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魔王にレクイエムを  作者: 流月
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57.不穏

 しんと寝静まった夜。

 今日はスバルと、お互いに調べたことを話し合う約束をしていた。

「お疲れのようだな。ちゃんと寝ているか?」

 やってきたスバルは、いつもより少しやつれて見えた。

「旧き魔王の復活なんて、こちらでも大騒ぎになるに決まっているさ。しかも、あの大精霊は人間のものだとか言う連中もいるし…。人間は欲深すぎるんだよ」

 来て早々茶菓子のクッキーを食べ始めるスバル。

「そして、そのお宝が魔王の配下になったときた。こちらとしては警戒せざるを得ない…余の気持ちが分かるかい?」

 じと、とした目で睨みつけられた。

「あのときはあれが最善だった。下手に放置するのも危険だろう?」

 そうだけどさー、と子供のようにぐずるスバル。

「どこの誰かも分からないような輩に取られるより、ボクが配下に加えたと公言する方がずっといいじゃないか」

 相手が魔王ともなれば、貴族連中も力づくで奪おうとはしなくなるわけだ。

 ああ言えばこう言うよなお主、とスバルは笑った。


「それと、ね。例の影響系の能力スキル、あれやっぱり人間側の機構権限システムコードだと思うよ。でなければこんなのあり得ない」

 魔王に与えられる機構権限システムコードと同様に、勇者にも与えられる。

 …それはきっかり、百年ごとに忌み子に。

「人間側の機構権限システムコードは人間にしか通用しない、だったっけ?」

「ああ、魔王も魔族にしか通じないがな」

 

 二百年前、百年前に引き起こされた、忌み子による挙兵。

 蛮勇戦争と呼ばれるこれらには、不可解な点が多い。

 まず、挙兵に反対する者がいなかったこと。

 人間の真なる自由を手に入れるため、とふざけた理由で宣戦布告をしてきたのである。

 戦争はメリットがデメリットを上回る見込みがあってこそ引き起こされるものなのに。

 例外もあるが…二度にわたる挙兵に、具体的なメリットは何一つ挙げられていなかったのである。

 捕虜を得るため、土地を得るため…国家への不安を外部に向けさせようとした、とも考えられるが。

 勇者たちの表情を見るに、そうは思えなかった。

 まるで、魔族を…魔王を滅ぼすことそのものが目的であるかのような。

 …勝てないと分かった瞬間泣いて命乞いをする様は、見ていて気持ちのいいものではなかった。

 そしてもう一つが、収束があまりにも早すぎること。

 二度に渡る戦争で、ボクは軍人を一人残らず虐殺した。

 それなのに、ボクに憎しみを抱く者がほとんどいなかったのである。

 戦争の首謀者たる勇者の一族も没落するかと思ったが…そんなこともなかった。

 戦争を吹っかけてしまってごめんなさい、これからは仲良くしましょう。

 そんな風潮が、戦後間もないころから流れ始めていたのである。

 …ボクにとっては都合が良い話だが。都合が良すぎて気味が悪かった。

 この不気味さは…魔王の機構権限システムコードに通じるものがある。

 だから…人間の機構権限システムコード…忌み子の存在を疑っているのだ。

 ミコトが人間の記憶に残っていない…これは明らかな異常事態なのだ。


「封印に使われていたシラユキが奪われた。しかも、グラケーノの封印を解いた者と同一人物ときた」

「力の均衡が崩れつつあるね…オリガミは?」

「…その呼び方、本人の前では絶対に使わないでくれ。下手をすればキミでも殺される」

「そ、そうか…失礼。この通りだ」

 深々と頭を下げるスバル。

 一国の王が他国の王に頭を下げるなどあってはならないと言われているが…スバルはこういうやつなのだ。

「グラケーノの復活騒動のとき、何故王都を狙わなかったのか不思議だったが…敵の狙いはあの子だったらしい」

「…えっ?」

「まぁ、自分で何とかしたみたいだが」

 全てを言葉にせずとも、スバルには伝わったらしかった。

 そう、あの日の彼は、ほんのかすかに血の香りがしていたのだ。


「お主のところには唯一能力ユニークスキルがゴロゴロいるね。とんでもない武力勢力だよ」

 唯一能力ユニークスキルとは、個人にしか目覚めない希少な能力スキルのことである。

 能力スキルは世界を歪める力を持つ。

 しかし…ボクが持つこの魔力は、能力スキルは…唯一能力ユニークスキルとも違う気がするのだ。

「竜族って個人によって魔力が変化して覚醒するから、ユニークが生まれやすいって聞いたよ。でも、それまでの期間が長いんだっけ?確か…二十年くらい?人間は四歳くらいで目覚めるのに」

「…人間とは時間感覚が違うのだ」

 魔力についてはあまり考えたくなかったので、目をそらした。

「時間感覚、ね」

 スバルは少し寂しそうに言った。

「十年もすれば、ミコトちゃんも子供を産むような年になって…その子供が今のミコトちゃんくらいになるころには、余は生きてすらいないかもね」

 今まで、ミコトの寿命なんて気にしたこともなかった。

 この城に来たとき。何十年もかかるかもって、簡単に言ってしまったけど。

 人間にはあまりに長い時間なのかもしれなかった。

「…余が死んでも、両国を見守っていてくれるかい?」

 王としての願いを託すような、そんな目をしていた。

「ああ。ボクが死んでも、平和だけは守れるようにしておく」

 …うん、とは言わない。ボク自身も死を願っているのだから。


「グラケーノのはどちらの機構権限システムコードも効かないし、忌み子についてもボクらよりもずっと知ってる。戦闘センスはともかく、防衛力としては頼りにしていい」

「流石は世界最年長者ってところかな」

「山の記憶…オブジェクトのデータベースにもアクセスできるから、分析力は忌み子並にあると思う」

 うわーお、と目を丸くして苦笑するスバル。

「というか、忌み子ってそもそも何なんだろうね?」

 世界の常識から逸脱した存在。まるで世界を飛び越えてやってきたような。

 これまでの一連の行動から言えることは一つ。


「今代の忌み子はボクの敵だ」

 明らかに平和を壊そうとしている。それは絶対に許さない。

「おぉ、怖い怖い…で、誰なんだい?鉄槌が下されるのは」

 口調とは裏腹に、表情は真剣な王そのものであった。

 スバルもおおよそ見当はついていた。だが改めて問いかけてきた。

「相手は機構権限システムコードを持っている。だが同時にミコトも機構権限システムコードを持っている」

 これは、矛盾していること。しかし。

「いるだろう?ミコトと全く同じ境遇の人間が」

 もしも…今回、機構権限システムコードを持った人間が始めから二人いたとしたら?

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