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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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60.たもと

 族長に案内され、迎賓館まで来てしまった。

 質素ではあるが品のある調度品。掃除は抜かりなくお菓子もおいしかった。

 さて、どうしたものか。


「今日はどういったご用件でこちらへ?」

 紫の瞳が興味深そうにこちらを見た。

 仕方ない。本当のことを話そう。

「シノに贈りものをしたくて。何が良いのか分からなかったから竜のひとに聞きに来たのよ。密命なんてないわ」

 すると、族長は目をぱちくりさせて。

「魔王城からここまでは山が九つほどあるが…そのためだけに?」

「私にとっては大した距離じゃないわ。それに、この要件はとても大切なものなのよ」

 族長はしばしの間硬直し…ふ、と笑った。

「やはり、かの王に気に入られるだけのことはあるな。いや失礼。こんな辺境に来る方は滅多にいないものでね」

 確かに道中のモンスターが多くて、返り血を浴びないようにするのが大変だった。


「魔王様は笑っているか?」

 ごく単純な問いだったが、そこには深い感情が読み取れた。

「ええ、毎日楽しそうよ」

 なんだかんだ言って、あいつも楽しそうに思えた。

 それを聞いて、族長はどこか安心したようだった。

「実は昔、この里をつくるときに一度会ったのだ。まだ魔王になる前に…向こうは忘れているだろうけどな」

 思い出す表情は、辛そうだった。


 それは三百年以上前のこと。

 地理的な関係で、アカツキ国と交易するためにやってきた人間が北竜の領域の森に迷い込むことが多かったらしい。そして人間に対しても温厚だった北竜たちは、そんな人間たちを介抱してやったそうだ。

 北竜の領域では争わないことを条件にして。人間たちも、助けてもらった礼として服の作り方や料理のしかた、薬の作り方などを惜しまずに教えたという。

 …だから竜族の中では異質な、人間寄りの姿に進化していったのだそう。

 北竜の里は人間との中立地帯となった。そこでは人間も魔族も分け隔てなく救われた。


 そして、真っ先に滅ぼされた。

 

 魔王にとっては、都合が悪かったのだろう。

 いつ人間側に寝返るかも分からない存在を、無視するわけにもいかなかったのだろう。

 でも…だからって、皆殺しはあんまりじゃないか。


「魔力が六歳くらいで目覚めたと聞いてな。しかも闇の魔力…驚きが隠せなかった」

 初めて会ったときのシノは、とても恐ろしかったと。

 瞳はほの暗い色をしていて、身体中傷だらけで。そのうえ当時戦争の相手だった人間とも友好関係にあった北竜の最後の生き残りとなると、不気味でしかなかったと。

「だが、わたしたちも生きるのに必死でな。生き残るためにはより多くの仲間が必要だった…だから、一緒に隠れてひっそりと暮らそう、と誘ったのだ」

 そのときの仲間は三十匹ほど。その多くは逃がされた女子供で、人間の軍に襲われればひとたまりもなかった。

 だから、腕っ節の強いシノを勧誘したわけだが…。

「きっぱり断られた。魔王を討つには、仲間は足枷になると言われてな」

 あいつの願いは、魔王を殺すことだった。しかし、誰かを巻き込むのも嫌だったのだろう。

 だから冷たく突き放して、嫌われるようにした。

 …もしそこで新たな仲間ができていたら、あいつは魔王にならなかったのかもしれない。


「でも…共に歩める者ができたようで、良かった」

 そう言って、族長は微笑んだ。

「どうか大切にしてやってほしい。わたしたちの下を去るときの彼は…ほんの少し、泣いていたから」

 大切にする、か。

 当たり前じゃないか。一生を懸けていい。

 私は、あいつのために勇者になったんだから。

「もちろん。私の生涯を懸けているもの」

 この本気が伝わったのか、族長はにっこりと笑った。

「…ありがとう」

 

 しばらくの沈黙の後、口を開いたのは族長の方だった。

「さて、かの王への贈りものか…竜族で一般的なのは、歌だな。自分で曲を作り、相手のためだけに歌うのだ」

 歌、か。なかなかに難しそうである。

 それに…私があいつに贈る歌なんて一つしかないじゃないか。

「半年から一年以上かけて曲を作るものだが…人間には少し長すぎるかもしれないな」

 確かに、時期としても間に合わない。

 …来年まで私が魔王城にいられるとも限らない。家に連れ戻される可能性だって、考えられるのだ。

「人間とは違って、竜族は本当に恋愛関係に疎くてな…強さ第一なせいで独り身のまま死んだり、同性婚もするし、他種族に求愛するし…寿命も長いせいで子孫を残す意識も希薄でな。少子化が問題視され始めているくらいだ」

 おぉう…竜族も竜族で色々と大変なんだな。

「それと…これは個人の見解だが、やはり相手のことを第一に考えて贈ったものが、一番喜ばれると思う」

 相手のことを一番に。

 あいつの心に、私の欠片を残したい。

 あいつが喜ぶもの…あいつの中で一番強く刻まれるものは…。

 …ああ、そうだった。答えは最初から私の中にあったんだ。

「ありがとう。おかげで決まったわ」

「お役に立てたのなら何よりだ」

 お茶を飲み干し、立ち上がる。

「今度は魔王城に来るといいわ。あいつの手作りお菓子でお茶会でもしましょう」

 族長は目を丸くした後、くすっと笑って。

「ああ、また今度。楽しみにしておくとも」

 そして族長に見送られ。答えと共に私は魔王城へと帰ったのだった。

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