72.きゅうめい
夜中に目を覚ました。
バタバタという足音。ベルの魔力。そしてかすかに匂う、誰かの血。
この匂い…モンスターじゃ、ない。
「あ、お嬢起きたっすか!?」
銀の器に入った注射。ヒグレの表情からして、相当な緊急事態だ。
「アカツキ国王が、銃で撃たれたらしいっす。事情があるみたいで、今ここで治療してるっすけど…とにかく来てほしいっす!」
スバル様が、撃たれた?
そう聞いて、頭が真っ白になるのが分かった。
スバル様はいつも笑っていて、生きているのが当たり前で。でもひょっとしたら、銃弾の当たりどころが悪かったら。
「すぐ行くわ」
嫌な予感を振り払うようにして、ヒグレのあとを追う。
スバル様だけなのだ、私の味方をしてくれる人間は。
もし、いなくなってしまったら?助けられなかったら?
息が浅くなって、心臓が乱れ打つ。
何なの、一体何なの、この初めての感覚は。
「スバル様!」
スバル様は、ぐったりとした顔で横たわっていた。息の音はひどく細く、肌は青白くなっていた。
「回復薬注射、持ってきたっす!」
「血圧が下がってきてる、摘出は間に合うか!?」
「座標指定用の器、これで大丈夫かの?」
何か、何かしなきゃいけないのに。震えが止まらなくて、ただ立っていることしかできない。
「座標割り出せました。全員離れていてください」
ひと目見て分かる、命がけの戦場だった。
…なのに、私は。
重ねられた極小の転移魔法陣が起動し。かたん、と皿の上に銃弾が落ちた。
赤い血に染まり、内臓の破片がへばりついた弾が。それを見て、自分の喉の奥が狭くなるのが分かった。
「摘出完了です。あとは再生を…ヒグレ、そこ押さえておいてください」
また新たな魔法陣を展開し、ベルは処置を施していく。そしてスバル様の下腹部に注射を刺し、相当な量の薬液を入れた後。
「内臓…修復されました。もう、大丈夫でしょう」
空間系魔法を駆使して内部を確認した後、ベルはそう言った。
それを聞いて、どっはぁぁぁとみんなで息を吐いてへたり込んだ。
その後、シノが空いてる客室までスバル様を運んで。
「点滴を入れておきましょうか。ヒグレ、取ってきてもらえますか?」
「了解っす」
心なしかスバル様の表情も穏やかなように見えた。
「…注射や点滴まであるのね、この城」
「迷いの森での負傷者を応急措置することもあるからね。まぁ
、あまり使わないものだけど…」
珍しくシノも疲れた表情をしていた。
一命をとりとめた。もう大丈夫。でも、まだ心臓は早鐘を打った余韻を残していた。
何だったのだろう。さっきまでの、恐怖のような気持ち。
これが…死んでしまうかもしれない、という恐怖?
あぁすまない、ヒグレ。あなたの言っていたことが、今ほんの少し分かった気がする。
死ぬって、思っていたよりずっと怖かった。




