5.晩餐
少女はとても綺麗だった。
さらさらな雪色の髪。ぱっちりとした銀色の瞳。
瑞々しい肌には傷一つなく、儚さすら感じた。
しかも、勇者だった。
この時期だと、例の勇者が現れる頃合いだが…この子は少し違うようだ。
「とりあえず、ご飯食べながら話そうか」
長い廊下を歩き、だだっ広い食堂へ。
…きっちり帯刀しているあたりがこの子らしい。
細長いテーブルに並んでいるのは、全てボクの手料理。
人間の女の子が何を食べるのか分からなかったから、とりあえず色々と作ってみたけど…。
カレー、からあげ、シチュー、ハンバーグ、揚げ芋、鳥の丸焼き…ちゃんと食べてくれるかな?
すると横からぐりゅりゅう、と低い音が鳴った。
無言で涎を垂らす少女。相当空腹らしい。
すぐに席につき、両手を合わせる。
「いただきます」
二人の声がぴったりと同じ音を奏でた。
ベルは普段食事をしないし、二人で食事をするのは久しぶりかもしれない。
少女は無我夢中といった感じで猛スピードで皿を空にしていく。そしてもう自分の皿に食べ物が残っていないことに気づき。
「おかわりを頂戴」
一体その体のどこに入るんだろう。
うっかり竜のサイズで作っちゃったけど、これなら問題なさそうだ。
少女はベルからおかわりをもらうと、またすぐに食べ始めた。
しばらくして、鍋の底が見えそうになったところでごちそうさまとなった。
よほどお気に召したのか、少女はとろけそうなくらい幸せそうな顔をしている。作った甲斐があった。
「あ、言っておくけど私に毒は効かないわよ?」
どや、と平らかな胸を張る少女。
「最後の晩餐にはさせないわ」
そんな気もなかったんだけどなぁ…。
「ところで、さっきのは全部あんたの手作り?」
「うん。いっぱい食べてくれて嬉しいよ」
「…あんた、性別は?」
魔王の性別を知らない勇者って大丈夫だろうか。
「男だよ、もちろん」
すると少女は崩れ落ちた。
「なんで女の私より女子力があるのよ…」
ボクの性別ってそんなに衝撃的事実だろうか。
そういえば、まだ名乗っていなかったっけ。
「ボクはシノ。八代目魔王のシノだよ」
すると少女はむくりと起き上がって。
「私はミコト。勇者ミコト。何代目かは忘れたわ」
…勇者は代替わりも多いし、数えてもいないだろう。
「にしても斬りかかってきた相手を許すなんて、ずいぶんと甘いのね。私を殺そうとは思わないの?」
「…戦争は絶対ダメだけど、ボクに挑むことは禁じていないんだよ。こっちにも事情があるからね」
不可解、といった表情の少女。
「やっぱり変わり者ね」
キミの方がよっぽど変わり者だと思うんだけど。
「ご飯、とても美味しかったわ。ありがとう」
刀を握りしめ立ち上がる少女。
窓を開け放ち、こちらへ振り返って。
「またいつか会いましょう」
少女はそのまま飛び出して、どこかへ行ってしまった。
...せめて元の服に着替えてから行って欲しかったなぁ。




