61.宣告
東竜の里から帰ってきたミコトは上機嫌だった。
どうやら何を贈るか決まったらしい。
ミコトのことだから、きっと予想の斜め上をいくのだろう。
「あの、何か当たってるんだけど…?」
「当ててんのよ」
具体的に言うと、ボクの首筋に冷たい大太刀が。
普通に話しかければいいのに…。
「みんなで話し合って決めたの。受け取ってくれるかしら」
やや照れ隠しの表情と共に渡されたのは…一枚の果たし状だった。
…というか、みんな?
「私たち四人からの贈りものよ」
挑戦者の名はミコトを筆頭に、ベル、ヒグレ、グラケーノと続いていた。
ミコトはともかく、三人まで絡むなんて…仲が良くなったんだなぁ。
「陛下と手合わせしたことはなかったので」
「オレはマスターにかっこいいところを見せたいと思ったんで!」
「…ワシも混ぜてほしくての」
すると、ミコトはにか、と笑って。
「あんたの中で一番永く残るのは記憶。願わくば傷を。私たちという存在を、痛みと共にあんたに刻み込んでやるわ」
到底贈りものに添える言葉ではない。
しかし実のところ、ボクはすごく嬉しい。
四人が団結し、その力を示そうとしている。
「思い出は永遠の宝もの。そうでしょう?」
間違っているようで、ボクを最も理解した贈りもの。
通常の倫理に当てはまらない暴挙だが、この世界では全てにおいて絶対は存在しない。
だから、全てが正解になり得るのだ。
「もう四人での作戦は立ててあるから、日時はあんたの好きにしていいわ」
場所は、このあいだグラケーノと手合わせしたあの離れ小島である。
確かにあそこなら、周囲への被害も考えずに暴れられる。
「じゃあ、三日後にしようか」
四人を同時に相手するとなると、立ち回り方も考えなくてはならない。
あまりケガはさせたくないのだが…。
「言っておくけど、四人とも本気を出すわ。だから、舐めた真似したら承知しないわよ?」
それもそうだ。本気で向かってくるのなら、こちらもそれなりの本気を出さなければ失礼になる。
「分かったよ。でも、無茶な立ち回りをしれば死ぬ可能性もあるから、気をつけてね?」
「ただで死ぬほど、私たちもやわじゃないわ」
まぁ、自爆とかされるとボクも致命傷を負いかねないな。
「妾も新しい必殺技があります。楽しみにしておいてください」
「マスターと手合わせできる機会もなかなかないっすからね。オレも頑張るっすよ!」
息巻くベルとヒグレ。すごいやる気だ。
「キミ大丈夫なの?この面子だとやらかしたらかなり恥ずかしいよ?」
声を小さく、身を低くしてグラケーノに問うた。
「だって…ワシひとりだけ見学とか寂しいし…みんなやるって言うから、断れなかったし…」
めんどくさい思春期か。
「ワ、ワシだって特訓しとるし、お嬢も稽古をつけてくれるって言ったから…」
「…特訓って、具体的には何を?」
「最近は茶碗を作れるようになってきたくらいじゃの」
何だろう。早速努力の方向性を間違っている気がしてならない。
「というか、ミコトの扱きって、きっとえらいことになるよ?サンドバックにされるよ?」
「…ワシも混ぜてほしかったんじゃもん…みんなと一緒が良かったんじゃもん…」
めんどくさい幼稚園児か。
「グラケーノがこっち側についてくれると思うと、頼もしいわね!」
にこ、と純情の笑顔を向けるミコト。本人に悪気はない。
「あ、あんまり期待せんでおくれ。足を引っ張らぬように努力はするがの…」
目を背けるグラケーノ。蚊の鳴くような声である。
グラケーノは特に連携戦に向いていない。どんな活躍ができるのだろうか。
「シノ」
改めて名前を呼ばれ…改めて面と向かっていると、本当に綺麗な目をしているなぁと思う。
悪意なき殺意。真っすぐに夢を追うような表情。
「首を洗って待っていなさい。刀の血錆にしてやるわ」
これは彼女らしい、不器用な親愛の形。
「うん。楽しみに待ってるよ」
そして、ボクらの関係性の象徴でもあったのだった。




