54.けっせい
今夜はベルに誘われ、ヒグレと一緒にベルの自室に遊びに来ていた。
グラケーノやシノには内緒の密会である。
「ではここに、シノによって嗜好を歪められた被害者の会の結成を宣言するわ!」
「人聞きの悪さが半端ない組織名っすね…事実っすけど…」
仕事も終わり、一様に寝間着姿でゆるい雰囲気だった。
「王都でおいしそうなブランデーを見つけたのよ、飲みましょ」
各自で持ち寄ったものを飲んで食べてしながらお話しよう、という会なのであった。
「これ女子会っすよね?オレ男なのに混じってていいんすか?」
「あなたも立派な被害者よ。仲間外れになんてしないわ」
立派な被害者って何っすか、とヒグレは笑った。
「妾は一応ハーブティーも持ってきました。ヒグレは?」
「…手作りスコーンっすよ」
無論ヒグレ作。とてもおいしそうである。
「あなたもよく分かってるじゃない」
「マスターならこういうとき、こうするかなって」
言っておいて恥ずかしくなっているようだった。
ヒグレもかなりシノの影響を受けているな。
…ヒグレにまで女子力で抜かれたら悔しいのだが。
「あいつのせいで男の定義が揺らぎつつあるのよ。ヒグレもどんどんシノ側に傾いていってるし…」
「オレも同性相手に可愛いって思う日が来るとは思わなかったっすよ」
顔は竜族なせいか、少しいかつい印象だが。表情や仕草がそれを上回る可愛さをもっているのだ。
「ヒグレはブランデーも飲めるのですか?」
ベルの問いに、大丈夫っすよと答えるヒグレ。
「オレ、毒耐性高いっぽくて。めっちゃ飲めるんすよ」
ヒグレはけらけらと笑っていたが。
毒耐性が高いというのは、数々の毒物に触れてきたということと同義である。
どんなものに触れてきたのかは、聞かないでおく。それがお互いのためだ。
「そうだ、お嬢って一応国王直属の密偵として来てるんすよね?どんなことしてるんすか?」
一応ってなんだ一応って。
「どんなって、それはもう色々とよ。シノを殺すための必殺技を考えたり、料理の隠し味をこっそり見ていたり、ベッドの下の本を探してみたり…」
「割と平和っすね。あ、ベッドの下はオレも見たっすよ」
なんでこの二人はこうなんだ、とでも言いたげな表情で頭を抱えるベル。
週に一回手紙を出して報告する仕事。最近はグラケーノ関連のものが多い。
ひなたぼっこが好きとか、シノ相手にものほほんとしてるとか。
「最後のはともかく、他は流出しても問題ないレベルですね」
「手紙っすか。あれ?でもここ迷いの森だし、郵便屋も来ないっすよね?どうやって出してるんすか?」
ヒグレも常識の勉強が進んでいるようだ。
「矢文よ」
え、と二人は硬直した。
…転移魔法まで使わずとも、投げればちゃんと届くのに。
「王宮から少し離れた郊外の方に飛ばすのよ。そこからなら早馬で半日もかからないわ」
王宮に直接飛ばせなくもないが。一歩間違えば王都に被害を出しかねないからである。
「確かに矢文なら、国境の検問も通らずに届きますね」
「…よく投げようと思ったっすね。ここからアカツキの王都の郊外って、直線距離でも相当離れてるのに」
ああ、それなら。
「矢文にしようって言ったのはスバル様の方よ。そっちの方が断然早いし安上がりだって」
ミコトちゃんならできるできるっておだてられて、悪い気もしなかったのでそうした。
スバル様も人使いが荒いな。
「やっぱお嬢ってすごいっすね」
屈託なく笑うヒグレ。
「どうりでお嬢が弓なんて使わないのに、矢はたくさん部屋に置いていたわけですね」
納得半分、呆れ半分といった顔をしたベル。
正直、私は二人もすごいと思う。
ヒグレの感知能力、ベルの技量。どちらも私がどれだけ頑張っても追いつけないと思う。
…だから、私が勝てるところで勝負しなければならない。
くぐった修羅場の数なら、この二人にだって負けないから。
比べる基準がおかしいのは分かってる。ここにいるのは国、いや世界でも類を見ないほどの実力者なのだ。
でもこの中で頭角を現さなければ、私はシノを殺せない。
側付きの中で最も寿命が短い私。
負けたくない、勝ちたい。
なら、死ぬ瞬間まで足掻いてみせる。
次の魔王は…きっと、この中の誰かなのだから。




