6.せっとく
魔王と出会って一週間。
適当なモンスターを狩りながら、国へと帰ってきた。
私の生まれ故郷、人類国家アカツキ王国である。
私は勇者の家系であるスサガミ家の長女。
母は小さい頃他界。父の顔は覚えていない。一、二回は会ったことがあるらしいが。
…この家は厳しい。
勇者は人間の最後の刃なのだと、大人たちは言った。
...私も負けたままではいられないのだ。
だって私は勇者だから。
実家には帰らず王都の大図書館へやってきた。
特別な魔法が刻まれた許可証を出し、中へ。これはごく一部の者しか持っていないものらしい。
ずらりと並んだ本の、できるだけ新しいものをめくっていく。
最近はやっと自由行動が許されたが…それは国王の力によるものが大きい。
アカツキ王国国王スバル=アカツキ。
スバル様は家の者の反対も押し切って私を勇者にしてくれた。許可証をくれたのもスバル様である。
育ての親のようなもので、よく相談相手になってくれるいい人だ。
まず見つけたのは二つの国の関係の本。
勇者を擁するこの国の力は古来より強く、大陸にひしめく小国のほとんどを影響下においている。
最近では魔王国…ラグナロスト共和国との交易も推進しているらしい。
ここで重要なのは、魔王が王の仕事をしていないことである。
統治は全て議会が行い、自国を守る兵団も編成されているらしい。が、魔王はそこには含まれていない。
緊急時には指揮を執ることもあるらしいが...。
魔王は完全に独立した武力制裁のための機関とされているそうだ。
もし人間同士が戦争を始めても、ラグナロストは一切関与しない。
しかし人間が攻め込んできた場合は…条約の全てを撤廃し、反抗するという。
反抗とは生温い言い方だ。
あの魔王なら軍勢を単騎で壊滅させることも簡単だろうに。
次に見つけたのは魔族とモンスターについての本。
魔族は言語でのコミュニケーションが可能な魔物。
竜や獣人、鬼などがこれに当てはまる。
モンスターは対話ができない、知能の低い魔物。
スライムやフェンリル、トレントなどがこれに当てはまる。
…私はモンスターにはよく会うが、魔族と話したことはあまりない。
その線引きを行うのが、冒険者ギルド。
人間と魔族で構成されており、双方から見て害だと判断した場合に討伐クエストが出される。
この数十年で魔族との壁は少しずつなくなってきているらしい。人魔混成パーティも出てきているそうだ。
しかしモンスターと魔族の区別がつかずに差別意識を持つ者も少なからずいて、トラブルになることもあるらしい。
...魔王に喧嘩を売った私は訴えられれば負ける。
世の風潮を見てみると…私の家は旧い人間たちだということが分かった。
なら今、私がすべきことは。
「久しぶりだな、ミコトちゃん」
広大な王宮の庭の片隅。こっそりと会うための秘密の場所。
花と木の葉が使用人の目から隠してくれるのだ。
…私が王宮の警備網をくぐってきていることは二人だけの秘密だ。
「スバル様もお元気そうで何よりです」
やや白髪の混じる黒髪。軍服を着飾って、頭の上にのった王冠には大きな宝石がはめられている。
国王だが武人でもあるこの男性こそがスバル=アカツキである。
「そこまで気を張らなくてかまわんさ。今日はどうしたんだい?」
深く息を吸い、目をそらさずに言った。
「ラグナロスト…いえ、魔王城への遠征をお許し願えませんか?」
するとスバル様は目を丸くして。
「…え?遠征?まぁお主の実力ならあの魔王にも気に入られるかもしれないが…」
うーむ、と少し考えてから。
「決して楽な話ではないが、やる気かい?」
真剣に問いかけてくるスバル様。
「はい」
はっきりと答えると…スバル様はにっこりと笑った。
「では余も応援しよう。頑張って、ミコトちゃん」
そこから二人での、長い長い家の者への説得が始まった。




