63.成長
やはりミコトは囮かと思ったが、少し違ったらしい。
ベルも攻撃に加わってくるのは意外だった。
たかが鱗一枚、されど一枚。一点に攻撃を加えられ続ければまずいかもしれない。
思いの外油断できないな。
「じゃあ、キミには退場してもらおうか」
ミコトに向けて大ぶりで爪を振り下ろす。
「食らわないわよ!」
光の魔力を自分の身体に上乗せして加速し、背後を取ったミコト。
しかし忘れてはならないのが、竜と人間では武器が違うことである。
「背後を取ったからって、安心しないことだね」
宙に飛んでいたミコトの身体に尾を巻き付け、締め上げた。
そのまま身体を大きく捻り、ベルの方へと投げ飛ばす。
「くっ…!」
ベルもこれは予想していなかったのか、避けきれずに一緒に地面に叩きつけられた。
…やっぱりミコトはずっと一人で戦っていた分、連携力が低いな。
ベルは悪魔だから物理ダメージを無視できるが、ミコトはあばらが折れているだろう。再生するにしても、それなりに時間が必要なはずだ。
追撃するか、いや、それよりも前に片付けておくべきは。
「こっちっすよマスター!」
戦闘が始まってからずっと上空で待機していたヒグレが落っこちてきた。
「魔力付与、光!」
五指から放たれる糸は白い光を帯び、恐ろしく速い。
ヒグレの糸は魔力でないと切れない。しかしボクとミコトの魔力では相性が最悪だ。
下手に魔力を触れ合わせてしまえば、エネルギーの暴発が生じる。そうなれば負傷は避けられない。
…ヒグレもそれを分かった上でやっているのか。
ボクの行動パターンが絞られるようになっている。手段を潰してくるなんて、なかなかやるな。
視認してからじゃ間に合わない。
使うのは第六感。魔力感知。ヒグレほどではないにしても、魔力の流れから糸の軌道を予測することはできる。
「流石にこれは食らいたくないかな」
雨のように降り注ぐ糸。一本でも触れればそのまま絡めとられる。
魔力を使えば暴発。使わなかったとしても身動きを封じられてしまえば敗北は必至である。
「…翼まで使う羽目になるなんてね」
翼を広げ、糸の間をすり抜ける。
魔力を使わない、物理的な回避である。
そのまま上昇を続け、ヒグレに肉薄する。
空中戦に持ち込めば、こちらが圧倒的に優位になる。
ヒグレはまだ飛行経験が浅い上に、糸に頼っている。糸で身体を動かすわけだから、あまり立体的な動きはできない。
そう思い、爪で攻撃したのだが。
ヒグレは身体を捻り、後ろへ下がってそれを回避してみせた。
「…糸、使ってないの?」
ヒグレは糸も出さずに避けきった。しかしヒグレに翼はないわけで…。
空中に静止したヒグレから感じたのは、糸でぶら下がっているというより…浮いている印象だった。
「オレ、こんな見てくれでも半分は吸血鬼なんで」
ヒグレのズボンの裾から見えてのは、銀色の輪。
「血液を操る能力。これもきっちり引き継いでるんすよ」
その輪から感じたのは、血の匂い。どうやらベルが作った輪の中に獣の血を入れて、操っているようだった。
「翼がなければ飛べるようになるまで諦めない」
それはヒグレ自身の信条のように聞こえた。
「半端者っていうのは、ひとより足りてない分を補うため人一倍努力するんすよ」
にし、とヒグレは笑ってみせた。
本当に強い子だなって思った。
…この子もまだまだ伸びるな。楽しみだ。
確かに少し変だなとは思った。
空中戦になれば確実に不利になるのに、ヒグレが上空に配置されていたこと。
ボクの予想を突き崩すためか…なかなか面白いことをしてくれるじゃないか。
「うん、そういうの、ボクも好きだよ」
これは思ったよりも楽しめそうだ。
「さて、どこまでやれるかな?」
こうなったらボクもあまり手加減しない方がいいかもしれないな。




