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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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68.きずあと

 全身全霊、私の全てをもってしても足りなかった。

 でもそれでこそシノらしく、面白いと思った。

 絶望してる暇なんてない。高い壁は突き崩すためにあり、私はそれに生の全てを懸けるだけだ。


 目を覚ますと、見慣れた天井があった。

「目が覚めましたか」

 やれやれ、とでも言いたげなベルの表情。

「あんなに構築に時間のかかる大技、陛下しかくらいませんよ」

 小言のようだが、ほんの少し笑っても見えた。

「でも、成長なさいましたね。あんな規格外の熱量操作、相当に鍛錬を積んだのでしょう?」

 ベルは表情の変化は控えめなものの、褒めて育てるタイプのようだった。

 …こんなに褒めてもらえるのも、ごく最近になってからで、どう反応したらいいのか分からない。

 スバル様も褒めてくれたけど…あの人は忙しくて、会う回数も少なかったから。

「あなたが言っていた、虫眼鏡による太陽光の収束から発想を得たのよ」

 まだ範囲が広すぎるが。絞り込んで精度を高めることができれば、より高火力になるはずだ。

 今までの私は、ただ一心に剣を振り続けていた。

 より速く、より強く。しかしそれだけでは限界があった。

 そこで、友というものを得た。

 あーでもない、こーでおないと頭を捻り。

 自分の知らない世界を教えてもらって、頭を柔らかく使ってみるようになって。

 私にはどんなことができるのだろう、と考えるようになった。

 何ができるかは個人によって違う。しかも、実際にやってみないと分からない。

「何百回も失敗して、ちょっと泣きそうだったわね」

 時には自分の身を焼くこともあり。再生させるにしても大変なものだった。

 …今回はまだ殺すには至らなかったが。この経験はきっと次に活かせるはず。

 努力とはそういうもので。一見無駄なように思えても、たくさんの経験が絡み合うことで新たな価値を生み出していくのだ。

 さて、次はどうしたものか…。


「あ!おはようミコト、ご飯できたよ」

 ひょこ、とピンピンした様子のしのが顔を覗かせた。

 …ここまで元気にされていると、悔しいというか腹立たしいのだが。

「もうちょっと一線やり合った感を出してくれないかしら?それじゃただの専業主婦じゃないの」

「えぇ…あ、でもほら見てこれ!」

 子供のようにはしゃぐシノが見せたのは…自身の左腕に焼き付けられた傷だった。

 回復薬一本なんかじゃ治らない傷。

 私が生きて、努力してきた証が、形として刻まれた。

 そう思うと、ほわほわとした喜びが湧き上がってきて…。

「そうね、私、頑張ったもの」

 気がつくと、目から涙が溢れ出していた。

 悲しくなんかないのに、涙が止まらない。嬉し泣きなんて、生まれて初めてだった。

「本当にすごいよ、よく頑張ったね」

 素直な言葉とともに、やさしく温かい手が頭を撫でて。

 また感情が溢れ出して、視界がぼやけてしまった。

 そして今日という日が、忘れられない思い出となった。


 …ひとり背を向け、口をつぐんでいる姿に気付けないまま。

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