71.襲撃
ヒグレがようやく落ち着いてきたころ。
風はまだ冷たいが、日の下では少し暖かくも感じる日々。
しかし、油断もしていられない。
暗い夜。執務室でベルからの報告を聞いて。もう寝るかと立ち上がったとき。
唐突に、部屋の隅の転移の魔法陣が発動した。
「だから、来るときは先に言ってくれと何度行ったら…」
ときどき何も言わずにやってくるスバルに対し、いつも通り文句を言ってやろうとしたが。
鼻先をかすめた血の匂いに、声が止まった。
スバルは腹部を押さえ、肩で息をしていた。服は赤くじっとりと濡れており、かなりの出血であることはすぐに分かった。
「はは、すまないね…治療、頼めるかい?」
血の色のない顔で、スバルはそう言った。
「分かった、分かったから、もう喋るな」
スバルを床に寝かせ、傷の状態を見る。表面的な外傷はないが…おそらく、回復薬を使って応急処置をしたからだろう。
止血の方法としては間違っていないが、内臓まで傷ついていたとしたら厄介だ。万が一、異物が入っていたりしたら摘出の手術まで必要になる。
「ベル、治せそうか?」
「傷の方は。しかし、内臓に銃弾が残っています。これは人間の外科医を読んだ方が…」
すると、スバルは首を横に振って。
「今の状態じゃ、人間はどこまでが味方か分からない」
暗躍する輩。その力は人間全てにまで及ぶ。
文字通りの操り人形。銃撃も、手術のために病院に行くことまで計画されたものかもしれない。手術に失敗して死んだとすれば、人間側に非はない。
むしろ、銃撃したのは魔王の手先だと言うかもしれない。
考えすぎだとも思うが…どうにも気が立ってしまう。
相手は、戦争を仕掛けようとしているのだから。
「抉り抜くか?」
銃弾がありそうなところを、周囲の内臓ごと。麻酔はないが、傷口は後から治せば…。
「危険すぎます。第一、抉ったあとの傷を治せるだけの回復薬はこの城にありません」
それもそうだった。内蔵を複数同時に修復するとなると、最上位のものが必要になる。それも、大量に。
ミコトの光の魔力は回復向きだとも聞くが…いかんせん魔法技術が足りてない。再生魔法なんて使えないだろう。
「転移魔法で最小範囲だけを切り取ります。陛下は倉庫からありったけの回復薬を持ってきてください」
袖をまくり、空間探査系の魔法をいくつも展開していくベル。
「分かった、すぐ戻る」
部屋から飛び出し、廊下の窓から外へと降りる。
倉庫の南京錠を引きちぎり、回復薬をありったけ影の中へ放り込んで引き返す。
もしかしたらと思っていたが…まさかスバルにまで手を出すなんて。
余が死ねば奴を止める者はいなくなる、と以前スバルが言っていた。相手にとっては、邪魔者の排除と戦争の理由付けの療法ができて好都合なのだろう。
「…やはり、あちら側の人間か」
だからボクは嫌いなんだ。




