投じ、目を閉じた。
明日もどうか穏やかでありますように…。
まどろみの中で響くノックの音。
「おはようございます陛下。早速ですがご報告があります」
まだ寝てちゃダメかなぁと思っていると、カーテンが開かれた。
容赦ない朝陽に意識が一気に覚醒に向かう。
そして。
「勇者が来ました」
盛大にベッドから転げ落ちる音が響いた。
「とりあえずこのあいだ置いて帰ってしまっていた服はお返ししましたが」
ああ、うん、そうかぁ…。
一緒に転げ落ちた布団から這い出てかぶりをふる。
「…数は?」
「単騎です。また空腹だったようなので食堂で待たせていますが…手紙を預かって参りました」
ベルが差し出したのは一通の手紙。
封を留めているのはアカツキ王家の紋。
上質な紙に書かれた流麗な文字には見覚えがあった。
『最近調子はどうだ?余は元気だ。
ところで勇者をそちらに派遣したいのだが、どうだろうか?
勇者と魔王との交流があれば貴国への信頼もあがるし、仲良しアピールもできるだろう?
…可愛らしい年頃の娘であるが襲うでないぞ。
あの子は色々と抱えているようでな。お主の方で見聞を広めてもらいたいのだ。
危なっかしいが、根は真面目な子だから…。
ではよろしく頼むぞ、シノ殿』
間違いない。スバルの文字だ。
こんなに大切にしている子がいたのか…。
そういえば最年少の勇者の女の子がいるとか言っていたような。
しかしえらいことになった。
…いや、むしろ好都合か。
またもやってきた無茶ぶりに、溜め息と笑みをこぼした。




