58.ぞくちょう
今日も今日とて贈り物探しの旅である。
竜族の好みは差が激しいのだという。グラケーノが言っていたとおり、強さが一番重要視されるらしいが。
あいつの好みもいまいち分からないんだよな…。
「おや、お客さんとは珍しい」
やってきたのは東の谷。東竜の里。
かつて先代魔王に故郷を追われた生き残りが集まってできた、竜の集落である。
「あ、魔王様のところにきた勇者さん⁉」
「めっちゃ美人じゃん。こんなところでどうしたの?」
「まおーさまのお話、聞かせて!」
どこを見ても竜ばかり。シノよりずっと大きい者もいて、見上げていると首が痛くなりそうだ。
しかし…みんなシノと姿が異なる。
細長くて足がなかったり、毬みたいにまん丸だったり。もふもふしていたり、鱗もなくつるつるしてたり。
本当に色々いるんだな…。
「ちょっと贈り物をしたいひとがいるの。何かアドバイスをくれないかしら?」
すると、大勢が色めき立って。
「殿方へのプレゼント⁉」
「わたしは愛のこもった歌がいいと思う!」
「そこはやっぱり家だろう。愛の巣だ」
「いやいや、そこは強い獲物の血肉だろ!」
うん、メデューサやグラケーノが言っていた意味が分かった。確かに差が激しい。
家は流石に思いつかなかった。というか色んな意味で重すぎると思う。
どうしよう。全くまとまらない。
「族長呼んでくるよ!あのひとなら何か知ってるかも!」
とててて、とひとりがどこかへ駆けて行った。
ちょっと待て。私、別に使者というわけでもないのだが…。
そうしている間に、空から風が降ってきた。
「落ち着け皆の衆。客人が困っているだろう?」
銀色のきらめく鱗。蛇のように細くしなやかな身体。
ほとばしる魔力は力強く、場の空気を一瞬で抑え込んだ。
間違いない、この里の長だ。
「ここで立ち話も落ち着かないだろう。来客用の屋敷があるからそちらに来るといい。歓迎するよ」
どうしよう。完全に個人的な調べもので来たとは言い辛い。
「…そうさせてもらうわ」
精一杯の威厳をもって頷いた。
とりあえず話を合わせて、族長のあとについていくことに。
里は、谷の中に家が点在している印象だった。
木造の家…というよりは巣に近い印象を受ける。
洞窟をそのまま使っていたり。木の枝を組み合わせて鳥の巣のようにしていたり。
小さな子供が泥んこになって、笑いながら駆け回っている。店らしいものもあまりなく、お金の概念も薄そうだ。
「竜は長命種だからな。世の変化についていけないのさ」
…時間の流れ方は種族によって違う。誰しもが平等であるとは限らない。
だから、どうしても相容れない部分だって存在するのだ。
「わたしの名前はシルドという。好きに呼んでくれ」
ぱっと見じゃ年齢も分からない。私も普通の人間よりは鼻がきくが、竜ほどではないのだ。
「ここが迎賓館だ。どうぞ中へ」
案内されたのは大きな屋敷。他とは打って変わって、白亜の壁に細かい装飾。明らかなもてなし用の場所だ。
「ああ、そうだ。この姿のままでは入れないのだった」
失礼、と一礼して魔法を発動させた。
一瞬の光の後現れたのは、壮年の男だった。
髪からは角が伸びており、頬にも鱗が浮き出ていて。歪な人間といった感じだった。
「変身魔法は苦手で…練習はしているのだが。見苦しかったら申し訳ない」
「気にしなくてかまわないわ。普段から竜と一緒に暮らしているのだもの」
同居している四人のうち、人間の姿をしているのがひとりだけだし。
「さぁ、どうぞ座ってくれ」
腰かけたソファは柔らかく、一級品であることが分かった。
「お茶もどうぞ。口に会えばいいんだが…」
これもまた香りが大変良くて。お菓子もとてもおいしそうだった。
「ありがとう。それじゃ、いただくわ」
えらいことになった、と思いながら私はお茶を啜るのであった。




