56.おくりもの
いよいよ年の暮れが近づいてきた。
アカツキにはこの時期になると、普段お世話になっている人に贈り物をする風習がある。
スバル様にはいつもお団子を買っている。あの人はあれが一番喜ぶし、今年もそのつもりだ。
でも…今年は、シノにも贈り物をしたいと思う。
良い贈り物を求めて、王都のシルフルートまでやってきた。
アカツキの王都とは比べ物にならないほどの喧騒。
大小さまざまな露店に、多種多様な種族。手ごろなお菓子から怪しげな魔導書まで並ぶ、統一感のない品揃え。しかし客も商人もみな一様に活気ある笑顔をしている。
この国らしさが詰まった場所である。
さて、お金は十分に持っている。問題は何を買うかだ。
「おお!このあいだのドカ食いのお嬢ちゃん!元気にしてたか?」
威勢のいい声と共にひょっこり現れたのは、犬の頭の獣人…コボルトの男である。
「あれは普通量よ。今日は贈り物を探しに来たの。何かおすすめはないかしら?」
「うちの店のをおすすめしたいが…贈り物向けじゃないからなぁ」
この男性が営むのは、串揚げ屋。確かに贈り物には向かない。
しかし、食べ物か。食べれば終わりだが、血肉となるという点では良いものである。
私の手料理を食べさせたいところだが…残念ながら私は厨房に入ることすら許されていない。
「殿方って何が嬉しいのかしら…」
流石にここで女の子扱いすると怒られそうだし、感謝の念としてちゃんとしたものを贈ってやりたい。
「へぇ、お嬢ちゃん彼氏持ち?」
にまーっとした笑みの店主。少しからかっているようであった。
…彼氏とは違う。友達ではあるが、憧れである。
ねじれてひん曲がってしまった恋心とでもいうべきか。あるいは単純に殺意と恋心を履き違えているだけなのか。
実のところ、私にもよく分からないのであった。
「…片思いってやつかしら」
シノもシノで私に殺されることを願っているから、ある意味では両想いかもしれない。
「同居人よ。そいつを振り向かせるような、こう、ぐっとくるものがいいわ」
「そりゃあ難しいもんだなー。うーん、やっぱ男なら腕時計とか喜びそうだが」
物品。ずっと形として残る。
しかしよく使うものであるほど壊れるのが早い。人間の生涯すらも短く感じる長命種には、少し悲しいものかもしれない。
「この先に古物商の店がある。そっちなら何か分かるかもな」
「ありがとう。お礼に串揚げを三つもらうわ」
毎度あり!と見送られ、串揚げを頬張る。
さくさくの衣と熱々の油。こんがりと良い色の小麦の香り。肉、魚、芋と三種類もらったため、最後まで飽きずに完食できた。
よし、また買いに行こう。
しばらくして見えてきたのは、奇怪な店だった。
露店ではなく、しっかりとした建物なのだが。煉瓦は黒一色。
中の棚には上から下まできっちりと品物が敷き詰められていて、目が回りそうだった。モンスターの骨やら毒薬、古文書まである。
「おや、勇者様でありんすか?」
店の奥から現れたのは、頭に蛇が生えた女性…メデューサである。もちろん、石化させる目は目隠しで覆われている。
「ええ、そうよ。よく勇者だって分かったわね?」
「むしろその髪の色で分からないという方が難しいでありんすよ」
あ、そうか。アカツキで気にしたこともなかったから忘れてた。
「今日はどのようなものをお探しで?」
「殿方への贈り物を探してるの。何か良い品はないかしら?」
「種族によってバラバラでありんすが…最近の売れ筋だと、惚れ薬なんかが多いでありんすね」
ここに来る女性客は大丈夫だろうか。
…シノには効果は抜群だろうけど。効きすぎて大変なことにならないか心配である。
「あとは、この扇情効果のあるリボンを巻いて、自分の身を捧げるとか…」
いかがわしさ全開ではないか。本当に大丈夫かここに来る客。
「個人的には、手紙とかも良いと思うでありんす」
品物は危ない感じだが、店長はいたってまともそうである。
なるほど、手紙か。直接言い辛いことも文字でなら…いやしかし私に文才はあるのだろうか。
報告用の手紙ならともかく、自分の感情を表現するのは難しい。感謝の気持ちは伝えたいが、それをどう伝えればいいのか分からないし…。
「ところで、お相手は人間でありんすか?」
この国は超他種族国家。異種族間での友情や愛情も、そう珍しいものではなくなってきているのだ。
「…竜、かしら」
竜ときいて、店長はおおよそを悟ったらしかった。
「それはまた難題でありんすね。かの種族の好みの差は特に激しいと聞きますし…」
うーむ、と二人で頭を抱えるのであった。




