64.さいせい
まさか尻尾で投げられるとはおもっていなかった。
受け身もとれず、身体中痛い。骨も何本か折れた。
早く、前線に戻らなければならない。
「ベル、ケガは?」
「妾は大丈夫です。それ以上にお嬢の方が…」
「平気よ。このくらい治せるわ」
魔力を全身に行きわたらせ、傷ついたところを再生させていく。
私にあってシノにはない力。多少傷を負ってでも戦い続けることができるのだ。
身体の調子確かめて空を見上げると、ヒグレが応戦しているのがわかった。
あの高さじゃグラケーノの支援も難しい。
「ベル、銃で撃ち堕とせないかしら?」
「あんなに激しく動き回っていたら無理です。ヒグレが負傷する可能性もあります」
ベルが作った道具で飛び回るヒグレ。あれの制御はなかなか難しく、力加減を間違えば足がもげてしまうそうだ。
シノの攻撃を避けるので精一杯らしい。
「ベル、あそこまでどうにかして飛ばしてくれないかしら?」
「転移魔法だと座標指定が難しいので、物理的に吹っ飛ばすことになりますが…」
「かまわないわ。やってちょうだい」
仕方ないですね、とベルは言って。
ひゅう、という音がして、空気の温度が一気に下がった。
地面に氷が張っていき、吐いた息が白く輝く。
これがベルの、怠惰の大悪魔としての…氷を操る魔力である。
「お嬢は飛べないのですから、くれぐれも気を付けてくださいね」
そして足元の氷が柱のようにせり上がり、私の身体は空へと突き上げられた。
氷の足場を蹴り、より高く速く前へと飛び出す。
「ヒグレ、交代よ!」
重力も魔力も上乗せした一撃をシノの翼に叩き込む。
「まさか、空中戦に乱入してくるとはね」
が、効果は薄いようであった。
シノを地上に墜としたかったが…。
「再生時間、思ったよりも短かったね。でも、乱入するタイミングはもう少し選ぶべきだったかな」
自由落下する私の身体を掴み、地面に叩き落とした。
ぐわん、と視界が歪み、頭の奥が揺さぶられる。
内臓がもみくちゃになるようで、骨が軋むような痛みがはしった。
続いてヒグレも少し離れた場所に落下した。
血を流し、ぐったりと気を失っていた。
私も出血がひどく、頭がくらくらする。急いで再生させるも、間に合うかどうか…。
「気絶してないなんて、流石だよ」
舌を噛んでなんとか意識は保っているが、身体は動かない。
落ちた時に刀も手放してしまっている。ヒグレのすぐ横に落ちてしまっていて、あそこまで動くにはまだ再生が足りていない。
シノの手が目の前に迫り、瞼を閉じかけたとき。
「ワシが坊っちゃんの相手をするのはあまり気乗りせんがの。ここでお嬢をやらせるわけにもいかんのでな」
シノを横から突き飛ばしたのはグラケーノだった。
その姿はシノと瓜二つであり、違うのは瞳の色だけである。
「今回のワシの役目は、負傷者の護衛じゃ。二人には絶対に手だしさせん」
こうして、魔王同士の再戦が始まった。




