66.しんわざ
目の前でヒグレが捕まってしまった。
グラケーノの悔しさが、ここまで伝わってくる。
動けない自分が、不甲斐なく感じた。
情けない。悔しい。もっと力があれば。
内に沸く自分への怒りが、思考を堂々巡りさせている。
胸の奥が、ずきずきと痛む。血のためか視界が赤く染め上がり、痛みが走った。
私が今よりずっと強ければ…。
負の感情に、吞まれそうになったとき。
かぁんっ!と甲高い音が響き渡った。
シノの頭部に、弾丸がぶつかる音だった。
「…時間稼ぎは、足りたようじゃな」
グラケーノが見つめる遠方。山肌に身を低くして大きな銃を構えていたのはベルだった。
そう、この瞬間をずっと待っていたのだ。
シノの意識が、完全にベルから外れる瞬間。
ベルが使ったのは、時計に仕込まれた道具の十番目。
名はミョウジョウ。その銃の特性は、魔力を一切使わずに弾丸を撃ち出せること。
一昔前までは笑い話とされていた、魔法抜きの完全なる物理攻撃。法則を歪めることによって力を生み出す魔法と違い、法則の全てを理解し従うことによって生み出される力。
戦闘において最も用心すべきなのは、魔法による死角からの狙撃である。
そのため、敵の魔力を常に意識し続けるものだが…ミョウジョウはその裏をかく。
魔力の動きがないため、攻撃をする素振りがないと誤解させるのである。
そもそも、グラケーノに山を作ってもらった理由。
それは、高度があり、かつシノから死角になる点を作るため。全てはベルの弾丸を意識外から撃ち込むため。
「お嬢!」
シノも不意打ちを食らい、ヒグレを拘束する手を緩めた。
「あとは頼んだっすよ!」
その隙にヒグレが抜け出し、ハクジツを拾って駆けてきた。
走りざま私に投げ、そのまま全速力でこの場から離れていく。
「ええ。私に任せなさい」
立ち上がり、愛刀を受け取った。
再生は十分にできた。時間もぴったりである。
「思ったより痛いね、この弾」
鱗に弾かれたものの、シノにダメージを与えたのは確かだった。
「とうとうライフルを復元させたかぁ。てっきりすぐ報告に来るかと…いや、あの子なりに驚かせたかったのかもね」
ゆらりとシノの尾が楽し気に揺れる。
「さて、キミは何を見せてくれるのかな?」
試している。そんな目をしていた。
「これは、あんたのためにつくった、私だけの必殺技よ」
グラケーノとヒグレが、十分に距離を取ったことを確認してから。
「受け取りなさい。私の全て」
それは、日の出と共に刻一刻と威力が高まる技。
太陽の力を借り受ける、ハクジツの力を最大限に引き出す一撃。
地を強く蹴り、太陽を背負うようにして刀を構える。
「この世あまねくに降り注ぐ太陽の慈愛よ、このひと時だけ、我が宿敵を滅ぼさんがために一条の光へと姿を変えたまえ」
イメージは収束と貫通。膨大な陽光を、一点に集中させて焼き貫くのだ。
「陽の光よ、この手に力を」
刀身の紋が輝き、肌を焦がすような熱を帯びる。巻き起こる風に、髪が大きく揺れた。
「【天照!】」
傲慢にも、神の名を騙る一閃。
太陽が最も高く、輝いた瞬間。それを逃すはずがなかった。
一条の光は、真っすぐに全てを貫いた。
ごぉぉぉっ!と圧倒的な熱量に暴風が巻き起こり、大地は白熱して弾け飛んだ。
そして当然私は力尽き、真っ逆さまに落下し始めた。
思いの外再生に魔力を使ってしまっている。今から再生させようとしても間に合わないだろう。
目の前に、ガラス化して赤く輝く地面が迫って来る。
触れれば大やけどどころではない。
でも大丈夫。だって、ほら。




